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プラスαのインターネット活用術28

Medical Tribune 2000年8月24日 43ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

日本のMRシステムが変わる(1)

医師個人の“医局”へメッセージ送る

医療の世界を変えられるのか

 グーテンベルク以前の時代には紙を持てる人は少なく,情報を入手できる人は少なかったのです。しかし,グーテンベルクの印刷技術により,多くの人たちが情報を入手できるようになり,その後,大きな革命が世界の各地で起きました。また,衛星放送テレビの出現によって,どこにいても世界中から自由に情報を入手できるようになりました。それが,東西の冷戦や共産主義社会における情報統制の終結に寄与しTsと言われています。

 沖縄サミットのテーマがIT(情報通信技術)であるということも,そうした時勢を反映した現象と言えるでしょう。つまり,日本の行政側のみならず,すべての企業や組織の,今後の投資の中心が,インターネットを中心としたIT関連になることは誰もが疑わない時代になってきました。

 では,インターネットが医療の世界において,本当に従来からのしきたりやルールを変える原動力になりうるのか,その質問に対する回答は,まだ明確な形で見えるようになったわけではありません。こうした疑問に対する明確な答を,みんなが目に見える形で理解するためには、具体的な実例を示すことが求められるようになります。Medipro(http://www.so-net/ne.jp/medipro/)に対しても,同じような期待が増してきています。特に,日本の医療業界において,みんなが最も困っている問題点について,インターネットを利用して新しい解決策を提案していくという姿勢が要求されてきています。

製薬企業や医療業界が抱える問題点

 我が国の医療システムには,色々な問題が潜んでいます。特に,最近マスコミなどに取り上げられ,目にすることが多いのですが,MR(医療情報担当者)の問題です。医薬品の販売促進において,MRを増やすべきか,減らすべきかを悩んでいる製薬企業が多いのです。

その背景には,我が国の医薬品市場が米国に次いで世界2位にまで伸びたために,自販に踏み切る外資系製薬企業が増えたことがあります。自販体制をとれば,システムに関する諸費用,人件費(MRなど)の増加などを伴います。しかし,その分,生産から販売まで一貫したシステムを構築でき,企業の独自性をも発揮できるので,メリットも多いのです。

 つまり,MRの増員などのステップを踏んできた外資系企業が増えてきたことで,わが国におけるMRの役割,あるいはそれに関連した病院側のシステムも変革を迫られるようになってきました。MRの人数が増えることや,多様化するなかで,MRの質の向上も叫ばれるようになり,資格試験制度などが取り入れられたりしています。そして,医薬品によっては,MRの増員が売り上げの増加に結び付く場合と,結び付かない場合があります。ですから,製薬企業の経営者は,その点の判断をどうすべきか,悩んでいる会社が多いのです。

 また,この問題は,外資系だけではなく,日本の製薬企業も抱える共通の課題となってきているようです。外資系のMRが増えれば,自由競争市場ですから,日本の製薬企業のMRも増やす必要性が出てきて、同じ問題を抱えることになるわけです。

 このようにして,MRの人数は増え,医療業界に占める人件費の割合は,米国と比較してわが国では非常に大きいと指摘されています。逆に,その分,新薬の開発に回せる資金が少なくなり,日本の製薬企業の新薬開発力は衰えつつあります。その結果,新薬はいつも海外から発売されるという傾向が強くなり,我が国の医療業界全体において,新しい治療法や新しい薬剤を生み出そうとする活性力を削ぐような傾向になりつつあるのです。つまり,わが国の医療関係者の想像力や新しい治療を生み出す活力が,こうした社会の変化によって,どんどん弱体化していっていると言ってもよいのかもしれません。

 また,MRが増えると,病院の廊下にはMRだらけ,という状態になります。医局にも,いつもMRが立っているという状況が増えてきます。そうなると,医師たちは,廊下を歩くたびにMRから声を掛けられます。医局では他の医師と自由に医薬品についての議論ができない,などの不便な面が増えてきます。病院側の秘密も,MRを通じて外部に漏れてしまうことを心配する病院経営者もあるでしょう。ですから,MRの訪問規制を厳しくする傾向も強まっています。そうなると,MRと医師との接点がますます減りますから,製薬企業としては売り上げが落ちます。売り上げが落ちるから,それを阻止しようとかえってMRを増員する,という企業もあるくらいで,悪循環に陥っている場合も多いのです。

新薬の開発に合わせて

 また,医薬品業界ほど研究や開発が重要な意味を持つ業界はないと言っても過言ではないでしょう。新薬の開発が企業の命運を左右するのは,当然のこととされています。MRの人数や質にかかわらず,本当によく効く医薬品であり,それでしか患者を救う方法がないのであれば,医師は必ずその薬剤を処方します。ですから,ひとたび大型の新薬が開発されると、会社の業績は急激に伸びるわけです。このように,新薬によって得られる利益によって,MRの増員や質の向上がさらに伸ばされるわけです。

 しかし,半面,新薬の開発が成功する確率は,非常に低いものです。医薬品が世の中に出る確率は,0.01%とする説もあります。ですから,日本の製薬企業は,リスクをできるだけ回避するうえでも,新薬の開発が期待される時期には増員を,期待されない時期には減員をすべき,と考えるようになっているわけです。

 こうした時代の流れの中で、MRの派遣をするビジネスが生まれようとしているようです。しかし実態はと言うと,やはり派遣のMRと,正社員のMRとの間には,質の格差や秘密に対する義務感,会社に対する忠誠心が明らかに異なることもあるようです。ですから,製薬企業は,派遣のMRを利用したくても,利用できないという状況にあることも少なくないようです。

バーチャルMRを創造

 このような問題を解決し,日本にある全ての製薬企業にとって,MRがインターネットによって営業力を保持しながらも人件費の高騰にはならないシステム,また,医師にとっては,医局で自由に医師同士の薬剤についての情報交換が可能になり,必要なときにMRとの交流ができる,医局ではゆっくり休める,あるいはインターネット上で自分の医局を持てる,というものをMediproで創造できないだろうかという相談が,多くの製薬企業から寄せられるようになりました。そこで,アイデアを整理し,インターネット上でのOne-To-One機能を活用したバーチャルMRをつくってはどうか,と発想したのです。「MR君」とは,MyMediproの画面の上で,表示されるべきMR個人個人のメッセージバナーを利用したシステムのことです。MyMediproの画面は,これによって,医師個人個人が保有しうる医局があり,そこに仮想MR君がメッセージを送ることができる,というイメージになります。(図;7月段階での試作画面。本格稼働は本年度後半になる予定)

 思い切ってこのシステムを作ろうと考えたのは,上述のMRに象徴されるような日本の医療業界における非効率的な側面を、新しいITシステムによって変革させるべきである,それを日本の医療業界のみんなが期待している,という判断を元にして,全く斬新な発想のシステムを創造(system creation)すべき時代になった,と考えられたからです。つまり,これによって,これまでの日本の医療業界における非効率的な部分,非生産的な部分を抜本的に変えることが可能になるかもしれないと思ったからです。

 このシステムについては,4月にプレス発表しましたが,その影響力は非常に大きく,多くの製薬企業の関心を呼んでいます。それにつれて,私自身の発言の責任も,随分,重いものになってきています。ですから,本連載の場を借りて,今後,数回にわたってこの「MR君」というバーチャルMRシステムについて解説をしていきたいと思います。そうすることによって,読者の皆さんと一緒に日本の医療の未来について考えることができれば幸いです。

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