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臨床とインターネットの接点⑮

Medical Tribune 2002年6月27日 46ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士




一斉メール配信の活用 PullからPushの時代に

個人情報の漏洩に注意

 インターネットを利用する人たちの手元には,日々,さまざまな電子メール配信(メールマガジンと呼ぶ場合もあります)が届いていると思います。例えば,小泉内閣メールマガジンは有名です。こうしたメール配信は,配信元が保有するリスト,つまり,個人情報に当たる電子メールアドレスをもとに,一斉に電子メールを送るという行為を配信元が行っているため,受信者に一斉に届くわけです。

 一斉に何通送るかによって異なりますが,理論的には電子メールを扱える人であればだれもが運営者(配信元)になることが可能です。例えば対象者が数百人程度であれば,通常のメールソフト(Outlook ExpressやEudoraProなど)を使って,だれもが一斉配信を行うことができます。医師会,研究会,患者会,などでの一斉配信には,必要な機能としてはメールソフトで十分だと 思います。ただし,メールソフトのBCC機能を使って,相手側に配信者リストを教えないように注意しましょう。もしメールソフトのCCとBCCの機能の違いを理解しないで,CCを使い配信をすると,受信側には配信をした人たちの電子メールアドレスがすべてわかってしまいます。(図1)これは個人情報の漏洩になり,配信元は大変なミスを犯したことになります。

 例えば,病院が通院患者に対し,善意で病院からのお知らせというメール配信サービスを行ったとします。もしその際,誤ってCCを使ってしまい,患者個人の電子メールアドレスが付いてきてしまったら,どうなるでしょう。ある電子メールアドレスの持ち主がその病院に通院中の患者で,なんらかの病気を持っていることが不特定多数の人間にわかってしまい,大問題になります。もしそれが特定の専門病院からの配信であれば,病気を特定することも可能になります。個人の秘密を厳守しなくてはいけない医療機関としては,大失態と言えるでしょう。

配信人数により手段を変えるべき

 数千人といった多くの人たちに,一斉配信したいという場合になると,通常のメールソフトでは管理が困難です。メールアドレスの間違いや変更をした人のメールがunknownという形のメールとして配信元に戻ってきて、修正変更手続きだけで大変な作業になるからです。その場合は,メール配信専用プログラムソフトの応用が考えられます(図2)。

 ただし,そのような汎用プログラムソフトを使う場合には,高い性能を持ち大量なメモリーを搭載してあるパソコン(PC)が必要になります。なぜなら,PCの機能異常で配信が停止してしまうことがあるからです。例えば,6000人に送るつもりで配信をしていても3000人くらいでオーバーフローし,登録者リストの最初の3000人には配信されたけれど,残りの3000人には届いていない,という事態が起こりえます。全員に届いていないことになると,もし受信側が患者であれば,お知らせを聞いている患者と聞いていない患者がいることになり,臨床現場での混乱を招く原因になるかもしれません。

 業務用で1万人以上の人たちに一斉配信を行うには,メール配信を専門に受託するサービスを活用するのが,最も安全です。例えば,インターネット接続プロバイダーから提供されている例としては,Pubzineというようなサービスを利用すれば費用はかかりますが,上記のようなトラブルを起こす心配はなく,安心して配信業務を依頼することができます。ただし,その場合でも,患者の個人情報の取り扱いに厳重な注意が必要であることはいうまでもありません。

「転送」により付加的効果

 例えば,メール配信を3万通も配信できる状態を繰り返していると,その3万通が時には5万通の価値を持つ情報伝達となり拡大することに気が付くことがあります。一般に封筒などを使った「郵便」の場合には,「転送」という行為は簡単ではありません。しかし「電子メール」の場合には,1つのニュースを配信すると,受信者が内容を読み,その電子メールを友人に「転送」することは大変簡単に行われます。受信者から「友人」へと情報が「転送」伝達され続けると,配信元としては3万人に送ったはずの情報が5万人の目に触れるということもあるのです。さらに,もし受け取った人がメーリングリストを通じ会員に配信すると,そこでさらに拡大配布され,受け手が増えていきます。つまり,メールを使ったお知らせは,①だれもが低コストで配信元になれる②受け手はすぐにそれを転送できる③メーリングリストなどによって,さらに広めることが容易であるーなどの理由から,紙媒体などを利用したお知らせ以上の付加的効果を及ぼしうる道具なのです。

 こうした利点があるためか,最近ではメール配信を中心に活動を展開している医学関連の学会が,目に付くようになりました。私は,米国糖尿病学会(ADA)

に会員登録していますが,最近になってたくさんのメール配信を受けるようになってきました。そして,ホームページを見に行く回数も,メールの受信回数とともに増えてきています。特に最近では,ADAがHTMLメール形式のメール配信を送ってくれます。そこでは画像ファイルもメールにレイアウトされてきますので,あたかもADAnホームページが,そのまま送られてきているような感覚を受けます。

Push機能を使いこなそう

 ホームページを運用している側の立場から考えれば,これまではPull,つまり受け手をホームページに引きつけるという活動に注力していたのだと思います。ところが,最近ではそれが変化し,Push,つまり,受け手に対し情報を送り届けるという行為の方が大事になってきているのです。

 学会などに限らず,医院,病院などにおいても,ホームページはつくったけれども,次は何をしたら良いのか,わからないで困っているIT担当者が多くいると思います。その悩みは,ホームページをつくっただけではPullだけのサービスで,実際にはPushのサービスを活用していないということに起因するのかもしれません。ですから,今後はPullとPushをうまく組み合わせ,ホームページにおける情報発信によるメリットを,さらに有効活用することを考えるべきだ,と思います(図3)。

 特に,学会や医療機関や製薬企業は,Push機能を上手に使いこなすことによって,会員や通院患者,医療関係者に対するサービスの向上に成功することでしょう。そのためにも,「個人のプライバシーを守り,何万人にでも安心して一斉配信サービスができる」という基本的な配信システムのインフラ構築が,日本の医療業界の現場において今後,求められてくると考えます。

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