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プラスαのインターネット活用術19

Medical Tribune 2000年6月15日 31ページ ©️医学博士 鈴木吉彦

インターネット・ドクター 多種多様な患者教育が可能に

 たまに大学時代の同級生に電話すると、「おまえ、あちこちで名前を見るけど、何やってんの?」と言われてしまうようになりました。「医者の仕事してるよ」と言っても、なかなか信じてもらえません。でも私は、週2回、糖尿病外来で患者さんを診察していますし、医学論文も書いています。インターネットの仕事にしても、「患者さんのために」という思いは、他の医師と変わらないと思っています。

 MyMediproは、インターネットを利用し、医療関係者のために、最新情報を迅速に、正しく伝えたい、と考えて始めたプロジェクトです。医師に最新の治療法を迅速に伝えることができれば、それによって患者さんを早く治療することができます。正しい情報を伝えれば、治療は成功しやすくなります。医師の業務を支援することは治療の水準を高め、それが患者さんのためになるはずです。MyMediproにあるAll in Oneや、One-To-Oneというコンセプトは、それを助けるためのものです。ですから、MyMediproの目的も私の仕事の目的も、「患者さんのため、治療水準を高めるための医師の仕事」ということで、私の意識のなかでは同義です。でもそれが周囲の人には分かってもらえないのかな、と正直言うと同級生の言葉はちょっとショックでした。でも、このとき、ふと思いました。10年前、私が済生会中央病院で患者教育に専念していたころにも、同じように周囲から見られていたのです。

患者教育がルーツ

 私の専門は糖尿病です。済生会中央病院に勤務し、堀内先生や松岡健平先生に患者教育とは何か、を徹底的に指導されました。その間に、日本の糖尿病人口は急増し、糖尿病の専門家の人数に比し、圧倒的に多い数の糖尿病患者が存在することになり、糖尿病を専門とする医師は1人で多くの患者を診察することになったのです。

 済生会中央病院では、教育入院システムがあって、そこで約20人の患者さんに2週間サイクルで、治療プログラムに沿って教育をしていました。しかし、それでは追いつかない速度で糖尿病の患者さんは増えていきました。そこで、私はナースや栄養士などのパラメディカルスタッフに糖尿病の知識を伝え、そのスタッフが患者さんに教育をしてくれたわけです。

 それでも教育が行き届かない部分が多いので、出版社の編集者に糖尿病の知識を正しく伝え、彼らが本や雑誌という媒体を通じて、多くの患者さんたちに糖尿病の知識を広めてくれました。ですから、その流れのなかで、患者さんの必要性に合わせて、いろいろな本を出版してきました。糖尿病の子供たちには子供用の糖尿病テキストを、大人の糖尿病患者さんには食事療法の本を、インスリンが必要な人にはインスリン療法の本を、というように患者さんの個別の治療、指導法にあったシステムを、本という媒体を利用しながら研究し、出版するという仕事をすることによって、実験および実践をしていたのです。その内容はhttp://www.so-net.ne.jp/vivre/drsuzuki.htmlにあります。

 そうした経緯のなかで、医療関係者同士が協力し合い、互いに正しい情報を迅速に伝えるようになり、情報交換を行えるようになる意義を考える機会を得て、その必要性を実感してきたわけです。そして、医療における情報というものの価値や、それが社会にいかに貢献しうるか、というノウハウを身に付けてきたわけです。でも、そういう仕事をしているときも、昔は患者教育の意味があまり理解されていない時代でした。ですから、やはり周囲の友人からは、「患者教育?何だそれ?何やってんの?」と言われていたわけです。

動画の一斉配信も可能に

 インターネットは、新しいテクノロジーであり、未知の可能性を秘めています。今後、aDSLやケーブルインターネットなどの高速インターネットがスタートすれば、動画の一斉配信も可能になります。医師が患者さんのために講演した内容を、世界中の糖尿病患者さんに伝えることが可能になります。WILL(wirelesslocalloop)などの1.5Mbpsの高速インターネットが可能になれば、動画の送受信が可能になり、医師と患者さんとが、相互に顔を見ながら話をすることも実現できます。

 そうなれば、教育入院という形で患者さんを病院に物理的に拘束する必要もなくなります。1人の医師が、日本中のどこかにいる何千人という糖尿病患者さんに、教育をすることが可能になるのです。インターネットによるライブ中継TVも可能になり、ライブで講演をしながら、患者さんからの生の声を聞くことも可能になるでしょう。生の声を聞きながら、それについて、ライブで質問に答えることも可能になります。

 米国の医療ベンチャーのなかには、インターネットにある情報を、微量テレビで放送する、というメディアを考えている会社もあると報じられたことがあります。ある医療関連のベンチャーは、非常に多くの会社を一気に買収し、そうしたネットに対する考えを発表していましたが、米国人の反応は、非常に冷たかったそうです。それは、インターネットにある情報はインターネットで見たいときに見ればいいのだから、それをわざわざ、時間に制約される衛星テレビで見る必要はない、というのが、一般人の意見である。という貴社の分析記事を読んだことがあります。

 ですから、インターネットテレビを利用して動画を配信するといった仕事においては、もはや衛星放送(CS放送)や地上波のTV放送の媒体を利用する意義はどんどん低くなり、逆に、その意義や利用価値の高さは、TV高速インターネットを利用した双方向性の実験の場に移ってくることでしょう。そして、WILLなどの高速インターネット設備を持てば、だれでもインターネットTV放送局を持てるので、1人1人の医師が多くの患者への動画発信が可能になるでしょう。つまり、インターネットを利用すれば、多くの医師が、多種多様な患者教育の機会を持てるわけです。米国のゴア副大統領は、インターネットテレビ放送局が実現すれば、「50億の放送局ができるだろう」と推測しているという新聞記事を読んだことがあります。ですから、50億の選択肢があるなかで、あえて衛星TV放送で医療番組を見たいという人はいなくなるでしょう。50億分の1の価値になってしまうからです。また、前々回の号で説明したように、医療における情報は、オンデマンドが原則であるべきで、それはインターネット以外の媒体では実現しえないのです。

まず文字情報の交換から

 インターネットは日常生活のなかで、当たり前の媒体になってきました。ですから、今後は、インターネットを媒体として活用した患者教育というテーマを真剣に考え、実行すべき時代になってきたのだと思います。私は糖尿病が専門ですから、そういう「新しい媒体を利用した患者教育の手法やチャンスを、医師の仕事のなかにおける、重要な仕事の1つと考えるべきである」と感じることに抵抗感がなかっただけなのかもしれません。しかし、糖尿病の医師でなくても、慢性疾患を専門とする医師にとっては、患者教育の重要性は理解いただけると思います。

 ただし、まだ、そのために必要なものがあります。高速インターネットの全国展開と患者さん側のインターネット環境の整備です。医師のインターネット環境は、今年中に急激に整備されるでしょうが、病気を持つ高齢者の患者さんたちの間ではまだまだでしょう。

 動画が普及するには、まだもう少し時間が掛かるにしても、今のインターネット技術でも文字情報だけで患者さんと情報交換ができます。患者さんとコミュニケーションを取るためにメーリングリストや掲示板を作っている医師も多くいます。多くの医師の、こういう仕事が、多くの皆さんに理解され、支持されていくべきだと思います。また、米国を訪問してよく聞くことは、プレイステーション2のようなゲーム機が、インターネット端末になって欲しい、という声です。もし、プレイステーション2がエンターテインメントの装置ではなくて、患者さん同士をつなぐ、重要な機会を提供する家庭用のインターネット端末になれば、大きな社会貢献をすることになるのではないか、と私は考えています。

 5月にJIMA(日本インターネット医療協会)の研究会で大山博司先生(医療法人社団明人会田島病院)と西藤成雄先生(西藤子どもクリニック)の講演を拝聴しました。立派な仕事をされていることに、とても感銘を受けました。インターネットで患者のために情報を提供する行為も、多くの患者さんに救いの手を差し延べています。多くの医師を援助しています。このように、インターネットを通じて患者教育をする、治療に貢献する、という仕事も、やはり立派な医師の仕事だね、これはインターネット・ドクターと呼ばれる仕事だね、と言われるようになってみたいな、と考えています。

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