Medical Tribune 2000年3月2日 18ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
インターネットで病気を追体験 患者が相互に助け合う
入院して大部屋に入ると、同じ病気を持っている人がいて、よく相談に乗ってくれる事があります。それは、同じ病気を持つ人が先に経験したことを、病気のうえでは、後輩にあたる新しい患者に教えてくれるのです。
初めて病気を持った時は、この病気を抱えながら自分の人生はどうなっていくのだろうと、不安が大きいのは当然です。そうした時期に病気の先輩から指針を示してもらうことは励みになります。
また、病気の先輩は、後輩の姿から、みんなが同じ体験をするのだろうということを確認する事ができるでしょう。逆に、病気の後輩は自分に起こってくることは特殊ではなく、みんなが辿った道なのだということを理解できることになるでしょう。
こうした両者の「確認」は、それがまた両者にとっての精神的な救いや助けになるはずです。「ある患者の体験を、別の患者が追体験していく」という現象は、これまではあまり見られませんでした。見られたとしても、同じ病院の同じ病室に入院し、仲良くなった人同士が、退院後にも連絡を取り合う、といった程度のものでした。
しかし、普通は退院後でもこうした交流を長続きさせることは簡単ではありません。ところが、インターネットを利用すると患者同士の掲示板や電子メール、あるいはチャットなどを利用し、同じ病気に悩む多くの人の体験を継続的に追体験できるようになります。必要なのはインターネットに接続できる環境だけです。実際の患者同士が、そばにいる必要はありません。こうして、病気の先輩、後輩となった人たちは、その病気が続く間、お互いの関係を長く継続させていく事ができます。入院とか退院とかは関係がなくなります。退院後も良い関係を継続できます。こうした関係を維持することは、慢性疾患(糖尿病、高血圧、HIV感染症やエイズなど)を持つ場合には、役立つことになるでしょう。
介護をインターネットが支援
これからの日本は、高齢社会になり、介護が必要な高齢者が増えてきます。精神的なサポートを多くの高齢者に対して行うのは大変な作業量で、人件費もかかります。一人一人の患者に対し、きめ細かいサポートを行うだけの医師やナースの数を日本の医療制度では揃えられないでしょう。
日本では介護保険制度がこれから充実していくでしょうが、それでも、充実されるのは物理的および経済的な介護の側面が中心です。
精神的な側面はどのようにしたらサポートできるのか、問題になる時代がやってくるでしょう。そういう時代になった時、インターネットは患者たちを精神的な面から助ける大事な道具になるに違いありません。
患者同士が医師の立場になり、相互補助を行いながら励まし合う事が可能になれば、国家が莫大な医療費をかけなくても、一人ひとりの親切や努力によって充実した医療福祉国家をつくれる事でしょう。