Medical Tribune 2004年3月25日 44ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
インターネットにおける個人認証
社会の変化により不便あるいは重要に
個人認証が不要になってきた製薬企業のホームページ
独自でポータルサイトを確立塩、独自性を打ち出しながら運用している製薬企業が多く見られるようになったのは、好ましい傾向です。製薬企業が提供するサービスには、バラエティーに富んだ内容が多く、それをブックマークしておくだけでも、外来診療に役立つことがしばしばあります。一方、最近では、医療関係者のホームページを訪問するのに、多くの企業がIDやパスワードを要求しなくなりました。個人認証システムが外れたわけです。医療関係者かどうかという質問に、「はい」というボタンを押せば同意が取れたとみなし、それ以降に閲覧できる内容については、医療関係者がいることを前提に除法開示され、非常にアクセスしやすくなりました。一部の製薬企業はいまだプロテクトをかけていますが、それもいずれ、開放される方向に傾くと思います。
というのは、製薬企業が医薬品情報を自社のホームページ内で認証プロテクトしたとしても、一方では、図1のような医薬品情報提供ホームページ(htttp://www.pharmasys.gr.jp/)があるからです。このホームページでは、我が国の医薬品添付文書がほとんど掲載されており、だれもが医薬品情報にアクセスできます。したがって、製薬企業が自社のホームページにプロダクトをかけても、ほとんど意味がなくなってきていると言えるでしょう。社会の変化で情報公開が推進されてきた結果と考えられます。
医師のプライバシー保護が容易に
筆者の場合も、最近では図1のホームページにブックマークを付け、日常臨床において医薬品情報で困ったときには、このホームページの検索機能を利用し迅速に対応しています。このホームページを利用するか、あるいはプロテクトをかけていない製薬企業の医療関係者ホームページを利用するかは、その時々の判断によります。製薬企業の胃医療関係者向けのホームページが、より詳しい情報が得られる場合もあるからです。しかし、プロテクトがかけてある製薬企業のホームページでは、入手したい情報が得られずいら立ちが増すようになり、臨床現場でも支障を来すようになりました。外来診療が滞らないよう、臨床家としては、製薬企業や医療機器関連企業に、いち早く認証によるプロテクトを外して欲しいと思うようになりました。
また、個人認証が外れることによって、医師にとって不安材料が1つ減ります。インターネットの世界ではIDとパスワードを入れてホームページにアクセスすると、どのような人が、いつ、何人、どこにアクセスしたかが、あるいはその個人を認証し、その人がそのなかでどのような行動を取ったのかが、ホームページの管理者側には容易に把握されてしまいます。個人認証を外すという風潮になってきたということは、そうした医師に対する行動調査ができなくなったことを意味します。それによって医師のプライバシーが保護しやすくなったことは重要なことです。
個人認証が重要になってきた日本医師会のホームページ
これに対して、医師のインターネット上での個人認証がこれまで以上に重要になってくるだろうと予測される分野があります。それは生涯教育に関する分野です。最近のニュースですが、日本医師会の生涯教育委員会では、現在任意で行われている日医の生涯教育について義務化して徹底を図るべきとの考えを示したとのことです(これまで医師の生涯教育は自己申告が中心でした)。義務を終了したときには総括的評価を受けることになり、「日本生涯教育認証医」の資格を認定させることになります(『日本医事新報』2004年2月21日より)。
もし、そのような提言が実現の方向に進むなら、土日や夕方を利用して講習会に参加するために移動しなくてはならず、たいへんな努力が必要となります。その問題に対し期待されるのがインターネットの活用です。日本医師会では、ホームページ(http://www.med.or.jp/)のなかで、2006年6月から生涯教育をインターネットでも行えるようにし、1年で約1万1,000人がアクセスしているとのことです。動画、音声、スライドなどを使った学習プログラムが提供されています(図2)。
特に利便性が高いのは、オンラインジャーナルの検索システムです。「日本医師会雑誌」を書棚に残しておくと、すぐに雑誌の山になってしまいます。ところが、日医雑誌on-lineを利用すると、必要な医学情報がすぐに検索できます。最近の医学情報について必要な情報がすぐに発見でき利用できる点が、たいへんに便利です(図3)。
テレビ番組『話題の医学』(テレビ東京)は、早朝に放送されるので見逃しやすいのですが、日本医師会のホームページでは、オンデマンドで映像を視聴できます。臨床研修についても、動画などを見ながら学習することができるようになるのですから、実地医療においても大きく貢献すると考えられます。『話題の医学』に限らず、医療関係者向け講演会・講習会などの動画配信の企画に多くの製薬企業が支援してくれれば、さらに利便性が高いものになることでしょう。
もし、医師の生涯教育が義務化され、要件を満たした受講者には日本医師会生涯教育認定単位が付与されることになると、講習会に参加するのが難しい医師たちは(例えば遠隔地に住む医療関係者など)、生涯教育認定資格の更新にインターネットを使ったE-Learninigをおおいに利用することでしょう。その場合、もしインターネット経由で試験を受けるようなシステムになれば、IDとパスワード、つまり個人認証は、試験を受けるために重要なかぎ(受講者が本人であることを特定する手段)になります。他人に教えてしまって悪用されれば、生涯教育認定医の資格が更新できなくなるかもしれません。ですから、日本医師会のホームページについては、今後、IDとパスワードを使った個人認証の管理は、より重要になってくるかと思います。
期待される生涯教育におけるインターネットの役割
このように、インターネットの進歩とともに、あるいは社会的情勢の情報公開などの趨勢や状況変化とともに、医師としての個人認証が不要になったりと、各ホームページが持っている社会的役割に応じて、個人認証の持つ意義が変化していくようになりました。特に今後は、医師の生涯教育制度が転換期を迎えている時期であることからも、生涯教育の分野においてのインターネットの発展が期待されます。あるいは遠隔医療、遠隔医学教育などの分野での応用も盛んになっていくことでしょう。私も、今後は、生涯教育や遠隔医療といった分野でのインターネット活用というテーマにおいて、注力し研究を続けていきたいと考えております。