My Medipro

インターネットが医療を変える第7回

「My Mediproに期待される

Chain Networkの魅力

 

鈴木吉彦 ソニーコミュニケーションネットワーク㈱General Manager 医学博士

雑誌名:Medical ASAHI  2000年12月   朝日新聞社  

58ページから60ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

●新聞に掲載された記事

10月9日付日本経済新聞に、「スズケン、ネットで医薬品発注、ソニー系接続業者と提携」、「11月からSCNの医療ホームページ、Medical Professionで、会員の医師や薬局経営者から医薬品の注文をろ。(途中省略)メディプロの会員は3万8千人。提携でSCNは会員サービスの内容を拡充できる一方、スズケンは医薬品分業で細分化しつつある顧客を効率的に把握できるとみている。」という記事が掲載された。スズケンの場合、My Mediproを活用し、業務を行う目的は、My Mediproホームページ画面の上にあるサービスコードという閲覧者を限定できる仕組みを利用し、それによってスズケンの会員だけに対する“窓口”を開くことにある。会員だけを中心にしたサービスという仕組みを作ることが、定痙の主旨である。

●自社だけで意思を集めるのは難しい

 最近ではスズケン以外でも、自社でホームペ-ジを持ち、自社だけで医薬品の受発注システムを作ろうと計画している医薬品卸流通業界関連企業や医療機器関連企業も多い。しかし、これまでの傾向を分析すると、どんなに医薬品卸流通業者や医療機器関連企業が、各自のホームペ-ジ上でサービスを展開しても、医師はそれを利用しようとしない。その結果、たとえどんなに優れた受発注システム、あるいは、電子商取引(e-commerce)システムを構築したとしても、医師あるいは医薬品や医療機器の受発注担当者が、その画面までナビゲートされなければ、あるいは、もともとインターネットを活用しなければ、そのシステムは価値のないものになる。

ホームページは、インターネットの世界で数知れないほど存在する。その中で、ある特定のホームページにアクセスするという動機づけを医師が持つには、それなりの理由が必要であり、医師がそれを習慣としているという条件が必要である。しかしながら、現在の医療業界における電子商取引システムを観る限りにおいては、医師にとって魅力を感じさせるほど、あるいは、何らかのインセンティブを感じるような電子商取引システムは、日本の法律の下では、構築しにくいのである。

●Value Chain NetworkとしてのMyMediproの活用

こうした背景を分析し、スズケンのみならず、最近多くの医療機器企業(テルモ、ジョンソン&ジョンソン、日本コーリン、日本バクスター社など)も、My Mediproというホームページを活用し、MyMediproとの提携を決定している。つまり、提携された企業の皆さんには、MyMediproは、医療業界におけるデファクトスタンダードになった、という理解があるのだと思う。ポータルサイトを自社で構築するよう努力することにより、MyMediproの機能の上に構築したほうが、各社が持つ独自性の高い、より高次元のシステムが構築できると、と経営者の方々が判断されたものと私は考えている。

医療業界の各企業は、これまでは、インターネットでホームページを持つのは、ドメイン名を取得することにこだわり、あるいは読字でセキュリティーや認証を作り、独自で会員制を構築し管理すること、さらには、独自で営業しプロモーションをすることを当然のことと考えていた。しかし、MyMediproのようなデファクトスタンダードの出現によって、上記のような独自性に固執する必要性は少ないかもしれないということに、皆さんが気が付き始めたのであろう。

であるから、自社だけで上記のような一連のプロセスを完結するということに固執せず、玄関としてのMyMediproの価値(value)を評価し、それにつながる価値としての電子商取引の価値(e-commercevalue)については各社が独自でかいはつし、その二つの価値(value)をつなげることの方が(chain)、より高い価値に到達できるという方向性を見いだそうとしているといえるのではないだろうか。これは、複数の価値同士がつながったネットワーク、という意味で、英語でよく表現されるValue Chain Networkを構築しようという概念である(図)。

医療関係者向けの“玄関”は、MyMediproの任せてしまうことによって、実は医療関係者をナビゲートするために割いていた時間や労力を、本来の電子商取引の分野に注ぐことができるようになる。すなわち、Gatewayあるいは“玄関”あるいは“窓口”と呼ばれる概念の独自性に固執しないことによって、電子商取引の分野に、より高い独自性を見いだせることになる。簡単にいえば、役割を分担することによって、本来の各事業の役割に、より高い独自性を見いだすことが可能になるわけである。

具体的には、MyMediproとの提携企業は、One-To-One技術という顧客満足度の高いシステムを体験し、実験し、実証していくことが可能になる。さらには、

MyMediproの上で、サービスコ-ドを利用して独自の会員制システムこうちくしながら、しかし、反面、認証といった手続きはMyMediproに委託していることによって簡素化できる。企業を認識するパスワ-ドというべきサービスコ-ドを、MRやMS(Marketing Sales)が医師に手渡しをすることだけで事足りてしまう。例えば、MyMediproと提携した企業のMRやMSは、「IDとパスワ-ドを忘れた」という顧客(医師や薬剤師)に対しての煩雑なカスタマーサポートからは解放されるわけである。

さらに、世界的にみても、MyMediproのコンセプトや技術レベルは世界水準にあり、米国でこのコンセプトを発表すると非常に驚かれる。それは、IT関係ではトップを走るソニー(株)の技術が支えているのであり、そのメリットがMyMediproには多く反映されているからでもある。また、ソニー系企業はソニー銀行構想を始め、将来にわたる多種多様な決済システムの準備を始めている。デビットカードだとか、クレジットカードだとか、特定の決済に固執するような姿勢ではなく、決済という概念をもっと広い視野から構築しようとしている(ただし、具体的な内容は企業秘密である)。

MyMediproと提携をする企業は、こうしたソニー系企業が持つ将来性や、現状での高いIT技術を活用することによって、複雑で手間がかかるインターネットの技術レベルで他社と競争したり、それによって他社と差別化するためにかけるべき労力や時間を節約できることになる。MyMediproにおいては、認証から検索システム、あるいはOne-T o-One技術など、非常に高い技術を創造し、それらのスクラップ&ビルド(scrap and build)を、日々、繰り返している。それによって得られた実験や、その実験によって得られる成果を、MyMedipro提携企業は、皆で共有することができるのである。

●MyMediproとの提携によりメリットを感じる企業

 スズケンの記事が新聞に掲載されたばかりなので、今回はスズケンを例として取り上げたが、MyMediproと提携される企業は皆、上記のようなメリットを同じように感じているのだと思う。つまり、医薬品卸流通業者のみならず、製薬企業にしても、医療機器関連企業にしても、医療関係者を自社のホームページに集客するということだけで、これまでは、莫大な費用と労力を費やしていた。認証システムの統一化がなされないために、各社のIDやパスワ-ドを個々に医師が覚えておくはずはなく、結局は医師の集客という活動には失敗していた。その結果、莫大な費用を投じた割には見返りが少なく、各企業のインターネット担当者は社内では低く評価され、心苦しい思いをしていたようである。

このような失敗を各企業がそれぞれ経験し、認証技術などにおいて独自性を持つことによるデメリットを自覚したのだと思う。それであれば医療関係者の集客、ナビゲーションという価値の蓄積、あるいは会員制システムの構築という点においては、MyMediproというデファクトスタンダードに機能の一部を委託した方が、費用対効果が高まるはずであるという理論に到達したのではないだろうか。実際、MyMediproと提携する前と後では、各企業のホームページへのナビゲーションをする頻度というのは、3倍から5倍に跳ね上がることが多い。MyMediproへの日々のアクティブ利用者は、4000人を超えている。魅力的なイベントがあると、5000人から1万人を超える医療関係者が1日にして集まることもある。このような状況があるからこそ、各医療関係企業は自社のホームページの所有制に固執することをやめ、Value Chain Networkに早期に移行することが、多くの医療関連企業の今後の基本方針になりつつあるようである。

●MSがサービスコ-ドを配布することにより医療業界に変化が起こる

 医薬品卸流通企業がMyMediproの提携をスタートすることによって、サービスコ-ドをMSから入手することが可能になる。例えばスズケンの場合、スズケン固有のサービスコ-ドをMSが医師へ手渡しで配布する。このシステムのスタートによって、スズケンのサービスを受けたいと希望する医師はスズケンのMSに訪問してもらい、「スズケンの情報サービスを利用したいから、サービスコ-ドを配布して欲しい」と医師が担当MSに依頼する。MSは相手が医師あるいは医療関係者であることを確認して、サービスコ-ドを配布することになる。

それを受け取った医師は、そのサービスコードをMyMediproの初回登録時に、あるいはすでにMyMediproの会員である場合には、プロフィール覧のサービスコ-ドの複数ある空間の一つに記入することで、初めてスズケンのサービスを受ける権利が生まれ、便利な情報サービスを享受できるようになる。スズケンはそれによって、多くの医師に満足度の高いサービスを提供し、医療業界における企業としての貢献度を高めていく。これまでのように、製薬企業のMRではなく、MSがサービスコ-ドを配布することで、日本中の多くの開業医や病院薬剤師などがMyMediproを利用できるようになり、情報サービスの受益者となると考えられる。

●製薬企業と医薬品卸流通業の医療品データベースとが連動できれば、画期的な情報サービスの誕生が可能に

MyMediproの代理店からの報告によると、2001年3月までには製薬企業の大手約40社以上がMyMediproに集結し、One-To-One機能を利用することを決めているようである。また、スズケンのビジネスモデルが成功すれば、医薬品卸流通業からも多くの参加企業が増えるかもしれない。既にクラヤ三省堂は「KSweb」という独自の医薬品情報サイトを運営し、医療関係者には無料で提供している。また、福神も「FINE PLAZA」という医療用医薬品に関するオリジナルデータやJAPICデータベースを有料で提供している。

10月28日埼玉県病院薬剤師会のDI研究会で内容を拝見したが、優れたサービスを提供しているので感銘を受けた。これらのサービスがMyMediproの概念とリンクされ、もし提供できるようになれば、複数の製薬企業と複数の医薬品卸流通企業のサービスのとの連動、という画期的なサービスが実現することが可能になるだろう。製薬企業は最新のオリジナル医薬品データを持ち、医薬品卸流通企業は現場の利用に即した形で整理した医薬品データを持つが、実は両者ともそれぞれの価値があり、相補関係にある。上記のデータベース連携が実現すれば、利用者である医師や薬剤師にとっては大変に便利な医薬品データベース情報サービスが構築できるだろう。これも、新しい形のValue Chain Network1の構築といえるかもしれない。

●自由競争の形があり自由があるのがMyMediproの魅力

また、MyMediproという機能のなかに、「こんなに提携企業が増え続けて、それを一つのホームページとして、取りまとめることが可能なのか」と質問されることが多い。しかし、それは可能なのである。MyMediproの場合、提携企業がどんなに増えても、One-To-One機能を利用した自由競争のルールがあるので、提携企業は増え続けることができる。例えば、最初にサービスコ-ドを配布する企業は、先行者メリットを得て多くの会員を獲得していくだろう。しかし、一人の医師が複数の企業から複数のサービスコ-ドを登録できるため、後続となる企業がサービスコ-ドを配布することになっても、その企業も努力すれば会員を増やすことが可能になり、それによって努力したメリットがある。」また、サービスコ-ドと連動し、どのようなサービスを提供していくかについては、知恵が必要である。知恵を出してより優れたサービスを提供すれば、それだけ多くのサービスコ-ドを求める医師が増えることになり、その製薬企業の会員も増えることになる。つまり、最終的には、自然の流れのなかで、情報サービスの健全な自由競争の形が構築できる。努力すれば努力した企業ほど、知恵を使えば知恵を使った企業ほど、メリットが返って来るようになるからである。

このような自由競争の形があることが、MyMediproの特徴でもあり、参加企業にとっての魅力でもある。受益者である医師や薬剤師も、各企業の競争の上で、より優れたサービスを受けられようになりまた各自がどの企業のサービスを受けるかの選択権がある。つまり、医師側や薬剤師側に自由があり、企業からサービスを押しつけられることがなく、それがまた一つの魅力となる。つまり、提供者側にとっても受益者にとっても魅力があるのである。その魅力がある限り提携企業は増えていくだろう。そして、MyMediproにおけるさまざまな実験や体験を各社が共有化していくその過程において、医師も薬剤師も企業も、皆がインターネットにおける特殊性を理解し、かつ、そのうえでのルールを守ることの大切さを互いに理解し合うだろう。その結果として、MyMediproには、健全なインターネット上の仮想協力空間都市(Virtual Corporation City)という形が構築されていくだろうと考えている。

雑誌名:Medical ASAHI  2000年12月   朝日新聞社  

58ページから60ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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