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臨床とインターネットの接点㉙

Medical Tribune 2003年8月28日 28ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

インターネットと医療関連特許② 

インターネットを利用して特許申請する

ITを利用したアイデアは特許になりやすい

 医療分野は、特許出願の宝庫と言ってもよい分野であるかもしれません。従来、日本の牽引力となっていた電子部門関係の発明・特許が低迷するなかで、今後は日本の知的財産戦略を担う分野として、医療分野の役割が注目されています。では、もし今後、医師の医療行為を特許として認められやすくした場合、どのようなメリットとデメリットが起こるのでしょうか。

 まず、申請者のメリットとしては、ある医療行為を考案した医師がそれを独占してしまい、他の医師は実施できないという事態が考えられます。しかし、そうなるとその医療方法が普及せず、その医師はかえって患者に不信感を抱かれかねません。また、よい医療だとは認めていても、それを利用することによって特許権侵害で責任を問われることを懸念するあまり、患者の治療をちゅうちょするなどといった影響が出るかもしれません。つまり、特許取得者の医師においてはメリットになることが、それ以外の医師にとっては、おおむねデメリットになってしまうという心配があるわけです。

 また、研究の分野では、特許申請するために新規性のある論文投稿が遅れてしまうことも研究者としての悩みの種で、それは医学研究上のデメリットと言えるかもしれません。しかし特許法第30条により、6か月以前までに学術発表や刊行物などにより開示されたものなどは新規性を失わないことになっているので、救済策としては担保されているようです。

 前回は、医療行為としての発明は、特許にはなりにくいという解説をしました。しかし、その審査基準は必ずしも徹底されているものではありません。ある治療法や器機、理論を開発したとして、それが医療上の診断方法と判断されると、医療行為上での発案ということで否定されますが、同じ目的を持った内容でも、「装置」という概念にすると特許審査の対象になる場合があります。例えば、ある遺伝子がある特定の病気と関係し、その情報を知ることによって病気を予防できるというアイデアは特許にはなりにくいようです。しかし、病気を予防するために、遺伝子を調べることに意義があり、その「装置」を開発するということになると特許審査の対象になる場合があります。つまり、「医療行為ではなく医療工学」という見方が可能であれば、比較的、特許として成立する可能性も高いようです。

e-Learningを利用した特許も

 ところで、日本には優れた電気産業技術があるので、それらを応用して、創造的で革新的な診断・治療法につながる医療機器やビジネスモデル特許が生まれる素地はたくさんあるわけです。特に最近は、遠隔医療サービス関連に伴う分野で特許出願が急激に増加しているのは興味深い点です。つまり、インターネットの普及に伴い、あるいは電子カルテの普及に伴い、通信ネットワークを利用したさまざまな形式の医療サービスが登場しているのですが、これは上述したように、医療行為というより医療工学に近い分野なので新しい特許が生まれやすいのかもしれません。その内容としては、「データおよび診断結果などをITを応用して送・受診する方法」、「バーチャルリアリティーを利用した疾患の予防および治療システム」など、具体的な技術が特許となりやすいようです。また、遠隔医療サービスに関する特許出願が増加した背景には、2000年を前後にインターネットや携帯電話などの個人通信が日常化したことを受けて、基盤通信網を医療サービスに活用しようというアイデアが増加したために、出願件数が増えたものではないかと考えられます。

 さらに今後は、e-Learningを利用した特許も増えてくることが考えられます。特に、医師にとっては産業医研修会や、認定医研修会などへ参加するためには、休日を利用して出席しなくてはなりません。もし、インターネットを利用して、研修会に出席することと同じような環境がつくれたら、ふだんの日でも研修を受けられ、かつ「認定シール」も自宅にいながらにして受け取れます。そこで私は、多くの医師がインターネットによる認定システムを享受できるようにと、新しいアイデアを考えました。その内容は、特許庁のホームページで、既に要約内容が公開されております(特許公開2003-141267:発明者;鈴木吉彦、他2人)。種々の事情により、詳細をこの紙面で説明することはできませんが、人体認証システムを利用してインターネットで講義を受けた人が、本当に本人であるかどうかを確認するのです。

 このシステムを利用すると、e-Learningの講義(バーチャル講習会)においても、本人しか参加できません。だれかが代理出席して、「認定シール」をもらうことはできません。医師が考えたビジネスモデルの一例として参考にしてもらえたら、と思います。ただし、このような特許は、もともとは医療現場から発生したアイデアであっても、多分野に広く応用できる可能性があります。ですから本来、医療に役立つためにと考案した内容でも、特許として申請する場合には、あえて医療分野に限定しないほうがよいようです。

パスワードプロテクトを付けよう

 特許を申請しようとする場合、特許に関する文章ファイルはこれまではファックスで送られることが多かったのですが、利便性の面から、今後は電子メールで医師と弁理士とがやりとりする場合が増えてくると思います。その場合、普通のメールのやりとりで文書を送受信してしまうと、メールを受け取るプロバイダーのサーバー(メールサーバー)に文書が保存され、第三者の目に触れないとは限りません。もし、意図的に、弁理士のメールをやりとりするサーバーをねらって検索すれば、たくさんのアイデアが盛り込まれた内容の文章ファイルが見つかるかもしれません。ハッカーがそのサーバーをねらって侵入し、特許内容を閲覧してしまうかもしれません。プロバイダー管理者やハッカーのみならず、送受信のパソコン(PC)をだれかと共有している場合、あるいはPCのアクセスにパスワードプロテクトをしていない場合、PCを使える人であれば、だれもが内容を閲覧できます。そのような危惧をなくすためにも、文書ファイル自体に、パスワードプロテクトを付けておくことをお勧めします。

 例えば、マイクロソフト社のword文書を利用するときの方法は、「1.文書を開きます。2.〔ファイル〕メニューの〔名前を付けて保存〕をクリックします。3.〔ファイル名を付けて保存〕ダイアログボックスで、〔ツール〕メニューの〔全般オプション〕をクリックします。4.〔読み取りパスワード〕ボックスにパスワードを入力し、〔OK〕をクリックします。5.〔読み取りパスワードをもう一度入力してください〕ボックスにパスワードをもう一度入力し、〔OK〕をクリックします。6.〔保存〕をクリックします」という方法を用います。弁理士にはあらかじめ電話で、この文書を開くためのパスワードを口頭で伝えておきます(図)。

そうすれば、特許の内容は、特許出願人である自分と担当弁理士しか目を通せないことになります。この方法は、他人に見られたくない医学論文文書ファイルなどを医師同士で電子メールを介してやりとりする場合などにも利用できますので、ぜひ一度は試しておいたほうがよいと思います。

 ただし、時間がたってしまうと、パスワードを当事者同士が忘れてしまって文書ファイルを自分自身が開けなくなることもあります。そのため、できあがった特許は申請後にコピーとして紙で印刷したものを保存しておき、そのなかに、ひそかに(自分だけにわかるように)パスワードを書いておけば安心です。

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 医療におけるビジネスモデル特許について、メールマガジンを配信してくれるサービスもあります。しかし、自分の関心がある特許内容ばかりが配信されるとは限りません。実際には、医療分野は広いので、それぞれの分野の専門医以外にとっては、ほとんど関心のない内容ばかりかもしれません。私の場合、糖尿病が専門ですが、糖尿病治療に関する特許というのが掲載されてくるのはまれでしょう。役立つのは、やはり医療器具や製薬企業などの特許申請担当者や開発担当者などの人たちだと思います。

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