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臨床とインターネットの接点㉚

Medical Tribune 2003年9月25日 24ページ ©鈴木吉彦 医学博士

Flash技術を利用したバーチャルリアリティサービス

糖尿病食事指導に新しい着眼点を提供

食事療法の指導理論は20年間不変

私の専門は「糖尿病」です。私が大学を卒業し。糖尿病を専攻しようと考えた20年前は、マイナーな分野と言われていました。開業医である父親は、私が糖尿病を専攻することを反対し、もっとメジャーな病気を専攻するようにと忠告されたものでした。

そんなマイナーな病気だった糖尿病が、最近の厚生労働省の糖尿病実態調査では、全国の「糖尿病が強く疑われる人」は約740万人、「糖尿病の可能性が否定できない人」は約880万人となり、5年間でそれぞれ50万人、200万人増加し、合計約1,620万人と推計されると報じられました(Medical Tribune 8月28日号、20ページ参照)。今は糖尿病をマイナーな病気だという医師はいなくなったと思います。糖尿病の分野では、この20年間に診断法についても、治療法についても、研究についても飛躍的に進歩しました。数年前の標準的な処方が、今では古い治療とみなされるような事態も診療の随所に起こってきています。

ところが、唯一この20年間で大きく方針が変わらなかったのが食事療法の分野で、『糖尿病食事療法のための食品交換表(日本糖尿病学会編、文光堂)という指導理論が長く使用されてきています。たいへんよくできていて、使いやすさ、内容から見ると世界に冠たるものだという評価が医師および栄養士の間で定まっており、これに沿って食事療法を実行すれば、治療上の目的に到達できるという合意ができていたためだろうと考えられます。あるいは、この教科書に代わるような指導理論が出なかったために、20年間この理論のままきてしまったのかもしれません。そのあたりの議論は、糖尿病関連の学会でも取り上げられるテーマなので、あえてここでは深めません。

ネットで探せるレシピが急増

さて、そうした伝統を守ってきた糖尿病の食事指導や方法論が、最近、インターネットの出現によって、様変わりをしてきています。実は、第42回日本糖尿病学会年次学術集会(1999年、横浜)のシンポジウム「食事療法の新しい展開」「-食品交換表委員会-食事療法へのインターネットの導入-食品交換表のコンピュータ化-」というテーマで、私がこうえんをしたときには、「きっと、3年後には全世界で30万食以上のレシピが検索できるようになるだろう。またホームページ上で、バーチャルリアリティを生かし簡単にエネルギー計算ができるような仕組みがつくられるだろう」と未来予想を立てました。その当時は、インターネットの仕事をしていたものですから、推計した数字にある程度の根拠があったものの、それでも「予測」にしかすぎませんでした。しかし、なんと私の講演内容が、その日のNHKのテレビニュースで学術集会のトピックスとして放映されました。「大ざっぱな予測をコメントした」だけなのに「なぜこんなに注目されるのか?」と講演した本人が驚いたものでした。

しかし、どうやらそのときの予測が外れていなかったようです。例えば、ネットで探せるレシピ数は最近になって急増しました。栄養バランスの取れたダイエット食であれば、どのようなものでも糖尿病患者に勧めて大きく間違うことはありません。糖尿病患者向けとはうたっていなくても、そうしたレシピ

も含めると日本だけでもインターネット上で公開されているレシピ数は、数万オーダーは軽く超えるでしょう。世界中では30万食をはるかに超えているのが、製薬企業が糖尿病の食事療法を指導するサービスをホームページ上で無料で提供していることです。このようなサービスは、糖尿病患者に広く受け入れられているようです。ただし、患者の個人情報を取得し、登録制にしているホームページについては、製薬企業がしっかりとした論理的方針を持って、個人情報を管理しているかどうか、将来その個人情報を自社の利益のために利用しないか、といった心配もあります。患者に対する公益的なサービスに徹するものであって、患者を利用するものではないという明確な哲学と社会的責任を持って運用して欲しいと考えます。

患者がネット上でカロリー計算

多くのホームページの情報提供がレシピ紹介にとどまっているなかで、1つ注目されるのが、ノボノルディスクファーマ社の糖尿病コミュニティサイトです。このサイト(タイトル:e-ダイエット;渥美義仁監修)では、簡単な食事療法のバーチャルリアリティシステムを提供しています(http://www.club-dm.jp/calory/) 個人情報の登録も不要なので、だれもが簡単にアクセスできる点もたいへんに便利で安心です。本紙の読者の皆さんにも実際に体験してみることをお勧めします。

例えば、身長を入力すると自動的に1日に取るべき摂取エネルギー量が計算されます(図1)。次に、ごはんなどの食品をマウスでつまんでお皿に載せ、食品を組み立てていきます。同じような操作が、おけずなどの食品についても可能です(図2)。ごはんを増やすのも減らすのもマウス1つでできますし、それがリアリティを持った動画で表示されます(図3)。そして最終的には、合計したエネルギー数が表示されます(図4)。カロリーをオーバーすると、何度でも、もとの画面にも戻り、繰り返し練習できる点が、教育用の道具としてたいへんに優れていると思います。

実は、このような「しかけ」が普通に見られるようになった背景には、Flashというホームページ制作技術が簡単に利用できるようになったことがあります。今後は、他の製薬企業を追随し、Flashを利用しさまざまな工夫を凝らしたバーチャルリアリティサービスを展開してくるだろうと思います。さらに、こうしたサイトを利用する医師あるいは栄養士も、自分自身でFlashの技術を習得して、その施設独自の糖尿病の食事療法を展開するようになるかもしれません。もしそうなれば、過去20年間大きな変化を見せなかった糖尿病の食事指導理論にも、新しい着眼点を提供するチャンスが出てくるのかもしれません。なお、制作者の石田千香子栄養士に聞いたところ、「まだまだ改良の余地あり」ということでしたから、このサイトがどう改良され変化していくのかは、今後注目しておく価値があるかと思います。

<Flash(フラッシュ)技術>

Macromedia社が開発した、音声やベクターグラフィックスのアニメーションを組み合わせてWebコンテンツを作成するアプリケーションのこと。また、それによって作成されたコンテンツの総称としても用いられる。特に、アニメーション、プレゼンテーション、Webサイトのデザインに力を発揮するだけでなく、回線に負担をかけることなく、そうしたコンテンツを配布できる点が特徴。Flashを再生するためのプラグインFlash Playerをダウンロードすれば、だれもが利用できる。利用のためには、Macromedia社の製品情報のホームページへのアクセスと、基本ソフトのダウンロード、およびインストールが必要。

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