Medical Tribune 2001年9月27日 28ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
海外の学会内容をインターネットで送信 ハイライトの速報は普通のサービスに
タイムラグを埋める
海外の学会に参加するためには、大変な費用と労力がかかります。多くの医師は、期間中は外来診療をキャンセルしなくてはなりません。5〜6月や9〜10月などは、国内学会も集中するため、国外の学会にも参加するとなると、外来診療が十分こなせなくなり、患者に負担をかけることになります。また、多忙な病院の勤務医の中には、国内学会への参加も困難なのに、国際学会はなおさら、という人も多いでしょう。海外の学会は全て英語で講演されますから、英語の理解力や表現力も必要です。
従来、そうした国際学会のハイライトニュースは出版社の記者が取材し、それを編集長が内容をチェックし、医師が監修した後で、プリントメディアとして発行していました。しかし、それでは、発表時から、かなり遅れた内容の情報になってしまいます。
例えば、大規模臨床試験などの最終報告の結果に対しては、多くの人が興味があるはずです。しかし、海外の学会に参加できず、プリントメディアからしか情報を得られない医師の場合には、情報を入手するのに1ヶ月以上もかかってしまうかもしれません。書籍や雑誌にレビューとして紹介されて、そこから情報を入手するのは、さらに遅れてからになるでしょう。
最近では、インターネットがそうしたタイムラグを埋めてくれるようになりました。海外学会ハイライトの速報サービスが普及してきたからです。記者が現場で生の講演を聴講し、その内容を編集したものを専門領域の医師が監修し、その内容を日本に48時間以内に送信してくれるサービスもあります。
Medical Tribune社が行っている、海外学会ハイライトニュースも先駆け的な存在で、すでに4年の歴史を持つサービスになってきています。(図1)。幸い私はこのサービスモデルを考えた立場の医師であることから、糖尿病分野の監修医として参加させてもらっています。今回はグラスゴー(英国)の欧州糖尿病学会のハイライトニュースの監修を依頼され、現在当地に滞在中です。糖尿病の一次予防に焦点を当てたセッションが3日目にあり、それが目玉でした。いわゆるDiabetes Prevention Programme,略してDPPという大規模臨床試験のfinal resultが発表されました。この内容は、いち早く整理され、ハイライトニュースとして日本の読者に送信されました。(図2)非常に多くの糖尿病の専門医達が、いち早く読む内容になり、監修としても重大な責任があるので、しっかり聴講し、内容を分析してきたつもりです。
こうした学会のハイライトニュースをインターネット上の情報サービスとして活用することは、日本のみならず海外でも、製薬企業が支援するサービスとして標準になっているようです。製薬企業にとって、自社製品に関する最新情報を関連領域の医師達に知らせることは、あるいは、その薬剤に対する最新の情報を知ってもらうことで、医師達はその薬剤を処方しやすくなるでしょう。特に専門家ほど、非専門家よりも先にそうした情報を知っておき、非専門医や一般臨床医に教えなくてはならない立場にあります。ですから、こうしたサービスは専門医の方がニーズが高いようです。
復習や辞典などの調べ物にITを利用
海外の学会に参加するとき、私の場合は講演を受講すると、その内容を当地で復習する事が増えてきました。ホテルに戻ってから、その講演者の論文の趣旨をMEDLINEを使って探しては確認し、内容をチェックすることも少なくありません。
あるいは、英語辞典や医学英語辞典などもインターネット上にありますから、場合に応じて様々なものを利用します。関連する用語から論分や記事を調べたりすることも簡単です。
Medscape(http://www.so-net.ne.jp/medipro/)を利用すれば、海外の医学関係の薬剤データベースもチェックできます。聞き慣れない薬剤を調べる場合、そうしたサービスを利用するようにし、分厚い辞典は持ち歩かないようになってきました。海外へ持参する荷物の量は、昔の半分以下になり旅行が楽になりました。
ネットでの検索機能とCD-ROM
最近では、海外では学会会場にインターネットコーナーがあって、聴きたい演題を検索できます。米国糖尿病学会では、数年前から導入していますが、年ごとに利用する人たちが増えているようです。あまりに利用者が多いので、利用時間が制限され、時間を超えると監視員にすぐにチェックされます。日本でも同様のサービスがあり、自宅で学会の抄録から受講したい内容をチェックしておく事ができるようになりました。日本糖尿病学会では、3年前からそうしたシステムを導入していますが、学会利用の効率性を大きく高めています。しかしながら、そうしたホームページがいつまでも維持され、サーバーに残されているとは限りません。ですから、米国の学会のように、学会場で抄録内容をCD-ROMに記録して配布してもらえば助かります。それをもらえば、将来、全くアクセスできなくなるという危険は無くなり、かつ分厚くて思い学術集会の抄録集をトランクに入れて持ち帰る必要がなくなるからです。
出発前にアクセスポイントをチェック
このように海外の学会では、インターネットの利用が必須になってくると、ホテルに着いたら、まず点検するのがインターネットへの接続環境です。私の場合は、So-netをプロバイダーとして選んでいるので、海外ではローミングサービスを利用します。米国ではフリーダイヤル制なので助かります。出発前に、必ずアクセスポイントを調べておくようにしています。怠ると、日本のアクセスポイントに電話することになり、とんでもない電話料金を後で請求されることを覚悟しておかなくてはなりません。
ホテルの接続環境のチェックを忘れずに
最近では、名の通ったホテルであればどこでも電話機の横にデータポートがあって、そこにジャックをはめ込むだけで利用が可能です。使い方がわからない時にはホテルのコンシェルジュに相談すると、システム担当者が教えにきてくれます。
1996年ごろは、米国の有名なホテルは、インターネットの利用を無料で、かつ使い放題にしていました。
つなぎっぱなしにして、1日100円で済むというホテルもありました。ですから、そういう条件があるホテルを探しては宿泊していたものです。
しかし、最近では、インターネット利用者が増え、それによるメンテナンス費用を確保するためなのか、電話料金を取るシステムに切り替えつつあるホテルが増えているようです。インターネットは当然のサービスになってしまって、無料で利用できる事が、ホテル側の宣伝材料にはならなくなったからなのでしょう(現在、滞在中のグラスゴーのヒルトンホテルでは、1回ごとに電話料金がかかります)
また、ホテル内でインターネットを利用すると、電話線のラインが1本ふさがれてしまいます。そのために、必要な時に連絡が取れないこともあります。最近では、そうした問題を解決するため、一部屋に回線が二つあるホテルもでてきました。
学会がアジアのリゾートなどで行われる事があると聞いています。リゾートホテルには、インターネットどころか、プロバイダーすらないことも多くあります。プーケット(タイ)ではメールチェックもできませんでした。また、メキシコのホテルを利用した時、回線速度があまりにも遅く、結局、ホームページを開けませんでした。諦めてインターネットカフェを利用しに行ったのですが、やはり、同じ速度でした。カフェの利用時間は30分なのに、日本のホームページにアクセスするのに12分以上かかった事があります。
このように、海外でのインターネット利用は、十分に注意しておかないと、とんだハプニングに巻き込まれますから注意が必要です。昔は、海外の学会に行く時に、注意すべきは電源プラグの形でした。しかし今は、インターネット環境があるかどうか、速度はどうかの方が大切です。よく前調べをしてから渡航された方が良いでしょう(欧州糖尿病学会出席のため、グラスゴーから)