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臨床とインターネットの接点㉝

Medical Tribune 2003年12月25日 40ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

ITによるミッドナイトメディシン

市場や法体制を様変わりさせる可能性も

ドン・キホーテと保健同人社が示した新たな医療需要

 今年8月、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」が深夜にインターネットあるいはISDNを利用したテレビ電話を使って、医薬品の提供を始め(当初は販売)、医薬品販売を巡る見解がマスコミでクローズアップされました(図1)。7月に小泉純一郎首相は「安全に特に問題のない医薬品すべてについて薬局以外で販売できるように」と裁断し、厚生労働省が検討に入っていることが背景にあるようです。ドン・キホーテ側の主張は、各店舗の医薬品コーナーと薬剤師センターをテレビ電話でつなぎ、深夜など薬剤師不在の場合にはテレビ電話を通して顧客に答えるので、利便性や安全性をより向上させうるはずであるというものです。

 このように、ITを使って遠隔的に医療情報ニーズに応えるという需要は日を増すごとに増えています。

 一方、最近話題になったサービスの1つに、家族を対象とした健康情報の配信(電話相談)サービスがあります。保健同人社では、「笑顔健康クラブ」というサービスを発表し、月額950円、または年会費9,120円で、家族5人までが電話健康相談を受けられるサービスを始めました(https://www.egao.ne.jp/)。『家庭の医学』や『薬の知識』のような活字情報提供サービスだけでなく、『電話相談サポート』をも、まとめて受けられる点が目玉です。深夜など、診療所が閉まっている時間帯に、契約した患者は医療資格を持つ相談員に電話で病状の相談だけでなく、近くの専門医や専門施設の紹介も受けられるので頼りになります。24時間対応に加え、企業を対象にした相談事業を展開してきた長年の歴史があるので、他社が模倣できないようなサービスである点にも価値があります(図2)。

 また、プロバイダー(ビッグローブ)と提携し、会員になりやすくなっている点なども工夫されています。現在は、プロバイダーに契約すると、IP電話が利用できるというサービスをよく耳にしますが、将来はプロバイダーに加入したら、医療に関する健康電話相談が無料で受けられるというような付加価値サービスが一般に広まるかもしれません。

ドン・キホーテと保健同人社の違い

 ドン・キホーテの場合も、保健同人社の「笑顔健康クラブ」の場合も、深夜など医師や薬剤師が不在な時間帯の医療(ミッドナイトメディシン)だけからの一方的な活字情報提供だけではなく、1対1のリアルタイムで対応できるサービスを付加している点においては似ています。こうした付加価値によって、かなり適切なアドバイスができることでしょう。

 さらに、保健同人社の「笑顔健康クラブ」の場合には、専門医を紹介したり、専門医に連絡を取ってくれるなどのサービスも付加されており、医師がバックアップ体勢を取っています。ドン・キホーテの場合も、薬剤師がOTC薬では対応しきれないと判断した場合は、医療機関名を紹介し、受診を促しているようです。両者のサービスが相互補完していくようになれば、さらに安全性が高い遠隔医療サービスになっていくかもしれません。

 しかし、この2つのサービスには本質的に異なる点があります。ドン・キホーテの場合には商品販売を目的としています。そのため、商品(薬剤)の使用(服薬など)によって問題が起こった場合に責任を問われます。客が買っている(手にしている)商品が本物であるかどうかを視覚で確認しておく必要があります。服薬指導も必要です。そのためには、どうしても店舗が必要であり、その店舗だけでしか使えないテレビ電話が必要になるわけです。

 一方、保健同人社の「笑顔健康クラブ」の場合には、相談自体を目的としています。商品を売るわけではないので視覚による確認も不要で、電話があればだれもが利用できます。

診療行為の規制緩和も可能?

 ところで、小泉首相は「安全性に特に問題のない医療品」と簡単に言い切っていますが、医師側や製薬企業側からすると、そのような「安直な医薬品があるのか」という反感を持たざるをえません(少なくとも筆者はそう思います)。また、もし医薬品販売についてそのような議論がまかり通るのであれば、診療行為についての規制緩和は無理なのでしょうか。

 例えば、「安全性に特に問題のない診療行為とみなされれば、診療以外でも医師は薬剤を処方できる」という内容の法律に改正することも理論的に可能にならないでしょうか。もし、そのような規制緩和ができれば、例えばある病院の勤務医が近所に住んでいる人たちに夜間頼まれて診療し、インフルエンザの予防接種をしたり、かぜをなおすくらいなら院外処方せんを書いてあげることもできます。それが医師の収入源として認められるのであれば、喜んで行う医師は少なくないでしょう。あるいは夜間に医師がテレビ電話を介して病状を聞き、そのうえで、処方せんをバイク便や速達で送ることも可能になるかもしれません。つまり、この問題は、今のところは薬剤師の仕事の範ちゅうの問題ですが、将来は医師の仕事の範ちゅうにも波及してくる可能性がないとは言えないと考えます。  こうした意見は突飛な発想のように思えるかもしれませんが、国が変われば、そうとは言えなくなる可能性もあります。例えば、北欧やカナダなどの遠隔医療が進歩している国国では、真剣に議論せれている話題です。それらの国では、医師と患者の距離がきわめて遠く、寒冷という気候条件下では、医師が患者の家に車で行く途中に豪雪に見舞われる可能性があります。もし豪雪のなかで事故に遭って、何日も発見されずにいたら、往診に行った医師が死んでしまうこともありえます。そのため、医師が遠隔的に情報をやり取りし、診療所以外でも昼夜を問わず診療行為ができるかどうかは、患者のみならず医師にとっても生死にかかわる真剣な議論になるわけです。

「タンス資格」の掘り起こしに

 一方、ドン・キホーテ式のシステムが発足した背景には、薬剤師が不足している現状もあるようです。厚生労働省によると、戦後の薬剤師国家試験の合格者数は32万人強、全体ではやく30万人いると見られ、医師の数より多いはずですから、必要な人数は賄えるだろうと推定しています。しかし実際には、薬剤師には女性が多く、出産や結婚などで職場を離れてしまうことが多いため、不足しがちなのです。せっかくの薬剤師免許も「タンス資格」になっているわけです。ですから、もしテレビ電話で薬剤師としての活動が可能になれば、自宅で仕事をこなす薬剤師が多く出てくるかもしれません。

 「タンス資格」を持つ薬剤師をどうして見つけるかという問題は、インターネットを使った転職情報サービスを活用すればすぐに克服されるでしょう。既に、主要な7つの転職情報ホームページの登録会員数は200万人を突破し、情報誌の購入者を追い抜いているようです。ですから、「タンス資格」にしている薬剤師を「電話相談薬剤師として求む」というような求人広告をネット上に出し、店舗がある近所に住んでいる薬剤師であることを条件にすれば、マッチした人材が見つかりやすくなるに違いありません。

 このように、ミッドナイトメディシンに対し、ITを応用しようとする社会的機運が高まってきたことは間違いありません。ですから、ITのさらなる進歩によって、この市場や法体制がさらに様変わりをしていくことが期待されます。

 なお、「ドン・キホーテの論争」については、12月4日になり、厚生労働省の有職者会議において、「“一定お条件を満たせば”深夜・早朝に限り、薬剤師がテレビ電話越しで顧客に服薬指導をする販売を認めることで合意した」と報道されました。今後は、“一定の条件を満たせば”ということの具体的な意味や許容範囲についての議論が巻き起こりそうです。

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