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臨床とインターネットの接点㉜

Medical Tribune 2003年11月27日 38ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

民間病院の兼業規制緩和

インターネット活用で病院経営に多大な貢献も

インターネット活用で病院経営に多大な貢献も

 総選挙が終わって小泉内閣が継続することになりました。これまでの医療制度改革も継続ということになります。そこで気になるのが、最近、話題になっている民間病院の兼業規制緩和の問題です。厚生労働省は、民間病院が本業以外の収益事業を営める「特別医療法人」となるための条件を大幅に緩和する方針です。従来、全国に30程度だった特別医療法人が、緩和によって2,000以上の病院が特別医療法人に移行できるようになるようです。また、特別医療法人は、全体の2割まで医療以外の収益事業で収入を上げることが認められます。そのなかには、医薬品や介護用品の販売、医療福祉に関する出版、医療に関する情報サービス業、医業経営相談、患者の搬送まどからクリーニング業、公衆浴場業、一般飲食店などまで、実に幅広い内容を含んでいます(日本経済新聞10月25日より)。

 病院経営を健全な状態を保つための緩和措置ということですが、全国約9,000の病院のうち、約2,000の病院が「特別医療法人」になりうるということになれば、上記のサービスは日本中に普通に認められる事業になっていくに違いありません。全体の2割までという上限をつけたのは、本業(医療)をおろそかにして、副業にのめりこまないようにというような配慮からでしょうが、もしインターネットを使った情報サービスなどの分野で、Yahoo!や楽天などのビジネスモデルを創造できる病院ができたら、自然に病院の収益を追い越す可能性も否定できません。「病院は非営利」という原則はどこまでかという議論が、規制緩和によって沸き上がりそうです。

他のネットショッピングに比べ不安少ない

 病院で上記のようなサービスが可能になるとすると、まず、医薬品・医療関連機器や介護用品の販売などの分野で、大きな変化が起きるかもしれません。医療以外の分野では、自宅のパソコンや携帯電話で自由に買い物ができるインターネットショッピングは、急激な勢いで市場が伸びています。これからお歳暮やクリスマス商戦が始まりますが、多忙な人にはインターネット購入層が急激に増えているようです。店頭で購入するより割安感があるのと、予算に応じて商品を検索できるのが魅力です。もし、病院で各種医療関連商品が販売できるようになり、かつ、それがインターネットショッピングで購入できるようになると、通院中の患者が購入する機会も増えてくるでしょう。患者が病院のホームページで購入したい商品をさがしておいて、受診時に購入するというのも普通の光景になるかもしれません(図1)。ましてや、身体的に不自由な患者においては、インターネットショッピンングを利用する傾向がより強いはずです。

 インターネットショッピンングにおける最大の問題は、代金決済に関するトラブルです。ネットショッピングには、大きく分けて、代金決済、クレジットカード、銀行振り込み・郵便振替の3種類がありますが、実際には、利用者の8割以上がクレジットカード決済をしているのが現状です。しかし、クレジットカード決済は便利な一面、カードの個人情報が洩れて悪用されないかという心配が付きまといます。そのため、多少の手数料が追加されても、商品が本当に届いてから代金支払いをする代金引き換えを利用する場合も多いようです。私の場合は、商品によって使い分けています。

 しかし、もし病院がインターネットショッピングを始めるのであれば、販売側(病院側)にとっては、個人の確認はクレジットカードだけでなく保険証でも可能です。また、購入側(患者側)にしても、ネットショッピング店舗ではなく、自分が利用している病院が保証するのですから、安心して商品を購入できるでしょう。すなわち、他のショッピングの場合と比較し、決済に伴うトラブルに対する不安はかなり少なく、安全に取引が行える可能性が高いわけです。その分、市場の拡大は予想以上に大きいものになるかもしれません。

医療情報サービス分野への参入も

 医療に関する情報サービスにおいても、大きな変革が起こることが予想されます。特定の病院がインターネットを通じて、医療情報を発信し、それによって学習するという医師や学生も増えてくるかもしれません。これまで医療情報の発信源と言えば、医学・医療系の出版社が主流でしたが、2,000もの病院が、その競争相手となる可能性が出てくるわけです。「〇〇病院発メールサービス」というようなサービスも出てくるかもしれません。

 従来の大手出版社も、市場を奪われてはいけないということで、そうした病院と競争関係にならないように、むしろ携帯関係をつくって、インターネット情報発信を手助けする可能性もあります。製薬企業も、病院の経営が安定し、医療関連商品の販売にもつながるわけですから、応援するかもしれません。すると、これまで医療系のポータルサイトと呼ばれていた情報提供ビジネスと同じレベル、あるいはそれ以上の質の高い医療情報発信サービスが生まれてくる可能性があります。特に、インターネットの接続速度が高速化して動画の伝達が可能になると、編集作業を省略して、病院内での研修会で撮影したビデオなどを動画ファイルとして保管し、インターネットを使って有料情報として発信する病院も生まれてくるだろうと思います(図2)。

 さらに、医学系進学のための学習塾やソフトウエア開発などの情報産業にも参入できるようになるということです。そうなると、病院の勤務医が協力し合い、インターネットを使って「オンライン学習塾」を開き、国家試験や大学進学を志す受験者のためのアルバイトができるようになります。医師国会試験だけでなく、医療系・福祉系の国家試験関連の学習市場は大きいですから、本格的に取り組めば大きな市場になる可能性があります。

 このように考えると、病院の兼業規制緩和は、インターネットのさまざまな機能を活用することによって、病院の経営に大きく貢献する可能性が出てくることでしょう。議論の余地がある部分を多く残している問題なので、まだ成功例は少ないですが、いち早くこの潮流を読んで、病院経営者は準備しておくべき時期に来ているのかもしれません。

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