My Medipro

情報ネットワークを活用する

企業が運営する医療者向け情報ネットワーク:Medical Professionの場合

ソニー・コミュニケーション・ネットワークSMH project

鈴木吉彦(医師)・吉永意知子(看護婦)

看護婦にとってのインターネットとは

 ナースの仕事は様々だが,ナース業務はインターネットと結びつくものは少ないという先入観を持たれている人がまだ多くいるようだ.しかし私たちが運営しているホームページMedical Profession(以下,Mediproと略す.URL=http://www.so-net.or.jp/medipro/)ではナースの方たちの参加が目立つ.それも,談話室やチャットなど,コミュニケーションに参加される方が多い.文献や情報を探すよりも,多くの人たちの意見を聞こう,という趣旨で三果される方が多いようだ.

 本稿では,こうしたインターネットの空間Mediproを,なぜソニー関連企業が築き,多くの医療スタッフと運営しているのか,その理由と今後の方向性について解説する.

なぜ,インターネット上でMediproという「街」を作ったのか?

 私たちはインターネットを役立つものにするには、利用者の立場に立ったシステム

を作る,という姿勢が最も大切である,という基本精神を持っている.これはソニーという会社の基本精神でもある.また,医師に限定するのではなく,広く医療関係者同士の意思疎通を図るためのシステムでなくてはならないと考えている.こうした原則のもと,Mediproが,情報集約型のホームページを目指している.つまり,すべての医療関係者にとって必要な情報が,すべてこのホームページに集約されて存在する,という構想である.医療関係者は,Mediproを訪問しさえすれば,医療情報をすぐに探すことができるから米入りでインターネットを優子kに活用できる.

日々更新される内容

 Mediproは約20社の医学専門書出版社やデータベース社が集いあい,さまざまな情報提供を行っている(図1).現在では情報量は膨大になり,内容更新もほぼ毎日行うほど頻度が高い.この様に更新頻度が高い医療サイトは,利用者を飽きさせず、訪問者の期待も裏切らない.

 日々変化し新規更新するこうしたホームページを運営していくには,たいへんな作業量と管理力が必要とされる.現在,Mediproのスタッフは,プロジェクトチームとして医師1名,看護婦1名,栄養士2名,ホームヘルパー資格を有するソニー社員1名,プログラム担当1名に加え,契約薬剤師1名,契約デザイナー1名の,計8名で運営している。

 また,出版社のホームページ管理者,ソネットの技術者やデザイナーなどを含め考えると,Mediproの情報提供に携わっている総勢人数は合計で50人を越える.こうした基盤整理の規模および情報の大きさ,医療スタッフの充実度がなくては,日々情報を更新できず,それを実現している点においても、Mediprと考えられている(1日の訪問者は1200名.1日のページビューアクセスは3000アクセスを超える).

情報を短時間で入手するための工夫

 もし各出版社あるいは情報をもって提供する会社(以下,information providerの意味でIPと略す)が独立して各IPごとのホームページを立ち上げ,それだけで情報提供しようとしたら非常に不便である.ある商品,ある書籍に関する情報を探す時,利用者は会社ごとに,どこにどこの商品があるかを把握しておかなくてはならず,煩雑である.

 この問題を解決するためMediproでは情報をカテゴリー別に分け,利用者に引き出しやすい形を作り提供している(図1,左上のカテゴリーが目次として示している).情報は見つけやすく,会社ごとに情報の比較もしやすい.このシステムは情報自体の価値も高めるだけでなく,利用者の時間の節約にもつながる.時間の節約は,仕事の効率を上げるだけでなく,電話料金やインターネット接続料金の節約にもつながる.すなわち,ほんとうに必要な情報が短時間で,すばやく安く入手できるようになることこそ,インターネットの真の利用を高めるはずである.

Mediproの中身(コンテンツ)はどうなっているか

 Mediproには,多岐に渡るコンテンツが網羅されており,本紙面だけでは紹介しきれない.カテゴリーに分けただけでも約50のコーナーがあり,各コーナーも,さらに細分化されている.たとえば,図に示すニュースコーナーでは,1コーナーにさらにたくさんのニュースが並んでいる(図2,日本だけで12個のニューコンテンツが1画面にある).’98年2月から毎日新聞の健康ニュースも開始されるなど,今後も新コンテンツが増えるので,この原稿が印刷されている頃には,また更新され変わっているかもしれない.インターネットでの情報提供は,それだけ速度が速いのである.このため読者が内容を知るにあたっては,Mediproを訪問していただいて,実際に見ていただくほうが早い.インターネットをすでに利用されている方は,URL=http://www.so-net.or.jp/medipro/をタイプしてみてほしい.

ナースと関連するコンテンツ

 Mediproでは,医療関係者なら誰もが役立つコンテンツを,という方針で制作しているため,ナース向けだけに「限定した」サービスは少ない.看護系ホームページのリンク集もあるが,リンク先には役立つ情報が詰まっているとは限らないため積極的には作っていない.個人が趣味で作ったホームページを訪問するのは,時として時間をつぶすだけに終わるかもしれない.そのため,リンクについては慎重に対応しMedipro担当スタッフがホームページを訪問し内容を吟味した上で,お勧めできると判断したページだけを紹介する方針にしている.(http://www.so-net.net.or.j/medipro/nurse.html

ナースがよく利用するサービス

 医師は文献検索などの有料サービスを利用する方々が多い.これに対しナースは,ナースのためのOne Point Advice(図3ナース向け内容の教材・https://www.sec.so-net.or.jp/medipro/medline/member/kangopoint/なお,このページは会員向けなのでID番号とパスワ-ドが要求される),病院で使う英会話(南江堂,https://www.sec.so-net.or.jp/medipro/medline/member/english/),ダイエット関連プログラム(計算ソフトを含むhttp://www.so-net.or.jp/vivi-ane/dietmac/weightcheck.html),治療マニュアル(医学書院,http://www.so-net.or.jp/medipro/search.html)などを利用しているようである.しかし,やはり利用頻度が高いのは,コミュニティ関連である.談話室やチャットには,多くのナースが集まり,談話し交流を楽しんでいる.

医療関係者は,勤務病院や診療所では時間的かつ空間的に束縛されることが多く,地理的に遠い人たちと夜に会話する,といったことは難しい.しかしインターネットはそうしたコミュニケーションをいとも簡単に実現できる(Mediproチャットのコーナーを訪問してほしい.URL=http://www.so-net.or.jp/medipro/chat.html).北海道と九州のナース同士が,電話料金を気にすることなく,いろいろな相談をしたり相談を受けたり,病棟のことや患者さんのことを話をしている姿を見ていると,医療関係者同士の交流のスタイルもずいぶん変わったな,という気がしてならない.また,病院では気軽に話ができない職場の人たちや,偉い先生(?),研究所の方たち,看護学生さん,他病院の婦長さんとも気軽にインターネットを通じて交流ができるのも魅力である.職場の問題を,自分の職場だけの問題として解決しようとするのではなく,インターネットを通じて日本中の仲間と相談することも可能なのである.

インターネットを使ったコミュニティとは

 Mediproは,会員制の空間を築いている.医療関係者しか加入できない空間で患者やマスコミ関係の人達はシャットアウトしている.こうした空間はパソコン通信では築きにくい.そうした医療関係者限定の会員が2500名存在することは Mediproの,もう一つの特徴である.会員の方にはクローズドの環境の中で,自由な発言をしてもらうだけでなく,『週刊医学界新聞』(医学書院発行)などのニュース配信も行っている.

(Medipro Club,URL=http://www.so-net.or.jp/medipro/club.html)

 そのクローズド空間の中で,多くのコミュニティが作られ,会話や相談事は書き込まれていく.ある時,「患者の命にかかわるんではないか,という失敗をしました.どなたか助けてください」という主旨の書き込みがあったが,それに対して,みんなからの励ましのメールは多かった.すぐ5通の書き込みが届いていた.さらに,毎晩行われているチャットでもとりあげられ,多くの仲間同士で話し合いがもたれた.この発言が,多くの参加者の心を動かしたことは確かである.

 こうした病院内の同僚にさえも相談できない,告白しにくい話も、インターネットでは,客観的な立場の人たちから率直な意見を受けることができる.これは,経験の浅い若いナースにとっては,大きな心の支えになるのではないだろうか. Mediproでは,このような質の高い交流の環境をだいじにしていきたいと考えている.

これからの可能性

求人求職

 多くの病院では優れたよいナーススタッフがほしい.しかしそうしたスタッフを探すことは容易なことではない.求人雑誌や新聞にも情報はあるが,条件を合わせた検索は難しく,またなー側も自分に合った条件を探すのは容易ではない.

 これからは,こうした情報はインターネットで検索機能を使って探すほうが主流になる.病院側もインターネットを使って募集することで,コンピュータを利用できる能力を持つスタッフを同時に募集できるので便利である.また,医療情報は細分化され,分野ごとのスペシャリストとしての技術が要求されるが,インターネットではそうした細分化された職種内容まで、あらかじめ検索できるので,求人側も求職側も便利である.

生涯教育の道具として

 日常の忙しい業務にまぎれていると,勉強する時間もないことが多い.適当な教科書など教材の入手も困難であることも多い.そういう場合,インターネットで医学教育用の教材が入手できれば心強い.とくにナースの仕事には手技も多く,本を読んだだけでは理解しにくい内容が多い.そうした技術や手技はビデオを購入し自己学習する手段もあるが,一般にはビデオは高価で現実的ではない.しかし,そうした映像教材を1回だけ見る権利を,1回ごとに購入するシステムにしたらどうだろう?インターネットでそういうシステムを構築すれば,1回だけ見る権利を,格段に安価な値段で購入できる.

 これが,最近急に注目されているビデオオンデマンドというシステムである.Mediproでは近日中に,このシステムを採用し,ナース向けの画像教材を配布したり,医療に役立つプログラム集を配布したりすることを考えている.

自宅にいても専門職としての資格を生かせる

 ナースは女性が多く,結婚,妊娠をきっかけに仕事をやめる人が多い.せっかく身につけた専門的知識や技能を,社会で生かせられない.しかしインターネットを使えば,自宅で育児をしながら,患者へのカウンセリングができる.このようにインターネットが造る社会というものは,ナースの職場で働く意義や働く者の意識までをも変えてしまうだろう.

まとめ

 紙面の都合で,本稿では内容をかなり割愛した.しかしインターネットの持つ可能性,および,それをナースの仕事や生活に生かせる機会は無限にあることが理解していただければありがたい.そうした可能性を,これからも,Medipro利用者の方たちやIPのみなさんたちと,いっしょに追及していきたいと考える.

 特にインターネットは,パソコンに触れる機会を増やし,習熟するための手段と考えても目的にかなったものである.人間関係も広がり,幅広く知識を得ることもできる.そうした,新しいマルチメディアの醍醐味を,ぜひ,多くの人に知ってもらいたい.そして,そのためには,Mediproをもっとよいものにしなくてはいけないという意識で,日々Mediproを運営をしている.

健康教育・患者教育も行っています

 Mediproは,医療関係者向けのホームページだが,一般人向けに健康情報提供を目的としたホームページ「元気でVivre-家庭の医学」(http://www.so-net.or.jp/vivre/ya,)ダイエット情報提供を目的としてホームページ「         Viviane the Diet」(http://www.so-net.or.jo/viviane/)も,同時に運営している.ここでは,一般人に対しる健康教育,あるいは患者教育の実験的活動の意味合いも含め,いろいろなコンテンツを,従来の情報提供の枠を越えた形で提供しようと考えている.

メールアドレス・ホームページアドレス

drsuzuki@ba2so-net.or.jp

http://www.so-net.or.jp

すずきよしひこ●ソニー・コミュニケーションネットワーク株式会社

〒140-0001東京都品川区北品川4-7-35御殿山森ビル6階

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