Medical Tribune 2000年3月9日 18ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
“ネット留学“海外留学の意義を変える
インターネット大国の米国では、大学にネット講座が解説され、学位を取得できるようになっています。学位が目的でない講座から、修士、博士などの学位を取得できる講座まで様々なコースがあるようです。最近では校舎を持たないネット上だけの大学も計画されています。
なお、医学分野ではジョンズホプキンス大学には公衆衛生学、ヂュケイン大学には看護学で、修士を取得できるプログラムがあります。今後、臨床分野においても、同様のプログラムが広がると思われます。こうした現象はインターネットの双方向性機能を生かしたもので、チャットや討論機能を使えば、授業を受ける形式を模倣できるために実現したものです。例えば、講義で教授から情報を提供してもらうだけでなく、学生が教授に質問したり、学生同士がチャットで討論したり、という形式ができるようになっています。今は文字情報だけですが、インターネット回線が高速になれば、音声や動画を通じた仕組みをつくるのは、それほど難しいことではなくなります。
日本にいて“共同研究”も
これまで医学の分野では、海外に留学する事が一つのステータスになっていました。留学には、海外に住む事で新技術や考え方に触れることの他に、英語の論文を書くための訓練、という目的もあり、メリットになると考えられていました。その背景には、電話やファクシミリでは時間差の問題や、一方向性の情報伝達しかできないという問題があり、海外の教授や医師とのタイムリーな共同研究や討論の場を持つ事が難しかったからです。
しかし、インターネットが広まり、わざわざ海外に行かなくても共同研究が楽にできるようになりました。英語の論文を書いて、海外の教授にチェックしてもらうのも、日本にいる時と同じ手間や速度で可能になりました。ですから、滞在費を負担してまで留学をする必要性はなくなります。
むしろ、日本にいる方が、研究費を集めやすかったり、症例や血液サンプルを増やしやすかったりして、成果を上げやすい分だけ論文も早く書けます。留学をしている時間はもったいない、という医師も増えてくるでしょう。むしろ、インターネットを通じて海外の医師と研究し、「ネット留学」という形で学位を取る医師が生まれてくるかも知れません。このように今後インターネットは、医学領域において、大学などの教育分野でも大きな改革をもたらしていくことになるでしょう。