コンテンツパッケージは新しい
医療情報の販売モデル
鈴木吉彦 ソニーコミュニケーションネットワーク㈱General Manager 医学博士
雑誌名:Medical ASAHI 2001年6月 朝日新聞社
81ページから83ページまで コピーライト、©鈴木吉彦
米国も、日本も、ITバブルは崩壊したが、インターネットの価値そのものが、急降下しているわけではない。実体のあるITは急上昇している。つまり、バーチャルの世界だけを利用したITという概念だけでは、実体ある社会は変革できないことが証明されただけなのかもしれない。だから、今後、それを発展させていくうえで大事なことは、リアルの社会と、バーチャルの社会の、2つの側面からみた相乗効果をあらわしうる実体としてのITを構築していくことである。この概念を、「リアル・プラス・バーチャル」と表現している。
しかしながら、リアルとバーチャルという概念は、2つのものをまとめたことから、「ミックス」という概念ではないかと、捉える人もいる。しかし、これは「ミックス」ではなく、あくまで「リアル・プラス・バーチャル」であるというという点にこだわっている。
●「ミックス」で成功するのは難しい
アナログ情報を媒体としている、紙(書籍、雑誌、新聞)や、従来型のTV放送(地上波放送、CS衛星放送)、ラジオ放送などは、古いメディアである。デジタル情報を基軸とし、ネットワークという概念を持つインターネットは、新しいメディアである。そのような、古いメディアと新しいメディアをミックスさせるという概念を、メディアミックスと呼ぶことが多い。
確かに、「ミックスする」という言葉の響きだけを聞けば、面白いサービスができそうな気がする。しかし実際には、単にミックスしただけでは、サービスが向上するとは限らない。ジュースでも、それぞれの食品の、それなりの特性を理解し混ぜ合わさなければ、まずいみジュースができる。単品食品がもっている味わいや風味が、消されるからである。つまり、メディアミックスも、情報をミックスすることで、必ずしも、それ情報の価値が高まる、あるいは、相乗効果をもたらすとは限らない。
例えば、テレビ、インターネット、紙という3つの媒体をもっています、と宣伝するメディア企業は多い。媒体が増えるごとに、手を広げるIT企業が目立つ。しかし、インターネットについて中身が面白いことは稀である。一部の成功している大手企業などは多少の例外としても、ほとんどの場合が、「相乗」効果といいながら、「相殺」効果を出し、資金を無駄に使っているだけの情報産業企業が多いと、私は思っている。米国では、メディアミックスを標榜した企業が、最近になって事業から撤退したり、倒産したり、という例もある。たくさんのメディアを利用し、ともかく知名度だけを高めたが、資金がなくなったところで、急に広告をしなくなる、どのメディアにも露出しなくなる、という企業も増えている。そうしたケースは「ミックス」の意味を、表面的にしか捉えられなかった場合なのであろう。
●複数の媒体をもっても独創性がなければ「相殺」効果
本来、古いメディアと新しいメディアが、医療情報業界という同じ社会にあれば、それ自体が競争関係になるはずである。例えば、古いお菓子と新しいお菓子が、もし、お菓子屋さんの店頭にならんでいれば、顧客は、どちらかを選択するのが常である。古いお菓子と新しいお菓子を、両方、ミックスして購入する人は少ないはずである。通常は、伝統を重要視する顧客は、古いお菓子を選ぶが、新規性を重要視する顧客は、目新しいお菓子を選択する。
新しいお菓子は、はじめに食べた人は、その口当たりの新鮮さに驚くが、すぐに飽きてしまう人が多い。新規性を確かめることが目的で、それが継続性のある味わいではないからである。また、目新しさを狙う商品は、すぐに他人に真似をされる。つまり新しいといっても他人に真似をされないような独自性がないと、商品価値というのは低下し、結局は、競争原理の上でつぶされてしまう。
上記のような話を、医療情報メディアの世界の話に置き換えて考えてみると、例えば、分厚くて携帯しにくい医学教科書や検索システム(CD-ROMなど)や、地上波放送、衛星放送などのアナログTV放送、ラジオ放送などの、「オンデマンド」という条件が満たされない情報発信システムは、古い情報メディアという位置付けになる。これらは、医学分野では不便さを感じる人が増えてくるにつれ、利用度が低下しつつある。今後は、「オンデマンド」という機能をもつインターネットのような新しいメディアに吸収されていくだろう。本質的に、まず、インターネットで成功することが大前提であり、その後に、古いメディアが付属的サービスとして、付加されるようになるのかもしれない。
●コンテンツパッケージは独創性があるサービス
こうした古いメディアから脱皮し、インターネットに切り替えて、新しいサービスとして誕生したのが、MyMediproでサービスされているような、コンテンツパッケージという構想である。このコンテンツパッケージで受けられる利便性は、まず、分厚い医学教科書や検索用のCD-ROMを携帯する必要がなくなる点である。また、インターネットが利用できる環境であれば、どこからでも、いつでも情報サービスが利用可能になる点である。その意味で、MyMediproにある情報サービスは、旧メディアの不便さを解消し、「オンデマンド」という新しい付加価値がついた情報メディアのサービスである。図2~3は、メディカルパックA、Cのサービス画面の紹介だが、いずれも、日本の代表的なデジタルコンテンツが、1回の登録で利用できるようになる。日本の代表的な医学コンテンツが一同に会したところに、他の医学系インターネットサイトにはみられない独創性がある。有料なので会員登録を必要とするが、着実に利用者を伸ばしている。複数の会社の医学コンテンツが、ネット上でミックスされている現象は、日本では最初の試みであるので、今後のことは誰も予想できないが、インターネット利用者の急増に伴い、利用者数の増加が認められるだろう。
さらに、今後は、常時接続で定額制インターネットが普及していく。そうなると、有料コンテンツは、使えば使うほど得になる、という時代が到来する。であるから、1度の登録で、多くのコンテンツが「使い放題」というサービスは、今後のインターネットのサービスの潮流と合致していくはずである。
すでにサービスをはじめてから半年を経過し、文献検索などを中心にして、コンテンツパッケージならではの利用法を覚え活用するユーザーが増えている。わざわざ病院の図書館にあるPCでで検索しなくても、自宅で、ゆったりした気持ちで、文献を調べられるようになる。また、電話代も気にならないで快適に高速インターネットが使い放題になっている医師にとっては、個のコンテンツパッケージのサービスは、料金的にも高いとは思わないし、着実に人気の高いサービスになるだろう。
雑誌名:Medical ASAHI 2001年6月 朝日新聞社
81ページから83ページまで コピーライト、©鈴木吉彦