Medical Tribune 2002年5月 23日 30ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
メーリングリストの活用 長所と短所を熟知すべき
小児科領域などで活発に利用
メーリングリストとは,複数の人たちがある電子メールアドレスにメールを送ると,リストに登録している人たち全員に,その内容が一斉配信されるという仕組みを利用した,インターネットならではの受配信システムです。(図1)疾病関連のメーリングリストは,日本にも数多く存在します。細かいグループも含めると数百以上あると推測されます。なお,参加資格は,そのメーリングリストの管理者の考え方により,まちまちです。ある特定の目的を持った医師たちだけが参加するメーリングリストもあれば,人数が少ないほうが議論しやすいことから人数を増やさないという方針や,一般には公開しないという方針を持つ管理者が運営するメーリングリストもあります。
小児科領域や獣医関連の領域では,メーリングリストはより活発に利用されているという話を聞いたことがあります。おそらく,小児科疾患では,まれな病気の患児を受け持った主治医が専門家とコンタクトを取ることが難しい場合が多いため,患児を経験し治療に成功した例などの話を参考として聴くには,メーリングリストが便利な媒体なのでしょう。掲示板などへの書き込みですと,相談したい医師がその内容を見てくれるかどうかはわかりませんが,メーリングリストであれば,タイトルに相談したい疾患名を付けておけば,それを見て興味ある専門医が中身をのぞき,返事を書く確立が高いからです。
禁煙指導では成功例
奈良女子大学保健管理センターの高橋裕子先生が主宰されている「禁煙マラソン」(http://www2u.biglobe.ne.jp/kin-en/)も有名です。(図2)タバコを吸いたくなったとき,このメーリングリストを出すと,数多くの禁煙中の人たちから,「私はこうして乗り切りました」との応援が届き,その結果,禁煙欲が抑制されるとのことです。禁煙欲が起こるのは,数分から1時間以内での問題ですから,仲間からアドバイスを聞けるのは,衝動を止めるのに大きな効果があるようです。禁煙成功率は非常に高いとのことで,メーリングリストの特徴を上手に生かした良い例ではないかと思います。
同じような衝動にかられる病気としては,過食症や飲酒の問題を,メーリングリストを利用し患者指導に応用できないだろうか,という試みが考えられます。過食や飲酒をしたいと思ったときにメールを出して,友達から,「そんなに食べたらふとるよ、」,「そんなに飲んだらアルコール中毒になるよ」と注意されれば,過食や飲酒も止まるという仮説が考えられるからです。しかし,そうした実験を試みようとしたメーリングリストや掲示板などシステムも過去にはありましたが,成功しているという話は聞きません。
理由としては,喫煙はパソコンの前,仕事場,自宅といったインターネットを利用できる環境で行われる事が多いので,禁煙したい人も,同じ時間帯にメールを書ける環境にいると考えられます。ところが,飲酒ですと帰宅途中とか帰宅後の団らんとか,インターネットを利用できる時間にする人は少ないわけです。過食の場合も,お菓子を食べている環境とインターネットを使う環境は離れている場合が多いので,メーリングリストによって過食の衝動を止めることは難しいと思われます。
そう考えてみると,禁煙指導は特殊な状況下での患者指導であり,禁煙指導においてのメーリングリストの成功というのは,必ずしも他の患者指導でも成功を保証するものではない,ということがわかります。
ウィルス対策には要注意
メーリングリストを通じ,ウィルスの配布が起こってしまうと,大変な事態が起きます。特定の個人が被害を受けるだけでなく,非常に多くの人たちが,一斉に被害を受けるからです。困ったことに,被害が起こったことを知らせるためのお知らせにも,ウィルスが感染している可能性があります。そのため,事故を参加者に知らせられないという事態にもなり,それがさらに被害を拡大させます。困った参加者のなかには,メーリングリスト登録から脱退せざるをえないという状況になった人もいるようです。
例えば,症例検討などを目的としたメーリングリストでは,せっかくの症例について相談する機会が,ウィルスによって遮られることになったりするのは,熱意を持って参加している人たちの意欲に水を差す,残念な事態だと思います。
また,信用の置けないホームページが運営するメーリングリストに登録するときには,要注意です。個人情報が悪徳業者に利用されて,ウィルスが付いた不審なメールが届かないとも限りません。ですから,そうした危険性があるときには,頻繁に利用する電子メールアドレスは登録せずに,サーバーを経由した電子メールシステムで取得したアドレスを利用するという手段があります。
例えば,マイクロソフト社が運営するHotmailなどを使い,そのメーリングリストが参加して価値あるものかを試してみるという方法があるでしょう。
また,Hotmailなどの電子メールの送受信では,サーバーそのものにウィルス対策機能が具備されていますから,自動的に駆除してくれるということです。
あるいは,あるメーリングリスト会員のある医師が,「ウィルスメール対策に割かれる時間や労力を考えて,Windowsを利用しないで,あえてMacintoshを利用している」という意見を述べていました。確かに,マイノリティーのOSを利用すれば,攻撃する側が関心を示しにくく,その分、利用者側は攻撃を受けにくくなり安全かもしれません。
“バトル”が起こりうる
メーリングリストを使って個人的な内容を話す人がいます。そういう内容が電子メールで届くと,その人に対してだけアドバイスを返信したくなることがあります。しかし,そうした場合,そのアドバイスが他の人全員に届いてしまうということを忘れて返事を書いてしまうと,個々人で議論すべき内容が多くの人に知られるところとなり,問題が起こりやいのです。特に,メーリングリストの仕組みを理解していない人がいる場合とか,あるいは内容的にメーリングリストとしてふさわしい内容なのか,個人あての手紙なのか,それが不明なような内容を送受信している場合には,トラブルは起こりやすくなります。
また,“バトル”と呼ばれる意見の衝突もよく起こります。本来であれば,数人で衝突し口論すればよいものを,多くの人たちの知る場所で衝突することがあります。これも,不愉快な内容のメールがたびたび届くという事態を引き越します。匿名で情報交換しているようなメーリングリストですと,当事者同士だけでバトルしてもらいたくても,匿名なので管理者は当事者の電子メールアドレスを相手に教えるわけにはいきません。ですから,やむなく全員に配布せざるをえなくなるわけです。
さらに,会員が多過ぎるため,いろいろな議論が飛び交って収拾がつかないようになるメーリングリストも困ります。電子メールを読んでいても,いつ始まった議論なのかわからなくなり,主旨や議論の展開がわかりにくくなります。ですから,メーリングリストの参加者は,多くても300人くらいが限度ではないか,と私自身は考えています。
メーリングリストをつくりたい場合には
あるテーマについて,メーリングリストをつくって管理者になり,いろいろな議論をしてみたいと希望する人もいると思います。そうした場合には,メーリングリストをつくるためのソフト(Majordomoというソフトが有名)を使って自分で立ち上げる場合や,プロバイダーが提供しているサービスなどを利用して立ち上げる場合などがあります。
一般に,後者のほうが安く簡単に利用できるようになると思いますので,お勧めします。前者の方法では,わざわざ自分でサーバーを用意し,プログラムを組んだりするのは大変ですし,手間がかかる仕事です。プログラムのミスによって,メーリングリストがループとなって,同じ内容を掲載した何通ものメールが何度も送られてくるという事態も起こりえます。
そうした危険性を解除できるように,メーリングリストという仕組みに参加するときには,参加者も管理者も,その仕組みの長所と短所,あるいは危険性を熟知し,メリットだけを享受できるようにしていく努力が必要です。