特集―病院情報システム新次元―
インターネットを医療関係者の、みんなのために
新医療 2000年7月号 100-103ページ ©️鈴木吉彦 医学博士
インターネットは日本中に浸透し、医療世界を変える、とまでいわれる段階に発展しいてきた。しかし、医療の本質的な部分に対する解決策を提案し、あるいは業務支援などの技術となるまでには、未だ解決しなくてはいけない問題も多い。本稿では、そうしたインターネットを医療社会に浸透させていくための実験を、Mediproというホームページで行ってきた経過を示したものである。
インターネットは、今後の世界を変える重要な社会基盤(インフラストラクチャー)になります。インターネット通信ネットワークの設備が進み、現在の電話やテレビ並みの普及率を達成すると、その時代にはコンピュータ、通信、情報家電、出版、放送メディアなどが統合した産業、いわゆるIT(information technology)業界と呼ばれる産業が急激に発達することになるでしょう。そして、これが医療分野に普及することで、高度の情報伝達が可能になり、さまざまなシステムにおいて、大きな変革をもたらすことでしょう。
Mediproは、医療情報のポータルサイト
So-netは、ソニーコミュニケーションネットワークが運営するインターネット接続プロバイダー(Internet service provider:ISPと呼ばれます)事業のサービス名です。So-netのGeneral Managerとなりました私は、医療情報について、So-netというISPの有利性を活用しながら、医療関係者にとって使いやすい、便利な、1つの大きな情報の街を作ろうと考えました。
多くの健康医療関連の書籍出版社や製薬企業と一緒に、情報を整理し、質を管理し、アクセスしやすくしたり、見つけやすくするたっめといった努力を続け、それによって、情報が集まる街、つまり、インターネット上での仮想協力都市を構築してきました。それが、Mediproです(Mediprotとは、Medical Professionの略です。http://www.so-net.ne.jp/medipro/) (図1)。
こうした地道な街作りの作業が認められて、2000年1月には、Mediproは、約70社が集合する仮想協力都市空間になりました。その結果、医療関係者にとって役立つデジタル・医学コンテンツの非常に多くのものが、「Medipro」の中に集約し、利用者にとっては便利な空間になりました。
このホームページには、文献検索や、医学関連の専門的なニュースが多数集約されているだけではなく、学会、公的情報から求人求職まで、日本における医療関係者にとって必要な情報が、各方面から集められてきています。医学関係者の方々であれば、必ず役立つ情報ばかりです。日本における代表的な医学雑誌や医学コンテンツのほとんどがMediproに集結し始めている、といっても過言ではありません。
そして、医学分野においては、世界で最初の試みといってもBroadVision社のOne-To-Oneシステムを利用し、カスタマイズした画面やシステムの構築をも行っています。このシステムにより、医療関係者限定の空間の構築も可能になりました。
医療関係者限定の情報を利用するには、MRからサービスコードを入手する
Mediproは、ITを使って、広く医療の貢献のために尽くしたいと考えて、始めたのがきっかけです。そして、その基本姿勢は、医療のために、患者さんのために、という根本的な方針で運営してきました。ソネットの内のスタッフも増え、また、各出版社、各製薬企業の担当者の方々も含めると、総勢で150名以上の方々と連携プレイを取りながら、My Mediproから医療情報発信をしていることになります。日々会員数も増え、月3000名の速度で加入者も増えています。多くの皆様から期待もよせられています。
Mediproには、多くの製薬企業が情報を提供しています。現在、情報を提供している製薬企業だけでも、増え続けてきました。My Mediproの利用のためには、表1にある製薬企業のMRからサービスコードを手渡しで入手する必要があります。
「MR君」の誕生
1999年初旬から、提携製薬企業の数社から、MRの仕事の非効率性の問題を何とかインターネットを利用して解決できないものか?という相談を受けるようになりました。そこで、現実社会(リアル)のMRが、インターネット上で仮想(バーチャル)のMRを操作できる、という仕組みのバージョンMRを作ってはどうか、と発想したのが、新システム「MR君」(図2)です。
「MR君」とは?
「MR君」とは、My Mediproの画面の上で、表示されるべき、MR個人個人のメッセージバナーを利用し、医師とMRがコミュニケーションをとるためのシステムのことです。My Mediproが持つOne-To-Oneという機能を生かし、1人の医師に対して、複数のMR君がメッセージバナーを表示させることができる、というのが基本原理です。
医師は、このMR君をクリックすることで、新薬の情報や、研究会の案内、新しい文献や知見などを入手することができるようになります。医師は、病院では、こうした情報はMRから廊下などで入手してきましたが、そいした物理的、時間的に制限されたシステムでの医師とMRとの情報のやり取りは非効率的でした。医師は、パンフレットをもらっても捨ててしまうことも多いですし、時間ができて、新薬の情報を改めて見たい時にはパンフレットが手元にないことが多い、という問題もありました。MRは、往々にして、医師が薬品情報を入手したい、と考える時には連絡がつかないことが多いのです。
これに対し、「MR君」は、リアル社会のMRの仕事を助けるものです。いつでも医師はMR君を通じて、リアルのMRをコールすることができるようになります。また、バーチャルの「MR君」は、リアル社会のMRの仕事を奪ってしまうものではないというように設計してあります。リアル社会のMRの仕事が怠慢であれば、仮想社会のMR君も怠慢になってしまいます。しかし、リアル社会のMRの仕事が優れていれば、バーチャルのMR君は、それを援助してくれる、リアル社会のMRの活動をさらに優れさせてくれる、というシステムの構図になっています。
つまり、リアルMRとバーチャルMRの両者が、接点を見つけて、上手にリアルMRがバーチャルMRを活用していくことにこそ、価値がでてくるようになっています。リアル社会のMRが、インターネットにおける「MR君」を、どう利用していくか、というのは、リアル社会のMRの意識改革を迫ることになるかもしれません(図3)。
MR君が持つ、医師にとっての意義
医師は常に患者さんのことを考えています。目の前にいる患者さんの病気を治したい、といつも考えているのが、医師です。医師が、病気を治したいと考える時に、そのための手段が薬であり、MRが医師にもってきてくれる薬の情報は、医師にとって、病気を治すためには、非常に重要な情報であるわけです。ですから、医師はMRに、できるだけ頻繁に訪問してほしい、より詳しい薬品情報を入れてほしいと、考えています。しかも、患者の病態は、日々、変化しますから、もたもたしていると、遅れて届いた薬品情報は役に立ちません。患者の治療に必要な薬品情報を医師はできるだけ迅速にもってきてほしい、とMRに要求するのは、そのためです。
しかし、どんな優秀なMRえあっても、従来のシステムでは、MRは、医師に、迅速に情報を渡すことが難しかったわけです。東京では交通渋滞もあります。駐車場の料金だって、日々に利用しりとなると、製薬企業にとって大変な金額になります。しかし、それをバーチャルの「MR君」でインターネットの時空を超えた双方向性という特徴を生かして、情報伝達を行えば問題は解決します。
なぜなら、情報交換が極めて迅速に行えるようになり、MRは廊下で待つ必要がなくなり、医師も廊下でパンフレットを受け取る必要がなくなるからです。インターネットさえ利用できるところであれば、いつでも、どこにいても。医師は薬品情報をバーチャルのMRから入手できるようになるからです。
つまり、医師は「MR君」を活用することで、必要な時に必要な情報をOn Demandで、すぐに入手できる、ということが可能になります。それにより、患者を迅速に治せることになり、患者のみならず、医師にもナースにも、あるいは医療費の軽減にも繋がることにより、国家にも、すべての人にとって幸せをもたらしうるのです。また「MR君」が社会に浸透し、医師に最先端の情報を届けてくれることになれば、医療知識水準の向上や治療システムの改善に繋がるのではないか、と考えます。
MR君は医師の判断で設定できる
もしMRが医師に電子メールで薬品の宣伝めいた文言を送ったとしたら、医師は、自宅の郵便ポストに、薬品の宣伝めいた手紙が置いていった、という印象を持つことでょう。つまり医師は、プライバシーを侵害された、という意識を強く持ちます。ところが「MR君」では、My Mediproに医師が訪問した時に、その医師を認識して、One-To-Oneシステムという技術を利用して特定のMRが画面に現れるようにするシステムです。ですから、まず、医師がMy Mediproを訪問するということで、MRと連絡を取りたいという意思を示します。つまり、連絡を取りたいか取りたくないか、を決める選択権は医師側にあります。ですから、医師はプライバシーを侵害された、という意識が少ないはずです。
もし電子メールで、薬品のメッセージを送っても、医師は、日々、多くの電子メールをもらう時代になると、そうしたメッセージは、電子メールの受信箱に埋もれてしまうだけでしょう。ジャンクメールと間違われて、捨ててしまわれやすくなります。
ところが、「MR君」は、そのメッセージ自体が。製薬企業に関する情報であることを医師はあらかじめ理解しています。ですから、ジャンクメールと間違うことはありません。普段、親しくしているMRが、インターネットで顔を出しているのです。ですから、単なるタイトルだけのMRからのメールよりも、安心してメッセージを開くことができます。
電子メールを製薬企業のMRが医師に送って、何らかのインターネット上にある画面を見てもらおうとすると、メール内にオープンサイトのURLを記入しいなくてはなりません。これに対し、My Mediproの「MR君」をクリックしたリンク先は、医療関係者限定の空間に設定できます。ですから、MRは医師に安心して医薬品情報を見せることができるようになります。
開業医や地方の医師にとって、詳しい薬品情報を届けられる「MR君」
東京などの都会の病院で勤務している医師には、MRは多くアクセスしてくれますが、地方の開業医の医師たちには、MRはあまり訪問してくれないと言います。そのために、地方で働いている開業医や診察患者数が少ない病院では、製薬企業から薬品についての詳しい説明を受けたくても、MRは、なかなか訪問してくれません。リアルのMSだけしか訪問しないという場合も多いようです。 しかし、「MR君」あるいは「MS君」を利用すると、開業医でも、どんな地域で働いている医師でも、自分が選択した製薬企業、あるいは薬品流通企業から、学術的な、最新の詳しい情報を入手することが可能になります。医療情報、薬品情報を、日本全国に広く平等に、仮想MRあるいは仮想MSから医師へ伝達するということが実現できることになります。これは、地方の医師の情報不足に対する不満の解決にも繋がることでしょう。
高速インターネット時代が到来。数十億個のインターネットテレビ局ができる
日本では、2000年の夏から、一斉に高速インターネットサービスが開花します。500kdps以上のaDSLやケーブルインターネットが可能になると、動画配信も自由になります。また、ソニーが独自に行うWireless Local Loop(WLL)という無線インターネットシステムは、月額15万円で1.5Mbpsの高速インターネット回線を確保できます。それによって、製薬企業や病院でも、誰もがTV放送局を持てるようになってしまいます(図4)。定額制ですから、インターネットは使い放題ですし、使わないと損をしますから、インターネットのActive User人口は、どんどん増えていくことでしょう。
さらに、インターネット電話が始まると、従来の電話機能は使い放題になってしまうでしょう。インターネットを利用した電話があれば、海外と電話しても電話料がかかりませんし、電話カンファレンスも可能になります。「MR君」を利用してアポイントをとった医師とMRとが、約束した時刻に高速インターネットに接続されたPCの前に座り、インターネット双方向性テレビを利用しながら、画像や音声などで、薬品の情報をやりとりする時代が、すぐにそこにきているのです。
Mediproは、そうした時代になった時に、医療関係者のみんなが必要で、誰でもが便利だと感じてもらえるシステムを構築していきたいと考えています。そしてこの情報伝達の高速化は、治療を早め、患者を早く退院させることになるでしょう。病院側にとっては医療費の節約にもつながるでしょう。インターネットを上手に使いこなした医師は、常に最新情報を入手し最先端の医療を行えますから、人気がでて、多くの患者さんが診療を希望する時代がくることでしょう。
このように、インターネットから生まれる恩恵を正しく活用すれば、医療界にとって、多くのメリットを提供できるはずだと考えています。その意味で、これからも。まじめに、Mediproを通じて、医療情報とインターネット、という課題について追究していきたいと考えています。