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プラスαのインターネット活用術25

Medical Tribune 2000年8月3日 38ページ ©️医学博士 鈴木吉彦

日本が米国を追い越す時代に 税制、民族など環境に恵まれる

州ごとに異なる制度が障害に

 インターネットを通じて外国から映画、音楽、ソフトなどを購入する場合、国境を超えるため、日本の消費税や米国の州の売上税などの消費課税で、税務当局が取引実態を捕捉するのは困難です。このような問題に対して、今後はどのような方式になるかは決まっていませんが、代金を決済するクレジット会社などが買い手から税金を代行して集め、消費者の居住国の税務当局に納める方法などが考えられているようです。米国では、ネット関連企業からの法人税収への期待が大きいようです。しかし、それはインターネットの企業の成長を抑制したりすることになり、需要を冷やしかねないということで、ネット課税を凍結すべきであるという意見もあります。

 このようなテーマを取り上げる場合、米国では州ごとに税の体系が異なるという点も、これから問題になるでしょう。そして、それがインターネットのEコマース(電子商取引)の進歩を遅らせる要因となっていくことでしょう。日本の方が、県ごとの法律や税の体系が異なることが少ないので、その意味では、インターネットのEコマースが浸透しやすい状況にあります。

 日本はクレジットカード社会でない分だけ、インターネットにおけるEコマースでは遅れをとっていました。インターネットの決済は、クレジット決済が原則であることが多かったからです。しかし、これからインターネットが拡大するにつれて、上記のような制度上の

進歩とともにインターネットの発展を後押ししていくのではないか、と思っています。

広がるデジタルデバイド

 米商務省の調査によると、IT(情報通信技術)産業は国内総生産(GDP)の約8%を占めるにすぎないが、実質成長率の35%を担っているとされているようです。ただし、米国では年収7万5,000ドルの家庭では50%以上がインネットに接続しているのに対し、年収が低い家庭では5%程度であるとされています。また、パソコンに精通している人ほど、年収や役職が高くなる、という傾向が生まれてきています。日本でも、パソコンに精通している人と精通していない人との平均年収は、勤務対象年齢においても100万円以上の格差が出始めていると言われています。特にパソコンを使いこなせるかどうかで所得格差が拡大しているという、このような概念を、最近では「デジタルデバイド」、日本語で「情報格差」と呼んでいます。

 例えば、電子メールのチェックを行なっているか、パソコンに無理なく文章が書けるか、すぐに返信が書けるか、文書を添付できるかなどは、最低限の必要機能になってきており。それが仕事の完成度の差として反映されていることを示唆しているものなのでしょう。わが国でも、一部の学会は、学術集会の演題登録をインターネットのみに限定する傾向が出てきています。そうなると、インターネットとを利用できなければ、学会発表ができない、ということになります。その結果、医学の領域では、学術業績や大学などの役職に差が出てきたりして、年収の格差につながるかもしれません。

民族問題にまで発展の可能性

 上記のデジタルデバイドと呼ばれるように、インターネットを利用できる人と利用できない人との間に、収入、雇用などに、大きな格差が生まれてきていることは、米国のような多民族国家では、大きな問題です。そして、デジタルデバイドの解消は重要です。インターネットの恩恵を受けられない人にとっては、反発を覚えるばかりになるからです。このデジタルデバイドの問題は今後、米国のような多民族国家では、大きな政治的な問題になるかもしれません。これが米国のインターネットの発展に、大きなブレーキを掛けるだろうという分析もあります。その点、日本は単一民族国家なので、デジタルデバイドの問題は、民族の問題にまで発展する可能性はほとんどないといって良いでしょう。その分、インターネットを進歩させやすく、1つの商品、1つのシステムが成功したら、それをどんどん推進する環境に恵まれているのです。ですから、日本では、1つのインターネットにおける成功例が現れれば、それを広めやすいという土壌があります。

高速ネット分野で米国抜く日も

 Wireless local loop(WLL)という無線技術を利用した高速インターネット技術をはじめ、ブロードバンド高速インターネットと呼ばれるシステムが、2000年夏頃から日本中でサービスが開始されます(図)。そうなると、1.5Mbpsという高速通信が可能になり、画像などの送受信が可能になります。(この内容は6月1日号でも解説しました)。

 ただし、wireless local loopのサービスは無線を利用するので、遮蔽物が多い地域では、利用しにくくなります。東京や大阪では、高層ビルはありますが、ニューヨークのマンハッタンのように、高層ビル同士が、近接していません。ですから、高層ビルの中で最も高い高層ビルから無線電波を飛ばすことができます。つまり、wireless local loopを利用しやすい地域性があるのです。ところが、もし、マンハッタンでwireless local loopのサービスをするとしたら、すぐに高層ビルの近接性が問題となり、サービスを受けられるビルを受けられないビルとができてしまうでしょう。それによって、利権関係が出てきたり、不平等感が生まれるかもしれません。

 このように、例えば無線インターネット通信だけを取っても、日本では成功しやすく、米国では成功しにくい、ということがあるわけです。無線インターネットは、コスト面では有利なので、有線インターネットよりもプライス競争になったら強い、という側面があります。

 今後、wireless local loopが、日本の製薬企業や病院などによって採用され、医療業界に広がれば、日本では、遠隔医療や遠隔治療、テレビ電話、テレビ会議システム、動画を利用した病診連携、医療動画を配信するインターネットテレビ局という構想が、急激な速度で現実化していくことでしょう。そうなれば、日本の医療のインターネットシステムは、一気に米国の医療のインターネットシステムを追い越すことになるかもしれません。

日本が世界の最前線に

 前号と最終号では、「インターネットの最先端を走る国は米国である」という「神話」が消えかかっていることを示唆しました。このことは逆に、日本のインターネットシステムが、世界の最前線にたつレベルになってきたことを意味します。これには、良い意味も多いのですが、悪い意味もあります。インターネットが進歩していくうえでのメリットも受けやすくなりますが、リスクも負いやすくなるということです。ハッカーなども、これまでは米国発が多いわけですが、今後は、日本をねらったハッキングというのも増えてくることでしょう。

 ですから、こうしたメリットとデメリットをしっかりと認識しながら、日本の医療におけるインターネットというものを考えるべき時期にきたのではないか、と思います。わが国には、日本インターネット医療協議会(JIMA)などの研究会があり、こうした問題をまじめに考える機関があります。そうした研究会には、ぜひ、これからも参加者が増えてくれば良いと思っています。

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