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臨床とインターネットの接点㉗

Medical Tribune 2003年6月26日 44ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

ITによる診療時間と場所の公開 

医師の世界に健全な実力主義を導入

人気のある医師と人気のない医師の待遇は平等か

 これまで大学や病院の医師たちは、それぞれの施設の人事権を持つ人の意向によってアルバイト先を決められ、派遣されることが多かったと思います。しかし、それでは高い地位にある医師が、楽で時給の高いアルバイトを選択することが多くなるに違いありません。後輩に譲るのは条件が悪いアルバイトになります。

 ところが、長年、熱心に仕事を続けていると、高い地位にいなくても実力が付いてきます。その実力によって人気や評判に差が出てきて、患者が行列をつくる外来を担当する医師がいる一方、患者が付かない医師も出てきます。前者の医師を人気がある医師、後者の医師を人気がない医師と定義すると、人気がある医師と人気がない医師とで、年俸に差を付けている医療施設の経営者は少なくないでしょう。むしろ、人気がある医師ほど臨床が多忙で病院内での政治的活動ができなくなります。患者をたくさん診察しているにもかかわらず、病院のなかでは冷遇されているという友人の医師の話を聞くのはまれではありません。

 患者にとっては、できるだけ優れた医師、人気の高い医師に診察して欲しいと思うのは当然の心理です。その場合、これまでだと、その医師がいる大病院や大学病院の外来を受診するしか方法はない、と患者は思っていました。ですから、人気のある医師ほど、外来は混雑して午前の外来が午後までずれ込み、1人当たりの診療時間が短くなるという医療行為としては好ましくない現象が生まれるわけです。また、人気があっても、それによって年俸が変わらないとしたら、人気がない医師のほうが優遇されているといっても過言ではないかもしれません。

医師のアルバイトを裁量労働制に切り替えては?

 ITを利用することによって、こうした問題を根本的に変える方法があるのではないかと考えました。つまり、人気のある医師は高いレベルの医療を行って正当な医療報酬を得る力があるのですから、時間給で報酬をもらうのではなく、診察空間を借りて医療行為を行い、利益を得た分から約束した報酬をもらう、つまり「歩合制のアルバイト」というコンセプトをまず前提として考えてみるのです。

 例えば、「私は、月曜日の午前と午後はある疾患で有名な病院の外来で専門的な治療をするための診療をしています。しかし、火曜日と木曜日の午前は診療所で専門外来をしています。そこでは、おもに軽症の患者さんを中心に。慢性疾患向けの指導をしています。診療所のほうが混雑していないし、待ち時間も短く、糖尿病の場合であれば、迅速に血糖値が測定できるので、患者さんとゆっくりとお話ができる時間があります」などと、自分が診察を担当している医療施設の場所や時間をホームページを利用して、多くの患者に情報発信するのです(図)。

 そうした具体的な情報がわかれば、患者は主治医に診てもらうためには、いつどこに行って受診したらよいかを、いろいろ比較検討することでしょう。選択肢は、患者の重症度によっても変わってくるでしょう。例えば、軽症段階の病気(初期の糖尿病や高血圧、高脂血症など)は、3時間待って3分診療で診てもらうほどのものではありません。そのような場合には、その医師のアルバイト先である診療所を受診し、待ち時間が短く、ゆったりとした相談時間を取って、診察してもらうことを患者は望むのではないかと思います。逆に、病気が重くなれば、同じ医師が週に1日外来を担当している設備の整った病院で診察してもらうほうを選択するでしょう。あるいは、1人の医師が待つ2つの職場を上手に使いわけて利用する患者が増えてくるかもしれません。糖尿病の場合であれば、血糖コントロールが落ち着いている間は診療所で診てもらい、合併症のチェックなどは病院で診てもらうなどと、使い分けることができます。

患者・医師双方にメリット

 このシステムは、患者側と医師側の双方にメリットがあります。患者は何時間も待たないと診察を受けられない大病院で待つ必要がなくなります。人気のある医師が診療所で外来を持っている日時に予約を取って、そこで診察してもらえばよいわけです。慢性疾患については、医師が変わらなければ、指導方針が変わることはほとんどありません。また、病人にとって、病院で待つのは身体的苦痛が大きいものです。待ち時間が短縮されることを喜ばない患者はいないでしょう。特別養護老人ホームの車いすで通院している患者が、診察を受けるためだけに半日以上、時間をつぶされることがありますが、そのような苦労も半減することでしょう。さらに、ビジネスマンにとって半日を病院でつぶされるのはたいへんな時間的損失です。病院の待ち時間のために時間をつぶすようなことを繰り返していると、リストラの対象者にされかねません。そうした患者にとっては、受診したい医師がいくつかの診察日時を公開し、選択できるようにしてくれれば、たいへんに喜ばしいことでしょう。

 アルバイトに行く医師側にとってもメリットがあります。診療所と医師との間の契約は、歩合制を原則とした「裁量労働制」の契約関係にしておけばよいわけです。従来、医師が大学病院から診療所や他の医療施設にアルバイト派遣されるときの条件は、「時給制」がほとんどだったと思います。それが「裁量労働制」の契約になれば、人気がある医師には、多くの患者が診察を希望するわけですから、時給制よりも高額なアルバイト料を得ることができるはずです。診療所側にとっても利益が還元されるわけですから、アルバイト料を収入に合わせて増やしても損にはなりません。逆に、暇そうに論文を読んで時間をつぶしているアルバイト医師が減ってくれるのは経営上助かります。裁量労働制の契約になれば、そういう医師に支払うアルバイト料は少なくてすみます。そうなると、皆がしっかり仕事をしなくてはならないという意識を持つわけですから、医師および患者、かつ経営者も適度の緊張関係を持つことになり、それが健全な医師のアルバイトの姿をつくることにつながるのではないかと考えます。

高額でも優れた医師に診察してほしい

 手塚治虫原作の漫画『ブラックジャック』は、医師の実力主義の世界を誇帳して表した世界ではなかったかと思います。「私に手術をして欲しければ、2,000万円を用意してください」というようなブラックジャックの医師としての姿勢は、国民皆医療保険制度の整備された日本では、漫画とはいえ、昔は驚いた台詞でした。しかし最近では、患者の3割負担も当然のこととなり、医療にお金がかかるのが当たり前の時代になってきました。そうなると、多少高い金額を支払っても、優れた医師、人気のある医師に診察して欲しいと思う感覚に対して、違和感がなくなってくるかもしれません。

 ブラックジャックのような医師とコンタクトを取るためには、どうしたらよいのか、ブラックジャックのような医師はいつどこにいて診察をしてくれるのか、昔は患者がそれを探す術はありませんでした。ですから、ブラックジャックは漫画のなかでの仮想人物でした。ところが、インターネットが発展すれば、優秀な医師たちは率先してインターネットを利用し、自分の居場所(働き場所)と診療時間を患者に教えることができるのです。患者もインターネットを利用して、積極的に優秀な医師の診療場所と診療時間を知ることができるのです。人気がある医師はこれからは、自分でホームページをつくり、患者に上手に情報発信していく技さえ身につければ、ブラックジャックのように、より高い収入を得られるようになるでしょう。

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