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臨床とインターネットの接点⑫

Medical Tribune 2002年3月28日 36ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

ICカードとインターネットの組み合わせ医療分野でも重要な検討課題に

1枚で多用途への利用が可能

 クレジットカード、デビットカード会社から、電気製品店、ビデオショップに至るまで、さまざまな分野の加盟店や施設、組織が個々に異なるカードを配布しています。病院で診察券のカードを発行している施設も多く見られます。そのため、利用者は財布の中に何枚もの磁気カードやバーコードカードを入れておかなくてはいけません。財布が膨れ上がり携帯に不便です。

 そうした問題点を解決するのがICカード構想です。ICカードとはプラスチック製のカードに集積回路(IC)が埋め込まれ、大量の情報が記録できる媒体を目指します。一般に、記憶するデータに暗号をかけることも可能になるため、磁気カードに比べ偽造などの恐れが少なくなり安全性が高まります。また、1枚のカードのなかに磁気カードの約200枚分以上の記憶容量を入れることが可能で、技術の進歩とともに容量は増えていきます。さらに、大容量の記憶ができる点を活用し、1枚で多用途への利用が可能になる点が特徴です。

 ですから、ある統一したシステムの読み取りを記憶した1枚のカードを持てば、提携した共通の加盟店や施設で利用でき、同じ操作で統一サービスを受ける特典が利用できるようになります。これは飛行機のマイレージプログラムサービスと似ているので、飛行機をよく利用される方にとっては容易に想像できるでしょう。1つの会社と契約し、そのカードを持っていれば、各社と契約するための何枚ものカードを携帯する手間が省け、便利になるわけです。

本人認証が可能に

 ICカードが普及すると、複数枚のカードを携帯しなくてもよい、ということのほかにも、さまざまな利便性が医療の世界においても、また、インターネットの世界においても生まれてきます。それは、「本人認証」が可能になるという点から生まれる利便性です。

 例えば、米国では2001年の同時多発テロ事件以来、非接触型ICカードを医局員に携帯させ、関係者しか施設内に立ち入りできないようにと、セキュリティレベルを高めている病院や研究施設が増えています。今年、ある大学施設の医学部教室を訪問したとき、駐車場から大学に入るまでの間、非接触型のICカードで本人認証が必要とされ、それがパスしないと職員向けの駐車場にすら車を止めらないという厳重な警備体制でした。病院内での患者の個人データへのアクセスなどにも、将来はこのシステムが用いられ、どの医師がいつ、どの患者の記録を見たのか、あるいはそれをダウンロードしたり、プリントアウトしたのかなどが、すべて記録に残されて、個人情報の機密を守るための手段として必須の条件になっていくと予測されます。

 現状では、ICカードリーダーは施設の入退室くらいに限定されていますが、将来はインターネット端末であるパソコン(PC)1つ1つに設置されるようになり、最終的にはICカードリーダーはPCに内蔵されていくことでしょう。医師が医療雑誌の文献論文などを、ホームページからダウンロードしたときの決済なども、ICカードで行うようになるかもしれません。

 また、こうしたICカードの応用は、患者サイドにまで将来は拡大していくことは間違いありません。ICカードは診察券として採用され、患者が病院のデータベースにアクセスし、検査結果などをインターネットを通じてチェックできる時代がくることでしょう。さらに、本人認証用のICカードを使って、医師や患者が本人同士であることを確認できれば、外出できない患者でも、遠隔地に住む患者でも、Voice Overを利用して医療相談を受けることが可能になるかもしれません。また、ICカードのなかには、プリペイド(前払い)方式の電子マネー、電子商取引を利用できるような仕掛けを構築できます。ですから、医師との相談料が自動的に銀行から引き落とされるため、支払いの手間をいちいち気にすることなく、気軽に主治医に相談することができるようになるでしょう。個々の医療施設独自で電子決済システムを構築するのではなく、ICカードを媒体に、日本中で共通に利用可能となるシステムが確立されれば、遠隔医療や病身連携における医療費の「支払い」に対する患者側や医療側の概念を変えてしまうかもしれません。

 記録容量が1メガ以上のさらに大容量のICカードが利用できるようになれば、患者は過去の服薬履歴や検査データなども、そのなかに保存することができるようになります。そうなると、どこの病院で診療を受けても、過去の検査データや服薬履歴が参照できるようになります。いちいち担当医師に、詳細な紹介状を書いてもらう必要がなくなります。医師側も、そうした手間が省けることで、診療の効率化が図れることでしょう。

ICカードで診察券も

 米国では未成年向けのクレジットカードが普及しているようです。親が振り込んだ金額の範囲内でしか子供は買物ができないため、使いすぎなどを防止できるシステムです。使用状況はインターネットを通じ、随時親が確認できます。例えば、子供が買い物をすると、親あてに電子メールで、どこでいくら使ったのかの連絡が入る機能があり、親側の安心につながります。米国の10代の若者が年間に使うお金は1,500億ドルを超えると言われ、親が子供に渡すお金が不正なもの(麻薬など)の購入に利用されていないかなどの監視の意味でも、重要なシステムになっています。日本では、子供に持たせる携帯電話の支払いに上限を設けるシステムがあります。コンセプトは似ていますが、日本の場合、若者が携帯電話に支払うお金が多いという事情を反映しているようです。

 ところが、ICカードが利用できると、ICカードを装着した携帯電話やPDA(personal digital assistant)などが登場し、そのICカードに内蔵されたクレジットカード決済システムや銀行決済システムを利用することで決済が可能になるシステムが実現できるでしょう。例えば、ICカード自体、あるいはICカード内蔵の携帯電話やPDAで缶ジュースを買ったりできるようになります。親がICカードにインプットしておいた金額しか子供は通話できない、という上限を設定した携帯電話の仕組みも構築できるはずです。

 こうしたシステムが日本全国に広がると、入院中の患者が自宅に電話をしたり、売店で買い物したり、病室で映画(オンデマンド・ムービー)を見たり、ネットショッピングをしたり、電子メールを使ったりした場合の決済システムとして利用できるでしょう。退院するとき、「入院日は携帯電話に内蔵しているICカード決済システムで支払います」という患者さんが出てくるかもしれません。また、入院時には、ICカードが診察券と住民基本台帳と保険証と決済手段の4役を果たすようになれば、緊急入院出会っても心配がなくなります。さらに、そのICカードには血液型などの最低限の個人情報が記載され、臓器ドナーに関する情報なども記載されていれば、医師にとっては緊急時の判断に役立つはずです。また、家族への連絡先、電子メールアドレス、処方歴なども1枚のICカードからすべて引き出せれば、入院退院・初診再診・院外処方などの事務手続きも簡便化するはずです。

 そして、これらの情報の最終確認にはインターネットを利用し、暗号化された「本人認証」用の情報のやり取りによって承認されるという手続きが踏まれることになるでしょう。自治体の中には、プリペイドのほか、定期券などの機能も持たせ、交通の便も含めた多機能カードとして地域の活性化に役立てようとする動きもあるようです。

理想とは遠い現状

 ICカードを介護計画の補完に利用する計画もあり、ケアマネジャーとサービス事業者がいちいち書類をつくって情報をやり取りする手間が省けるという理由からスタートしたようです(日本経済新聞2001年2月1日)。しかし、介護される側だけでなく、介護する側も高齢者が多いことから、最新型のICカードやインターネットを駆使しようとしても、介護現場にいる人たちが使いこなせないという問題があるようです。

 このように医療現場でICカードの普及を進めるに当たっては、理想と現実の間に大きなギャップがあり、必要な社会基盤が整うにはほど遠いのが実情です。また、ICカード構想は、民間が主導で拡大が図られていますが、国が制度として側面支援するような法整備がないと、日本中の病院や医療施設に普及するには相当の時間がかかることでしょう。総務省が非接触型ICカードを導入する業者に無線免許の取得を義務付けていたのですが、それが撤廃されたのはつい最近のことです(日本経済新聞2002年3月6日)。

 ですから、インターネットとICカードを、どのようにうまく組み合わせ、「電子決済」などに有効活用していけるのか、医療分野においても、今後は重要な検討課題として考えて行かなくてはいけないと思います。

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