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臨床とインターネットの接点㉘

Medical Tribune 2003年7月24日 47ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

インターネットと医療関連特許①

特許庁のホームページを活用する

臨床家も論文でなく特許として業績を残す

 医学研究をしていると、さまざまな発見があります。それを「発明」と考えて特許とし、独自の技術によってできる商品を特許申請し、それが認められれば「特許権利者」になれます。権利者になれば、その技術が商品化されたとき、特許使用料、あるいは企業と契約し、契約に従って実施料を得ることができるようになります。臨床家の場合、新しい発見をしたときには、「患者のために広く利用してもらいたい」と思うのがこれまでは常識でした。そのため、特許にせず学会発表をし、一般社会に対して周知の事実にしようと考えがちでした。雑誌に投稿するほうが優先で、特許を取得しようと考える医師は、きわめて少なかったと思います。

 私の場合、糖尿病患者が血糖値を自己測定するために指先以外の痛みの少ない場所から採血する方法(Alternative Blood Sampling method;ABSM)を考案し、Lancetに発表したのが1992年でした(Lancet 1992;339:816-817)。しかしそのときは、日本では周囲のだれにも注目してもらえませんでした。その後、ABSMシステムを実現するデバイスを考案し、東京女子医科大学糖尿病センター所長の平田幸正教授(当時)に相談したところ、「将来、自分のアイデアとして企業と対等に交渉するためには、特許・実用新案として申請しておいたほうがよい」との助言をいただきました。教授の助言をきっかけに、初めての経験でしたが思い切って申請しました。それから10年の歳月がたち、現在、世界中で糖尿病の血糖自己測定分野ではABSMシステムが普及しました。そのデバイスを私が世界で最初に発案したという「証拠」は、論文としてではなく、特許として残っています。 

特許の検索が容易に

 特許・実用新案の事例を検索するのは、インターネットがない時代は大変な作業でした。私の場合は、勤務していた病院で1日休暇を取り、特許庁の閲覧室を訪ね、分厚い本を1ページずつめくって調べたものでした。たいへんな作業で、1日で終わる作業ではありませんでした。ところが、インターネットの普及によって、特許・実用新案などの検索は、きわめて簡単になりました。例えば、上記の私の特許について例示してみます。

 まず、特許庁のホームページのなかから特許電子図書館(IPDL)のコーナーを開きます(図1)。

そこではさまざまな方法で検索が可能ですが、例えば、「初心者向け検索へ」をクリックし、さらに「特許・実用新案を検索する」に入って私の名前を入力すると、特許が19件、実用新案が5件存在することが表示されます。そこで、「一覧表示」をクリックすると、私の特許・実用新案の公開番号/登録番号、発明の名称の一覧が表示されます(図2)。

前述した内容は、このなかの実用新案公開平06-066632をクリックすると、閲覧できるようになっています。この申請がきっかけで、現在、世界中の糖尿病患者の血糖自己採血が指以外の場所からできる採血器具として、Microlet Vaculanceという商品が市販されています。

特許庁の方針が変化

 これまで、特許とは「発明品」という“モノ”を対象にした権利でしたが、バイオテクノロジーや最先端医療の急激な進歩によって、特許の概念が大きく変わろうとしています。特許庁も、治療法などの医療技術に特許を認める方針を固めたようです。その背景には、米国の特許戦略が世界中に影響を与えたことがあります。特に1980年、米特許商標庁が遺伝子組み換え技術を特許として認めたのが大きなきっかけになり、スタンフォード大学などは多額の利益を得ており、そうした前例が増えてくることによって、バイオテクノロジー関連の特許取得の働きは、今後加速されていくでしょう。その流れを後押しする技術として、前述の特許・実用新案のホームページの利便性は、多大な貢献をしていくだろうと思います。

医療行為も特許対象の流れに

 わが国の特許庁は、特許・実用新案審査基準において「人間を手術、治療又は診断する方法は、通常、医師又は医師の指示を受けた者が人間に対し手術、治療又は診断を実施する方法であり、いわゆる“医療行為”といわれるもので、これは産業上利用することができる発明に該当しない」ものとして特許法の要件を満たさないという運用がなされてきました。しかし、遺伝子治療などの臨床試験が成功するなどの時代の流れによって、遺伝子医薬品や細胞治療においては、産業化を保護しなければ企業は本腰を入れるはずもなく、そのためには独占・非独占は別にしても、これらの特許の使用権を明確に申請者が確保できるようにしておく必要があります。もし、現行のようなわが国の特許法が続くなら、有望な産業の育成を阻み、欧米とのバイオ競争に勝つことは難しくなってしまうでしょう。

 このような論議は、特許庁のホームページで、「特許法」と「医療行為」という2つのキーワードを入れてホームページ内を検索すると、特許制度に関するさまざまな小委員会の議事録が閲覧できます(図3)。その内容を読むと、医療分野における特許の規制が今後、わが国でどのように取り扱われるかを確認することができます。(次回号に続く)

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