第17回 医療分野におけるインターネットでの宣伝問題
MEDIAPEX インターネット進化論 1999年12月15日 第209号 ©︎鈴木吉彦 医学博士
医学情報公開のルールが必要
医学的情報の広告については、多くの問題があります。例えば、まじめな医師が患者の事を真摯に考え、病気の知識を提供することで、医療機関としての信頼度を高めると同時に、患者と医師間の医師疎通、コミュニケーションを深めることを目的としてホームページに情報を提供するのは問題がないでしょう。
しかし、医師が病院やクリニックのために、新規患者を多く集めようとする意図が強くなり、営利目的の色が強くなると問題が起こります。正しい情報はゆがめられ、商業主義が前面に出て、ホームページは営利競争のための道具となる心配があるわけです。
例えば 「〇〇という病気を治すのは難しい」という情報を発信する医師よりも、「○○という病気は私ならば簡単に治せる」、という情報を発信する医師のほうが、新規患者を集めやすいでしょう。しかし、後者の情報が本当に正しいかどうかは問題です。
米国では、癌やエイズなどの病気に虚偽の宣伝広告をしていた商品販売業者に対し米連邦取引委員会は改善勧告を行っています。今後、こうした情報の管轄は政府が行うべきか、民間の良識にまかせるべきか、難しいところです。また、政府が管轄したものが正しいかどうか、それをさらに誰が管轄するか、最終的には、誰がどういう責任で管轄した内容が正しいのか―などという問題もあります。
ですから、自浄作用が働き、悪い広告や宣伝情報は淘汰され、真摯に患者のことを考えた正しい情報だけが残っていくような形になるように、インターネットでの医学情報公開のルールがなくてはいけません。
逆説的な情報の公開をどう考えるか?
薬害、副作用、薬の安全性に関する情報は、製薬企業への協力も得て、ホームページ上で公開する計画があります。ところが、製薬企業にとってこうしたネガティブな情報は出したくありません。一生懸命公開しようとすると、その企業の薬剤は副作用ばかりがあるように思われてきます。つまり、こうした情報は、出せば出すほどマイナスイメージに繋がり、情報提供者にとってメリットがない情報であるわけです。
また、例えば、病院の空きベッド情報も、空きベッドがあることを公開すればするほど、入院を希望する患者が少ないことが、他人にわかってしまいます。それは病院のイメージを悪くさせかねません。こうした情報も、公開するほど、ダメージになるかもしれない情報です。
インターネットで、こうした送信者にとってメリットにはならず、ダメージになるかもしれない情報を公開する時、これは宣伝とは逆の意味になり、逆説的な情報ということになるかもしれません。インターネットが出現する前までは、こうしたケースはみられることが少なかったのですが、インターネットが普及してからは、よく遭遇する問題になりました。ですから、最近では、なおさらのこと事情をよく知っている医療関係者だけが集まる空間の必要性が高まっているともいえるわけです。
(MyMediproを参照:http//www.so-net.ne.jp/medipro/login.html)
患者が医師の悪い宣伝をしてしまう
インターネットを利用すると、社会に対し、大きな打撃を与えることもできます。例えば、1人の一般人がホームページを開設し、そこで団体を批判することもみられてきました。そうなると、診療に不満をもつ患者が、個人のホームページを開設し、医療側の対応を批判する―というケースが出てくるでしょう。つまり、ホームページを使って、医師に対して故意に悪い宣伝をしてしまうような状況が生まれてきます。
こうなると多くの医師は、患者さんからの訴えや公開を恐れて、リスクの高い治療の選択をしないようになりはしないかと心配です。難しい患者さんは、できるだけ他にまわして、軽症の患者さんしか診察しない医師ばかりが増えてきてしまうかもしれません。また、単に治療成績だけが公開されるようなことがあれば、医師の価値が、まったく反転して一般に公開され、評価されるということになりかねません。なぜなら、難しい病気ほど治療成績という数字の上では低い回復率にしかならないからです。
インターネットは利便性だけを強調されがちですが、一方では医療業界においては<医師>対<患者>との関係を、根本的に覆すきっかけを作ってしまうかもしれません。
最近、厚生省や医療機関の広告規制を緩和する方針を発表しました。法律が実施されれば、医師の得意分野、学歴、学位、経歴などが公表できることになります。インターネットは医療業界における病院や医師の「宣伝」の意義を大きく変えてしまう原動力になったといえるでしょう。