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臨床とインターネットの接点㉛

Medical Tribune 2003年10月23日 41ページ ©鈴木吉彦 医学博士

医療現場におけるJavaScript技術の活用

ネット接続なしでも情報処理が可能

HTMLのなかに埋め込めるプログラム言語

 インターネットを使っていると、時々、Javaという用語を目にします。何の意味なのかを理解している人は少ないと思います。Javaという名称が付くものには、JavaScriptやJavaアプレットというようなものがあります。どれがどのように違うのかは、実際につくってみないと理解できません。

 一般に、医療関係者からが簡単に利用でき自分でつくれるのは、これらのなかでも、JavaScriptとういうスクリプト言語でしょう。JavaScriptは、Netscape Communications社が開発したHTMLのなかに埋め込めるオブジェクト指向スクリプト言語のことです。簡単にいうと、ホームページのなかに忍ばせておいて、ホームページ機能の一部として利用できるような、目的を持ったプログラム言語のことです。既に世界中で、おそらく数十万以上のホームページが、なんらかの形でJavaScriptを利用しているものと推定されています。ですから、注意していれば、いろいろな場所で利用されていることがわかります。また、JavaScriptが使われているかどうかは、Internet Explorerであれば、ソースのことろからHTMLを開き、そのなかに、<JavaScript>と記述している囲み(タグ)があるかどうかを見ればわかります。

ホームページ上で関数処理

 JavaScriptを使えば、関数処理をすることができます。例えば、ある数値を入力したら、それを計算してすぐに計算結果を表示させることができます。図1の菅井内科のホームページでは、総コレステロールなどの値を入れて「計算」ボタンを押せば、LDLコレステロールがすぐに表示され、JavaScriptがどのようなものか理解するうえで分かりやすい最もシンプルな例かと思います。

 ほかにも、いくつかの例を紹介しましょう。図2は、私がアイデアを出し、友人につくってもらったJavaScriptの一例で。身長と体重を入力するだけで、その人の理想体重、体重オーバーのパーセンテージ、理想体重に対する差分、1㎏を7,200kcalと仮定したときの蓄積されているエネルギー量、さらに1日400kaclずつ減らすとすれば何日かかるか、1日の至適エネルギー量、至適摂取量、蛋白質摂取量、脂肪接種量、body mass index(BMI)、ローラー指数などが、瞬時のうちに表示される仕組みです。私も臨床現場で活用しています。

 さらに臨床に活用可能で、有名なホームページに、「Dr林のこころと脳の相談室」とういうサイトがあります。このホームページのなかでも、たくさんのJavaScriptが利用されています。(図3)。

 アルコール依存症のコーナーに立ち寄って、「アルコール依存症とは」という解説文を読み進むと、画面の下のほうに、診察室(自己診断法)という診断の画面があります。該当する項目に従ってクリックすると回答が出てきます。あるいは、久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)なども、自動で判定できます。

 また、このホームページにはアルツハイマー病のコーナーもあります。最近、アルツハイマー病に対する関心は高まっていますが、痴呆の判定基準をつくるのは臨床の現場では難しいものです。ところが、このホームページでは、知、情、意の機能を自動判定してくれます。(図4)。これは、抗アルツハイマー病薬などの適応の有無の判定や、薬剤の効果判定などの際に役立つ内容です。従来のように、紙に書く評価法では、最終的に手計算をしなくてはなりません。カーボン用紙を利用して、そうした手計算を簡単にする評価表なども考案されていますが、1枚ごとにコストが発生するため経済的ではありません。その点から考えても、パソコン(PC)が自動で計算してくれるこれらの仕組みは便利で低コストですみます。

電子カルテへのプレインストールも

 こうしたプログラムをつくる場合、スクリプトをわざわざ自分で考えてつくらなくても、ホームページ上で無料公開されているJavaScriptをコピーし、それが動くようにHTML言語の内部に埋め込んでしまえば使えます。プログラム内容を公開し、だれにでも利用許可を出しているJavaScriptで作成したホームページがたくさんありますから、そこからコピーさせてもらえばいいわけです。ただし、コピーの利用許可をしていないホームページ、つまり「無断転載はお断り」と記しているホームページからのコピーは違反となります。

 許諾がある場合は、JavaScriptを含んだホームページ自体をPCにダウンロードしてしまいます。そして、パソコン上でその画面を立ち上げます。先月、紹介したFlashなどの技術はインターネットと接続されていないと動きませんが、JavaScriptはインターネットにつながっていなくても、計算することができます。例えば、電車のなかにいながらノートPCで使ったり、インターネットとはつながっていない院内のPCでも利用できるため便利です。

 特に最近では、電子カルテを採用した医療施設では、電子カルテとインターネットのネットワークを切り離して利用する場合が多いはずです。そうしないと、ハッカーに侵入されたときに電子カルテ内の個人情報が漏洩してしまうからです。そういう物理的に切り離されたネットワークのなかに、インターネットで公開されているプログラムを持ち込んで動かそうとするのは困難です。そのような状況下での格好の代理手段としてJavaScriptが有用です。ですから今後、日本における電子カルテの普及に伴い、電子カルテのPC端末にプレインストールしておけるサービスとして、JavaScriptプログラムは、簡単な情報提供サービスの1つとなるかもしれません。

 また、将来、製薬企業が販売促進用の情報計算ツールとして配布する可能性もあります。例えば、アルツハイマー病やうつ病の治療薬を発売している製薬企業が、それらの疾患を判定する簡易計算機能を持ったソフトを臨床医に配布し、臨床現場での判断手段の一助として利用してもらうというような“新しい形のサービス・モデル”が生まれるかもしれません。つまり、これまで製薬企業が医師向けに、紙媒体を利用したり電卓を利用したりスケールを利用したりと、いろいろな形でさまざまな用途の「計算」補助用具を配布することがありましたが、今後はそれらに代わって、JavaScriptが主役の座に就く可能性があります。一部の製薬企業では、個別の薬剤分野において、既に、そうした配布が始まっているようです。

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