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『臨床栄養』 医師薬出版株式会社 Vol. 91 No.7 1997. 12 ©︎鈴木吉彦
はじめに
インターネットは爆発的な勢いで成長している情報の道具である。インターネットにより、情報の流れや質が変わり、文化、産業など、あらゆる意味において影響をうけつつある。
インターネットとは、未来の多くの夢を語るうえでのキーワードである。未来の文化や、未来の社会を論じるには、なくてはならない技術だといえる。10 年後の日本の社会では、インターネットを制覇しているものが、次世代の情報産業へのキーを握っていることは間違いない。
インターネットは、 マルチメディアの中心的道具になる(図1)。 他のメディアと違う点は、インターネットは双方向性機能を有していることより、他のメディアを操作する立場に位置するということである。これまで双方向性のメディアといえば、主体は電話だったが、インターネットは電話機能の次元をさらに高めたもので、電話以上のことができる(図 2-1、 2)。
こうして生まれるインターネットを中心とした社会は、これまでの情報社会とは異なる考え方やルールが必要になる。 インターネットがつくり出す情報社会は、情報が氾濫する時代の社会である。 いい換えれば、内容を読者が選択する社会、である。社会の規範も、情報を選択する側の立場から再構築される。従来のようにテレビ、ラジオ、新聞といった情報を送る立場が中心に構築する社会構造の意義は低くなってくると考えられる。
こうした社会において、どのような姿勢で情報発信者になっていけばいいか、あるいは、読者としてホームページを利用するときにはどのような注意が必要か、などは今後、ますます議論されなければならない問題である。
筆者は日本最大の医療情報を有するホームページ「Medical Profession」を運営するチーフプロデューサーであり、糖尿病の専門医でもある。また本誌『臨床栄養』の編集幹事も務めた経験を生かし、インターネットで多くの栄養関連の企画を計画し、かつ実際に運用している。本稿ではその活動の一端を紹介すると同時に、インターネットの特徴といえる側面の一部を解説する。
インターネットをテレビで利用する時代がはじまる
インターネットを利用するには、これまではパソコンが必要だった。しかし、1年以内に日本ではインターネットをテレビ画面で操作できる機器が市場に出回ることだろう。現在は、 WebTVシステムが普及しようとしているが、キーボードを扱うなど日本人の一般大衆にはいまだなじめない。これに対し図3に示すようなペンタッチで書き込めるシステム(現在、ソニーコミュニケーションネットワーク;仮称 So-netが開発中の装置。 テレビにペンを使い手書きで電子メールを書ける)が普及すると、高齢者でも子どもでも多くの人たちが簡単にインターネットを利用できることになる。家庭にもインターネットが広く普及するきっかけになると考えられる。
インターネットで理想体重や必要エネルギー量の計算が簡単に
図4は、筆者らが開発したインターネット上でのプログラムである。身長と体重を入力するだけで瞬時にして、理想体重、体重オーバー、過剰エネルギー、必要エネルギー量、必要な糖質量、たんぱく質量、脂肪量、Body mass index、 ローレル指数を計算してくれる
(http://wwwso-net.or.jp/viviane/dietmac/weightcheck.html)。 特別なコンピュータプログラムを購入しなくても、簡単に計算できる。もちろん無料である。このシステムは、栄養士だけでなく患者自身でも実行できるものであり、患者の教育や自己学習に役立てることができる。
医学文献データベースMED-LINE が自宅から、いつでも検索できる
医学文献データベースである MEDLINE は多くの医療関係者に利用されている。従来、MED- LINE は大学や病院の図書館でしか利用できなかった。購入しようすると、CD-ROM 5枚で20万円前後もしていた。しかし、インターネットではMEDLINデータベースは世界の1カ所にあれば、それを世界中の人が共有できる。だから個人レベルでは高額な支出をする必要がない(図5)。 「Medical Profession」では、 MEDLINE を月額利用料金 400円以下で利用できるサービスを提供しているが、こうした値段設定ができるのもインターネットの特徴を利点としていかせればのことである。
(図 6、http://www.so-net.or.jp/medipro/search.html)。 インターネットは高額のデーターベース検索を身近なものに変える技術といえる。
これによりMEDLINE は、図書館や病院でしか利用できないのではなく、自宅でもどこでも、 そしていつでも利用可能になる。帰宅し夕食を終え論文を書いているときに、じっくりと文献検索できるのは、論文執筆者にとってはたいへんありがたい。
さまざまなサービス(データベース やプログラムなど)の利用権を購入する
表1に示すのは「Medical Profession」で会員に提供しているMEDLINEを含む約 70 種類のサービスである
(http://www.so-net. or.jp/medi-pro/club/index.html)。
こうしたデータベースやプログラムを従来の感覚で購入すれば数十万円と高額なものになるだろうが、しかしインターネットではそうしたソフトやデータベースを購入するという感覚は必要ない。むしろサービスの利用権を購入するという感覚が普通になる。実体のあるものを購入せず、利用権を買い入れるという考えは、ビデオテープのレンタル方式や、衛星テレビなどで行われているペイテレビなどの方式と似ており、 安価に情報を入手しうる一方法である。
遠くの人同士で「語らい」ができるオンライン談話室
「Medical Profession」には、医療関係者しか利用できないインターネット空間がある(http:// www.so-net.or.jp/medipro/club/index. html)。 2100 名の会員を有し、このインターネットコミ ュニティのなかでは談話室を設け、会員は遠隔地の人同士でも身近な話題を相談できたり、掲示板として利用したりといった機能を活用している。多くの医療関係者に利用されている機能である。 現在、表1に示すように 23 種類の談話室をもち、会員同士の交流の場となっている。 職種別のコーナーには栄養士の方のための談話室もあり、栄養 に関する多くの会話が掲示されている。(図7、 http://www.so-net.or.jp/medipro/danwa.html)。
リアルタイムチャット「Medipro ちゃ楽」
チャットとは英語で「おしゃべり」のこと。インターネット上で、いろんな人たちと、文字を打ち込むことで、おしゃべりをする。テレビでたとえれば、生放送番組に参加しているような面白味がある。 Mediproの場合、会員は医療関係者に限定し同業者という点で安心して「おしゃべり」ができる。
これが制限もない「チャット」の場合だと、どんな人が会話をのぞいているかがわからない。医療関係者の会話に、患者が割り込んでくると、病気の相談になってしまい会話が進まなくなる。この意味で、こうした会員限定のチャットは貴重である、 図8はソニーコミュニケーションネットワークで開発した Medical Profession専用の 「Medipro ちゃ楽」の画面である(https://www.sec.so-net.or.jp/medipro/medline/member/chat.html)。
食品成分分析が自由自在にできる食品成分アナライザー
一部のホームページでは、食品成分表の計算プログラムを提供しているが、データを入力し結果がでるまでに時間がかかりすぎるものがほとんどだった。通常の電話回線でみているときには我慢の限度を越えるほど、計算速度や表示速度が遅いものもあり、一度利用しても2度目は利用する気にならなくなる。このため実際にはインターネット上での食品成分計算プログラムは普及していなかった。
筆者らはこの点を改良した非常に高速で計算ができる食品成分アナライザー、 The Diet (Web版)を開発し、現在、インターネット上で公開している。 (図9、http://www.so-net. or.jp/viviane/ diet 98/)。 科学技術庁の許可を得て公開しており、公開における権利は筆者とプログラマーの三輪氏とソニーコミュニケーションネットワークが保持している。この食品成分アナライザー The Diet(Web 版)は食品の選択も簡単で、食品成分の計算も非常に高速で日常臨床でフルに利用できる。重量を入力し、その他の成分を検索できるだけでなく、その他の成分を入力し、それから重量を計算できる(図10)。つまり、食品成分表のどの数値を入力しても、他の数値を即座に計算できる。この機能は、これまでのソフトプログラムでさえも具備しなかった画期的な機能である。
食品成分アナライザー、The Diet (Web 版) のこれらすべての機能は無料で利用できる。マックでもWindowsでもOSは関係なく利用できる。なお、Netscape Navigator 3.0 以上で利用されることをお勧めする。ただしプログラムの盗作および贋作は厳禁であり、ソニーコミュニケーションネットワークおよびソニー法務部が監視する。
このようなプログラムが普及すれば、食品交換表などの書籍テキストは不要となる。そのかわりに、すべての食品を食品成分表で計算できる時代の到来となる。そろばんの時代から電卓の時代へ変わった時のように、栄養計算システムの画期的な変換をもたらす。また、非常に高額だった栄養計算ソフトやプログラムが、従来の数十分の1の値段かあるいは無料で利用できるようになったことも画期的である。
ただし、このWeb版食品成分アナライザーThe Dietではデータの保存機能を具備していない。これは、科学技術庁の指導により、データベースを無断でダウンロードする犯罪を防止するためである。今後本ホームページの活用が拡大するにつれ、こうした機能を充実していこうと考えている。あるいは以下に示すデスクトップ型のWindows版プログラムで、機能を補おうと考えている。
なお、無料で公開する現在の栄養成分アナライザーWeb版は、患者に食品成分表という概念を理解してもらったり、ちょっとしたカロリー計算をしてみたり、というような教育的利用も可能になる。
Windows版食品成分アナライザー「The Diet」
これまで食品成分計算プログラムは MS-DOS版のプログラムや Mac 版などが市販されていた。 Windows 版も市販されているが、いずれも10万円から20万円もする高額なものだった。パソコンが高価なことプログラム自体の市場規模が小さいこと、開発費がかかりすぎること、 パッケージやマニュアルにも相当な費用がかかること、などの問題が、価格をつりあげていたことによるまた、 OS (プログラム言語)が進歩することで、昔のソフトがすぐに使えなくなることも開発の障害となっていた。さらにソフト会社は、先行投資を回収できないで、 プログラム開発を断念せざるを えない状況に陥いることが多い。 これに対し、インターネットの各種機能を使えば、プログラムの販売が簡単に、しかも安価に可能になる。 オンライン課金システムを利用し、購入者はカード決済で商品を購入し、店舗を介さず に、直接、インターネットからプログラムをダウンロードできる。同時にマニュアルもダウンロードできる、人手を介さない点パッケージなどが不要な点、マニュアル本をつくる必要がない点などから、かかる費用を極端に削減できる。こうした利点を生かし来年早々、筆者らは非常に低価格のWindows 版の「The Diet」を発表する予定である。
栄養相談を有料で
筆者が担当するソニーコミュニケーションネットワークのMedical and Health projectでは、97年12月より糖尿病患者向けの栄養相談コーナーを設け、有料でコンサルト業務を行う予定である。保険診療ではなく、栄養士と患者との合意でコンサルタントを受けてもらおうと考えている。
これまでインターネット上では、医療専門家と患者との相談は無料で行われ、医療側のボランティアで行われるのが普通だった。しかし、それでは医療側が報われないまま続けることになり結局、中断する場合がほとんどである。しっかりした管理を続けるには、高品質な情報を患者に提供し、 情報提供側が受け手側から適切な対価を受ける必要がある。アメリカでは、ある程度、相談内容が煮詰まった段階で、電子メールだけでなく、オフラインでも相談するシステムがあるようだ。
海外の栄養関連サイトを日本に紹介
海外の栄養学の事情を知ることは、これまではたいへんにむずかしかった。外国の書物や雑誌を取り寄せて読むしか手段はなかった。しかし通常の病院では栄養関係の海外雑誌を定期購入していることはまれである。これに対し、インターネットでは世界中にある栄養学の知識や指導法を、自宅からアクセスできる。
大学や図書館に通う必要すらない。これは世界的な視野で学習できる意味で研究に多大の貢献 をもたらすことになろうし、若い栄養士が英語の 学習をしたいときにも役立ち、向学心を高めるきっかけにもなる。
ソニーコミュニケーションネットワークでは、 こうした海外の栄養関連のホームページを和訳し、 日本の栄養士の方がたに紹介するプロジェクトを計画している。98 年はじめにかけて、そのプロジェクトを
「Medical Profession (http://www.so-net.or.jp/medipro)」上か、
「Viviane the Diet (http://www.so-net.or.jp/viviane/)」上で、あるいは、特定の栄養関連ホームページで紹介していくつもりで、英語に堪能な栄養士を募集中である (medipro@so-net.or.jp へ問合せを)、 内容は学問や研究をする方がたへの貢献を目的としているので無料で読めるような形式を考えている。栄養関連の学会などからの後援や援助があればありがたい。
栄養士関連の文献を探すための機能限定 MEDLINE
われわれは、世界の栄養関係の文献を探すためのKey Word機能限定MEDLINE を計画している。通常のMEDLINEに対し、栄養に関する Key Word を限定し、そのキーワードが含まれる検索だけが可能になる。予定では、 diet or obesity or food or nutrition などの4つのキーワードが、「or (あるいは)」で条件づけされた検索形式を考えている。この4つのキーワードのいずれか一つを含み、それに、さらに「新しい検索用語」を「and(かつ)」で条件を加えた検索ができるシステムにするつもりである。すべて無料で利用できるようにし、画面も日本語のインターフェースがついている点で海外のMEDLINEよりは、はるかに使いやすいはずである。また、このMEDLINEで、MEDLINEの利用法や意義を試すことで、文献検索の意義が理解してもらえるならば、学生教育などへの応用は可能と考えている。(http://www.so-net. or.jp/fit/freemedline/diet-obesity.html)。
全国の栄養関連施設や大学が集合し たホームページを計画
インターネットで、情報が無料で集められるという時代は、 もう古い。インターネット上で各ホームページを渡り歩くことを、インターネットサーフィンするというが、サーフィンしても集められるのはゴミ情報が多いため、目的とする情報にはたどり着けない。多くの場合、サーフィンでは電話料とインターネット接続料と時間を無駄にしてしまうことが多い。
そうした問題を解決するには、価値ある情報を、一つのサイトに集合させておくことが必要である。このため、全国の栄養関連の施設や大学が集合したホームページを企画中である。あるいは、栄養関連学会などのホームページの運営を援助することも考慮中である。
なお、現在筆者が運営しているソニーコミュニケーションネットワークのサイトの中には、日本糖尿病学会のホームページの管理をも委託されている(http://www.jds.or.jp/)。 糖尿病学会のホームページでは、学会抄録などもオンラインで登録したり、学会の各支部ごとのホームページが運営されている。 糖尿病学会と提携協力しつくったFree MEDLINE もある
(http://www.so-net.or.jp/fit/freemedline/dmsearch.html)。
また、本誌『臨床栄養』の目次案内が含まれる医歯薬出版のホームページも、ソニーコミュニケーションネットワークの「Medical Profession」 内の雑誌のコーナーにある(http://www.so-net.or.jp/medipro/journal.html、あるいは、http://so-net. or.jp/medipro/isyk/mainfo/eiyou.htm) (ただし「臨床栄養』はまだ目次だけ)ぜひ、ブックマークをつけられ、最新の話題の雑誌などをいち早く入手するような習慣をつけていただければと考える。なお「Medical Profession」には、日本で出版されている医書 16,000冊のなかから、目的の本をたちまちに検索する検索エンジンがあるのでれは、ぜひ一度は体験していただきたい(http:// www.so-net.or.jp/medipro/books.html、あるいはhttp://www. so-net.or.jp/medipro/jmpa/ search.htm)(図12)
Video On Demand
患者教育や学生指導において、これまでは、書籍のほかに、動画教材としてはビデオなどが利用されていた。しかし通常、ビデオは1、2度みたらその後はみないことが多いものである。たった 1、 2回の視聴のために高額な料金を支払っていた従来のシステムは、効率の悪い無駄の多いシステムだった。これに対しインターネット上での転送速度の技術革新が起きれば、テレビに劣らない画質の動画画像と音声を放送できる。 On Dernannd (必要があるときに)で、 ビデオ画像を入手することも可能になり、あるいは講演会やライブ中継をみることもできるそうなると食事指導でも初期段階の指導はインターネット上でのビデオ教育にゆだねることができるかもしれない。これまでのビデオ学習とは異なり、インターネットの Video on Demand は、患者がみたいときに、どこでもみられるという点に特徴があり、患者の教育レベルにあった内容も選択できることから、教育効果は高まるに違いない。
臨床栄養 医師薬出版株式会社Vol. 91 No.7 1997. 12 ©︎鈴木吉彦