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臨床とインターネットの接点⑬

Medical Tribune 2002年4月25日 30ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

学会参加や論文投稿 米国では IT化が着実に進行

学術集会 申込みシステムの進歩

 米国糖尿病学会(ADA)のホームページでは「参加登録は3月1日まで」とあったのでネット経由で登録を済ませました。登録をクレジットカード決済で済ませ,手続きが終わったと思ってほっとし,次へのボタンを押すと,「ホテルの予約をしますか?」と質問するページが現れました。おやっと,思ったら先に登録したIDが表示され,ホテルの予約データシステムにデータが引き継がれることに対する同意を求める内容が現れます。つまり、データベース(DB)連携,あるいはリレーショナルデータベースという概念を利用し,学術集会参加登録時と同じ整理番号でホテルの予約が可能になるように設定されているのです。すごいな,と感心しながらのぞいてみると,ホテルの地図,ホテルと会場までの距離やホテルの空き室などもチェックできました。驚いたことに,会場近郊のホテルはほとんど満室状態で,慌てて申し込みをすませました。

 このようなシステムができると,旅行会社に委託し,ぎりぎりまでホテルが決まらないというようなトラブルはなくなります。確認メールも1回の登録ごとに配信されますから,確認しながら記録を残せます。情報が一元化されているので,万が一トラブルが起こっても,学会事務局に連絡し整理番号(ID)を言うだけなので助かります。また,申し込んだ日時も明確にデータベースに残されるので,早く申し込んだ人から優先的に,学会場に近くて便利なホテルを確保できるというルールが享受できます。逆に,インターネットを活用できない学会員は,高いお金を旅行代理店に支払って,会場から遠いホテルに高い費用で宿泊しなくてはならないわけです。

 このように,複数のデータベースを連携するシステム,つまりリレーショナルデータベースが構築されると,サービスの質は高まり,インターネットの利用価値を相乗的に高めてくれます。米国の状況を見ると,今後,医学関連の学会の登録申し込み,整理番号の確認,決済,ホテルの予約,確認用のメール配信,カスタマーサポートセンターといった複数のデータベースが一元管理される潮流が,日本でも起こってくるだろうと考えられます。

リッチテキストの知識が必要

 海外への論文投稿の手続きも,大きく様変わりしました。ADAへの投稿はインターネットが主流となりました。Information for Authorsを読み,内容を理解し,手順に沿って必要事項を記載したうえで,最終原稿をリッチテキスト形式の文書データや画像ファイル(JPEG形式やGIF形式など)にして,ネットを通じて納める(Upload)ようにします。

 リッチテキスト形式とは,最近使う機会が増えてきたファイル保存形式ですので,通常のテキスト形式との違いをよく理解しておいたほうがよいでしょう。簡単に説明すると,テキスト形式は,単に文字情報のみを保持します。それに対してリッチテキスト形式は,文字の大きさ,色といった属性も持てます。いわゆるホームページを作るような感覚で,本文を修飾できる形式です。この形式は様々なエディタで保存でき,かつ開けるという利点があります。Macintoshを使っても,Windowsを使っていても大丈夫です。また,通常の形式(バイナリ形式と呼ばれる)で文書を保存したファイルには,ウィルスが感染している恐れがあります。もし,そのファイルを学会のサーバにUploadして、万が一,そのウィルスがそのサーバ内に保管されている文書すべてに感染し,破壊してしまう事態が起こってしまったら大問題です。これに対しリッチテキスト形式は,ウィルスが侵入しにくいという点も特徴です。

 ただし,日本語エディタなどで作成した文書をUploadする場合に,ギリシャ文字(例えばμなど)や,単位記号の℃が文字化けすることがあります。あるいは,±が+と表示されることはあります。日本語フォントでスペースが入っていて,日本語エディタでは空白に見える(つまり,見えない空間がある)のですが,英語用エディタで見ると,それが@@として表示されることもあります。つまり,リッチテキスト形式でも,文書変換における落とし穴があることを知っておかないと,学会事務局に無駄な作業をお願いすることになります。このように,学会雑誌への投稿1つをとっても,インターネットの基礎知識のみならず,文書ファイル形式,              HTML言語窓の基礎知識を,医師が持っていることが必要条件とされる時代になってきました。

確認がメールで連絡される

 ADAでは,投稿論文が受理されると,すぐさま編集部管理者から電子メールが届きます。その電子メールに記載されているURLをクリックし,関連ホームページにアクセスし,投稿論文がどのような扱いになっているかを見ると,受理された内容の最終確認をすることができます。投稿者にとっては安心が確保でき,ありがたいシステムだと思います。他人がそれを閲覧できないように,電子メールにはその論文特定のIDとパスワ-ドが記載されており,その電子メールを受けた人しか閲覧できないようになっていて便利です。

 ところが「共著者のサイン内容を送っていない場合は,もう一度ファックスで送りなさい」という指示が電子メールの内容に記載されています。「自分としてはファックスを投稿時に送ったつもりだが,もしかして届いていないのだろうか」という不安がよぎります。ホームページのどこを見ても,ファックスが受理されたのか,受理されていないのかのチェックをする場所が見つかりません。このように,電子メールとファックスという2つの異なる媒体を利用し,二重手続きがあると不便な思いをします。しかし,もしこれが先月号で紹介したICカードなどによる本人認証が可能になり,共著者からの承諾を得ており,かつ,それが間違いなく共著者であるという本人確認ができたとみなされれば,インターネットだけでサインと同等の意義を持つ送受信が可能になります。そうなると,ファックスが不要という時代になるかもしれません。このように,海外の先端システムといってもまだ多少の不便さはありますが,それも認証技術などの進歩によって,いつかは解消されるでしょう。

ネット投稿は雑誌の価値をも左右する

 いつでも,どこからでも投稿でき,高い国際郵便手数料を支払わなくてすみ,かつ編集部とも1日のタイムラグでやり取りできるという点からも,海外学会雑誌への投稿には,今後はインターネット投稿を選択する医師が増えていくことでしょう。もし同じような分野で同じ種類の,同じような格付けの医学雑誌が2つあって,どちらに投稿しようかと迷う場合、インターネット投稿システムを持つ学術雑誌のほうが便利なので,まずは,その雑誌に投稿してみようと考える医師も少なくないかもしれません。そうなると,インターネット投稿システムを持つ学術雑誌の人気が高くなり,購買者層も広がり,インパクトファクターが高くなることも考えられます。このように,インターネットを使った論文投稿システムは,学会雑誌の「格付け」にまで影響する可能性が出てくると思います。

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