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プラスαのインターネット活用術22

Medical Tribune 2000年7月13日 ©️医学博士 鈴木吉彦

広まるインターネット 人と人とがダイレクトに結ばれる時代に

 日本はこれまで、企業や政府が圧倒的な情報量と市場統制力を独占してきた工業社会であったと言えます。しかし、インターネットがつくり出す社会は、消費者が強い発言力を持つ社会になってゆきます。この流れは止まることなく、どんどん進んでいくでしょう。

 それによって、例えばインターネットを利用する人たちが、企業や学会などのホームページの掲示板に意見を貼り付けてしまうかもしれません。医療業界においても、医薬品や医療機器などの製品批判から、大学教授への反論、批判まで、あらゆる「草の根の声」が社会の表面にすぐに出てきてしまう可能性があります。そうした危険性をよく考えてからシステムをつくらないと、トラブルばかりを起こすシステムができあがることでしょう。

評論家の介在が不要に

 サッカーの中田選手は、口数が少ないけれど、ホームページを通じて多くの発言をしています。ローマへの移籍も、テレビや雑誌などのマスメディアを通じないで、インターネットを利用し、自分自身で、自分の言葉で発表しました。

 これまでは、こうしたスター選手の発言は、テレビや新聞などのレポーターがそれを聞き、評論を加えながら、加工された形で報道されていました。しかし、それでは発言者の意図が誤解されたり曲解されたりする恐れがあります。ところが、インターネットであれば発言者あるいは著者自身自ら自分の言葉で世界に発言の意図を公開できるのです。その意味では、インターネットが広まる時代というのは、評論家が不要になる時代です。

 同じようなことが世界でも起こるでしょう。例えば、これまでは医療現場の事情を知るには、雑誌記者が取材し、それをまとめてレポートするのが普通でした。しかし、インターネットを利用すれば、医療の現場にいる医師、ナース、薬剤師、栄養士など医療間傾斜が、自らの言葉で発言する機会があります。それだけ迅速に、正確な情報を伝えることが可能になるのです。

医学系出版社の役割が変化

 ですから、これまで出版社の役割もそれに伴って変化していくでしょう。昔のように教授の退官記念に本を出版するという傾向は、どんどん薄れていくことでしょう。逆に、本当に必要とされている情報を発信している医師の発言や考え方を出版物にする、という点に興味や関心が注がれるようになるでしょう。インターネット世界での多くの医師たちの発言のなかから、出版社は、筆者としてふさわしい医師を探し出し、選び、本や雑誌の原稿の執筆を依頼するようになるかもしれません。その意味では、インターネットでの医師の発言は、出版社にとってみれば、執筆者の格好のリクルーティングの場になるでしょう。

 このように、医学系の出版社がインターネットで見つけた良質の情報を持つ医師に依頼し、本をつくり出版する、というビジネスモデルができてくる可能性が高いと思います。インターネットで人気が出た内容ですから、書籍の携帯でも売れるはずです。雑誌も売り上げは部数を伸ばし購読者数を増やせるはずです。インターネットで知ったから本や雑誌を買う人の方が多いでしょう(インターネットで話題になってから、リアルの社会の媒体の人気が出るというのは米国でも最近、特に注目される現象です。最近の例で言えば、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」という映画がありました。この映画は、インターネットのバーチャル社会での話題が広がり、それによって、リアル社会の映画が成功した例です)。

1日で製品の価値が判断できる

 米国の人気ホラー作家、スティーブン・キング氏が新作をインターネットだけで配信したところ、初日だけで約40万部が販売されました。米国では、これまで人気作家でも1日に書店で売れるのは最高で約7万部とされていましたが、インターネットでは、その5倍以上の威力があることを示された、と報告されています。ソニーの人気アイボもプレイステーションも同じように、インターネットでの発売当初、数分で完売したという記録があったり、注文が多過ぎてインターネットがつながらなくなったという現象が見られました(アイボは当初、インターネットだけで販売を始めました)。

 これまで、新製品を発売しても人気商品となるかどうかを知るまでには、数ヶ月も掛かっていましたが、インターネットを利用することにより、人気があるかないか、売れるか売れないかが、数日で結論が出るのです。良い製品をつくれば、1日にして長者になり、悪い製品をつくれば、1日にして脱落者になることがわかるということです。インターネットを利用すると、人気がある製品は、1日にして莫大な利益を得、これまでの開発費を回収することができるようになります。すると、次の製品が作りやすくなるのです。

「この医療機器は何分で売り切れました」

 例えば、新しい医療機器や医薬品を、あえてインターネットだけで発表したとします。プリントメディアで告知しておくと、雑誌などで情報を得てしまった人はインターネットの内容を見ませんから、あえてプリントメディアには宣伝をしないようにするわけです。ですから、まず最初はインターネットだけで告知することが大切です。

 すると、その後、1日にどのくらいの医師たちが訪問してくれるか、ページのアクセス数を見れば、その医薬品の人気が分かるわけです。ですから、医療機器会社や製薬企業にとっては、その製品がどの程度期待されているかどうかが1日にしてわかります。すると、その製品についての次のプロモーションを考えやすくなるのです。その時点で、ターゲットを絞り、プリントメディアを選別し、雑誌などに広告をするというマーケティングのモデルができてくるかもしれません。

 また、もし医療機器などをインターネットで注文をすることが可能になれば、プレイステーションやアイボと同じように、「この医療機器は何分で売り切れました」という人気の医療機器が出てくるかもしれません。これは、特に、医療機器などの物流を主とする会社にとっては、驚きのシステムとなるでしょう。また、それは同時に、既存の流通に対する脅威ともなるかもしれません。

 このように、インターネットによって、発言者の声、あるいは、利用者の意見が、直ちにじかに、いつでも、どこからでも、反映させられるような仕組みがつくれるのです。そして、これがこれからの物流主流となるとすれば、大きく日本の医療界を進歩させる原動力となっていくことでしょう。これに対し、日本の医療業界は、どのような方向性を打ち出していくべきなのか、学会、企業、協会、病院経営など、いろいろな状況下において、これから判断を迫られる事態が起こってくることでしょう。

 もし、このインターネットの技術を、誤った方向に進めたり、詐欺まがいの考え方を持つ会社に利用されるようになったら、大変なことになります。それだけは、絶対に阻止しなくてはなりません。最近、私は、医師としてインターネットをどう正しい方向に進めていくべきか、そういうことばかりを考える機会が多くなってきました。

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