Medical Tribune 2000年8月10日 23ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
身近になったインターネット学会
資料の準備方法などが変わる
講演内容をライブで放送
インターネットでは,医学の学会や会議を開催することが可能です。文字だけでなく,音声や動画を送ることができ,また,ライブで動画や音声を送ることも可能になります。ですから,学会用の講演内容を,学会員がどこにいようと,多くの人々に見せることも不可能ではありません。ただし,現在では,ライブ放送のような機能は,同時アクセスできる人数が多い場合には費用がかかり,かつ送信できる動画の質もまだ満足できるものではありません。
これに対し,医学の学会では,細かい画像を精密に見せなくてはいけないという需要があります。特にX線写真や動画などのファイルは,ファイルサイズが大きく,1枚あるいは1分で数メガというファイルサイズの転送を余儀なくされることがあります。
ただし,こうした問題を解決すれば,インターネット講演会の実現は,ぐっと身近なものになってきます。特に,wireless local loop(前号参照)とか,光ファイバーなどの高速インターネット環境が日本全国に張り巡らされる時代になれば,動画の送受信は普通に生活の中に溶け込む技術となるでしょう。
スライドショーを使って見せる
医学の学会では,静止画を見せて,後は声だけで説明する,というのが講演のおおよそのパターンです。ですから,スライドを静止画にしHTMLで見せながら,音声だけをデータファイルとして送れば,満足のいく講演会を開けるかもしれません。最近では,データの送信側がページをめくると,それに合わせてそのページを見ていた利用者のページもめくることができるような技術も開発されているようです。これが実用化されると,講演者が「次のスライド」という指示をしなくても,閲覧者が見ている画面は自動的に次のスライドに変えることができます。つまり,複数の人が,講演者と同じペースで内容を確認し,受け取ることが可能になるわけです。
音声や動画を貼り付ける技術も
医学の学習において,ライブ中継が必要となるのは,手術中の状況を伝えるなど,やや特殊な場合だけでしょう。それ以外の状況では,ビデオ録画し,後でそれをデジタル動画データに変換し,ホームページ上で見せることでも十分です。
ライブにこだわらないのであれば,インターネットで公開する手段には,たくさんの選択肢があります。ホームページ上に動画を貼り付けるだけでなく,Power Pointのようなプレゼンテーションソフトに動画や音声を貼り付けることも可能です。あるいは,マック利用者であれば,Simple Textのファイルに,動画(QuickTime)を貼り付けて利用者にダウンロードさせることも可能です。MPEG形式に変換して,ダウンロードすることも可能でしょう。どの方法が医学会において一般化するか,まだ定まっていません。
発表内容をメモリースティックに
6月の米国糖尿病学会(ADA)に参加しましたが,驚いたことに,多くの発表がパソコンからプロジェクターを使って当社していました。スライドを使った発表は,見られなくなりました。おそらく,日本でも近々にこういう流れになっていくのでしょう。
そして,最近,Power Pointでプレゼンテーション用の資料を作ると,すぐに1.4メガを超えるようになり,フロッピーディスクにおさまりにくくなりました。そこでフロッピーに代わる記録媒体というのが注目されつつあります。ソニー系ではメモリースティックが有名ですが,新しいVAIOパソコンではメモリースティック機能が内蔵されています。ほかにも,スマートメディアという媒体があったり,今後色々な形の記録媒体が各社から発表されることでしょう。こういう高容量の記録媒体ができると,まずはメモリースティックにデータを保存し,それをパソコンに移してからインターネットを利用して他の人に送信するということが普通にできてしまいます。最近,テレビのコマーシャルでも,そういう機能を特徴とする内容がよく見られるようになってきました。
ですから,記録メディアとインターネットとの組み合わせによって,ネットワークという概念が大きく変化していくのだと思います。将来は,日本の医学の学会発表においても,「発表の前には,スライドをお持ちください」というのではなくて,例えば「Power Pointファイルをメモリースティックに入れてお持ちください,あるいはインターネットで学会事務局まで送信しておいてください」という案内が来るかもしれません。講演会での発表も,演者はメモリースティックだけを持参すればよい,という時代が来るかもしれません。
私の場合,講演会に参加するときには,これまでは新幹線の車中で発表に使うスライドを,スライドフォルダーのなかで並べ替えたりしていました。これが,結構大変な作業でした。スライドの順番を間違えると,最初から並べ直す必要があったり,と面倒なものでした。しかし,最近では発表先にまず,インターネットを使ってプレゼンテーションする内容を送信しておきます。そうすれば,現地に何も持参しなくてもよくなりました。あるいは,新幹線のなかでメモリースティックからデータをVAIOに読み込み,読み込んだPower Pointファイル上で,発表する内容を自由自在に並べ替えることができます。文字の間違いなども,その場でチェックし,修正することができるようになりました。これによって,講演会で発表するための準備が,非常に楽になりました。逆に,スライドを持って来てください,と言われる方が怖くなってきています。
大事な資料はサーバーに
大事な学会発表の資料などを持っていくことを忘れたりする場合があるかもしれません。あるいは,海外での学会参加時に,パソコンが壊れてしまうこともあります(実際に,私は米国糖尿病学会の最中にパソコンが壊れました)。そういう万が一の場合を考えて、自分が持っているサーバに,大事なファイルをFTP(file transfer protocol)し,アップロードしておけば,どこからでもダウンロードすることが可能になります。特に海外での発表では,資料をなくしたり,資料を入れていたパソコンがなくなったりしたら、大変なことになります。ですから,そのためにも,ぜひ,FTPという作業を覚えておいた方がよいと思います。
なお,最近ではプロバイダーと契約すると,自分のホームページを作るための一定のサーバ容量を取得することができるようになります。そこにFTPをして,大事なファイルをしまっておけば,海外や遠隔地の学界にでも,資料がなくなることを心配しないで,安心して出発することができるようになるでしょう。