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プラスαのインターネット活用術46

Medical Tribune 2001年1月11日 40ページ ©鈴木吉彦 医学博士

インターネットで医学を独学

オンラインで試験

文部省の統計によると、独自ドメインを取得してインターネットへの接続を行っている大学は、国公立では約100%で、私立で約97%、短大では、国立、公立、私立の順に100%、75%、61%と報告されています。インターネット接続を64kbps以下とする組織は、かなり数が減少し、全体的に接続速度の環境は高速化しつつあるようです。インターネットによるオンラインセミナー提供を今後予定している組織を含めると約63%が考えているということです(インプレス『インターネット白書』より)。

前号で解説したように、オンラインセミナーが実現すると、大学の講座もインターネットで受講できるようになります。インターネット大学という概念も誕生してきます。講義やテストなどの連絡事項はオンラインでのカレンダーや掲示板、メーリングリストを活用することで簡便化できます。教科書も、デジタル化したWord文書ファイルやPDFなどをダウンロードさせることで配布できます。学生のほうも、レポートをデジタルデータにし、大学のサーバに格納して提出することも可能になります。海外で大学との相互のコミュニケーションがリアルタイムででき、資料の交換もできます。

海外では各講座をオンラインで調べて登録することもでき、電子メールで教師へ質問ができる教室も多くあります。さらに、小テストや期末テストも、オンラインで回答する方式が採用されていたり、電子メールによるレポート提出が義務付けられたり、さまざまな工夫がなされているようです。あるいは予想問題をネットで公開し、それを勉強してきた学生は、本番の試験で有利になるという状況にして、勉学を促している学校もあるようです。

米国ではスタンフォード、コロンビアなどの有名大学は、オンラインコースの内容をインターネットで提供し、学位プログラムなど、さまざまなプログラムがあるようです。既存の大学組織で運営している遠隔教育と、複数の大学が連合し授業の単位を相互に交換している場合など、さまざま運営方式があります。具体的な実績としては、スタンフォード大学では、約800人の学生が、オンラインによる学位取得プログラムに参加しているようです(ASCII,vol.24,2000より)。

興味深いのは、大学によっては、受講料は無料ですが、教材はオンラインストアでの購入が義務付けられているということです。そのことで採算性を保っているコースもあるというのは米国らしいな、と感心してしまいます。なお、日本人が米国の大学の学位取得プログラムに出願する場合は、TOEFLなどの得点の提出が要求されることもあるようです。

反復学習が可能

実際の大学の教室で、教授に英語で1回だけの講座として話されるとわからない内容も、インターネットの上で、文章やオンデマンドの動画による講座で何度も受講すれば、わかりにくかった英語も理解できることもあります。

前号で、私がインフルエンザのオンラインセミナー(http:www.so-net.ne.jp/vivre/influenza/roche/)を見たときの最初の印象は、何度でも聞き直せる点が便利であると感じた、と述べましたが、米国のオンライン講座を受講する人たちも、同じような印象を受けているようです。インターネットによるオンライン学習は、反復学習ができ、その分、身に付きやすいという点で、メリットが多いのです。しかし、オンラインセミナーばかりの世界になると、半面、人間性のある付き合いやヒューマンタッチがなくなるとう欠点も出てきます。行き詰ったとき、苦しいときに教授かは励ましてもらう、ということがなくなるかもしれません。そういうメンタルな問題で、講座の継続を断念する人も少なくはないようです。

また、時間制限のあるテストを受ける場合は、インターネットの接続環境が高速化していないと、イライラしますし、テスト時間が減ってしまいます。ですから、オンライン学習をし、オンラインでテストを受けるには、自宅をできるだけ高速のインターネット環境にしておきましょう。なお、一方でダウンロードに時間が掛かるという問題を解決するために、CD-ROM配布という方式も考えられています。しかし、OSが異なると使えないとか、本連載の41回目と42回目で解説したように、CD-ROMには、さまざまな問題があるので普及は難しいでしょう。

ネット上でCMEの認定を受ける

こういう時代になると、あえて外国に留学する必要性も少なくなるでしょうか。留学の意義はなくなるでしょうか。それは、まだ現段階では否定的だと思います。なぜならば、オンライン学位取得者数が増えてきて、オンライン学習がきちんとした権威あるものでないと、社会には認められないからです。したがって、どのような基準があれば大学の権威となるべき学位になるのか、それが議論される時代になってくるでしょう。しかし、“勉強は大学という建物のなか”という物理的な制約がなくなり、世界中のどこにいても、いつでも勉強ができることは、医師にとっては生涯教育に役立つシステムになるはずです。米国では、インターネット上で取得できる医学のためのCME(continuous medical education)というシステムがあります。Medscapeのホームページを訪問すると、CMEというマークがついている項目があります。このCMEのマークについてはAll activities marked “CME” have been planned and implemented in accordance with the Essential Areas and Policies of the Accreditation Council for Continuing Medical Education (ACCME), and have been produced in collaboration with ACCME-accredited CME providers. とありますから、ACCMEという組織が認定しているようです。

Medscapeのホームページのなかでは、CMEマークがある講座を熟読し、Take the Testをクリックすると、複数選択の質問、回答、批評(critique)が表示されます。質問に回答すると、「submit(提出する)」を押します。正解率が70%以上であると、satisfactory、つまり合格ラインに到達するので、その後はそのコースを評価するフォームを提出するという手順が必要になります。例えば、第17回国際糖尿病学会のホームページを訪問すると、7つの学会サマリーがありますが、そのうちの5つがCMEの指定になっています。さらに詳しいCMEについての内容は、CMeGateway(http://www.cmegateway.com/)に解説があります。

自己学習ができる日米の医学コーナー

医学に関する自己学習ができるページを持つホームページは日本にも米国にも多くあります。日本で有名なのは、日本医事新報社が運営している「質疑応答」です。Web版もあり、過去のデータベースから分野別に選りすぐった内容を週変わりで掲載しています。米国ではMedscapeのExam Roomが有名です。医師のための自己研さん・学習コーナーです。「今日の質問」は、毎日、医学に関する問題をMedscape側が作成し、それを読者に「質問」という形式で聞いています。「今週の超音波」では、2人のMDが編集担当となり、超音波画像診断をベースとした症例検討会形式のコーナーです。

「今週の心電図」は、3人のMDが症例を提示し問題を作成しています。特定の心電図が提示され、診断を求められます。「今週の画像診断」は、各種の医学雑誌から画像診断に関連した記事を選別し、そのなかから画像と現病歴とで、診断を下せるかどうかのテストを行うコーナーです。「画像診断検討」は、異常と考える画像の一部をクリックし、異常部位が正しくクリックされればcorrectという回答が表示され、その病態に対する説明が表示されます。「Orlean検討会」は、4つの教育プログラムに沿って感染症の専門家が運営するカンファレンスです。「今月のバグ」は、Bug of the monthという雑誌のコーナーから抜粋で、感染症の自己学習コーナーです。「PC内視鏡クリニック」は、消化器病センターからの症例が中心ンで毎月1例の検討がなされています。「泌尿器科症例検討」では2か月に1回、症例検討がなされています。質問を交えた、専門性の高い議論がなされています。「脳神経画像診断検討」では、雑誌Neurologyから症例検討のための質問と回答が抜粋されています。「病理学症例検討」は病理画像が提示され質疑応答があります。「産婦人科症例検討」ではMedscape Women’s Healthから症例検討内容からの抜粋ですが、正解や不正解の根拠が示されています。さらに、「投票(voting)」という仕組みもあり、議論が分かれるような意見や質問について、参加者がどのような意見を持っているかをインターネット上で集め(gathering)、その結果を公開していくというものです。Medscapeは、この仕組みを数年前からスタートさせました。

ただし、同一者による重複投票をブロックできているか、という点は、問題です。MyMediproでは、時々アンケートを行いますが、One-To-One技術うを利用すると、だれが投票したかを記憶させておくことが可能なので、重複投票を抑止し、より厳密な投票が可能になります。Medscapeの内容を日本人の医師に対して質問したら、どういう反応が戻ってくるかを調べることで、日米の医師の意識調査をし、その違いがわかるなど、興味深い調査が可能になるかもしれません。この「投票」の機能は」、将来は、MyMediproでも採用したい仕組みです。

さらに、米国の大学や学会などのホームページでも、症例検討のコーナーを設けているものもあります。例えば、American College of Cardiology (http://www.acc.org/)を参照していただきたいと思います。Echo of the Month, ECC of the Month, Challenges From the Elderly Heart, Promote Your Educational Programs Onlineなどが、フロントページに掲載されています。日本の学会や医師会や大学のホームページで、このような自己学習コーナーを前面に掲示しているのはまれです。しかし、きちんと会員だけの認証システムが構築され、その認証空間のなかに、このような自己学習コーナーが設けられれば、会員や学生も勉強になり、また、学会や医師会や大学がホームページを運営することの意義も高まることになるかと思います。

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