Medical Tribune 2000年9月7日 43ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
日本のMRシステムが変わる(2)
One-To-One技術を活用した世界初の試み
「コンテンツで独自のモデル」
MyMedipro(http ://www.so-net.ne.jp/) には、現在,毎月3000人の割合で会員が増え続けていますが,その中の約6割が医師です。ですから,医師が訪問するポータルサイトという位置付けができてきました。8月現在で,MyMediproへの登録会員は延べ3万6000人を超えています。
「MR君」とは,MyMediproの画面の上で,表示されるべきMR個人個人のメッセージバナーを医師が利用するシステムのことです。このシステムは,多くの医師がMyMediproを訪問するときに,そのフロント画面に製薬企業のMRがメッセージを表示する形で待っていて,医師へメッセージを伝えてくれる,という点にポイントがあります。(図は,あるMRが特定の医師へ研究会の案内をしている例です。画面下に地図が示されています)。
このサービスは,これまでMRと連絡を取りたくても取れない,と不便を感じていた医師にとっては大変便利になり,役立つサービスです。製薬企業のMRにとっても,医薬品情報を伝えたい医師に対し効率的に伝達することが可能になります。このように,医師にとってもMRにとっても,役立つコミュニケーションツールが「MR君」というシステムである,と考えていただければよいと思います。
このサービスを開始するという構想を,ソニーコミュニケーションネットワーク(株)の次世代型コミュニケーションサービスとして,2000年4月にプレス発表したところ,大きな反響が起きました。特に,一般マスコミでは広く取り上げられ,『週間ダイヤモンド』(6月3日号)には「ネット時代のソニーの先兵,コンテンツで独自のモデル」というタイトルで掲載されました。しかし,このシステムを考案した本人は,こんなに大きな反響になるとは思いもよりませんでした。なぜ,「MR君」は公開前から評価されているのでしょうか。それを分析してみました。
“現役医師の発案”でも注目
第一の理由としては,米国にも似たようなサービス(e-detailing)はありますが,本格的な「One-To-One機能を利用した」MR支援モデルは世界初です。つまり「MR君」システムの提案はこれまで誰も踏み入れたことがない領域のインターネット事業に世界で最初に足を踏み入れた,というくらいの大きな挑戦なのです。世界中の多くの医師や製薬企業は,「インターネットが世の中を変える」という予感を感じてはいます。しかし,実際には何をしたらよいのか理解できなかった,あるいは実践できなかったことが多いのです。その悩みに対し,「MR君」は抜本的な解決策を提案しています。プレス発表後,ある製薬企業からは,グローバルなMRの支援業務用として利用したいという要望もあったくらいです。世界規模の大手製薬企業の世界戦略会議へ参加の要請があったこともありました。また,米国の人気サイトでも,トップ20のうちの約半分がOne-To-Onの概念を採用しているというレポートもあります。つまり,成功しているホームページではOne-To-Onを採用しているということが最近,明らかになってきているのです。
第2の理由としては,私自身が現役の医師であるという点も注目された理由でしょう。私は今も外来診療をしていますし,糖尿病関連の薬剤を販売するMRさんたちのお付き合いがあります。このように,病院における実務レベルの問題点をよく知っている医師が,その問題点を解決するためのアイデアを発案したということも,このシステムに対する信頼度が高い理由なのだと思います。
第3の理由としては,本紙の連載第20,21回(6月22日,7月6日号)で記載したように、インターネット革命と呼ばれる変革が,第1,第2段階から第3段階へと移行しつつあるということが,「MR君」の評価を後押ししていると考えられます。第3段階というのは,大手企業が自社の業務を支援するためには,インターネットを活用する段階です。すなわち,日本においても,IT(情報通信技術)革命の主役は,ベンチャー企業ではなく,大手企業へと既にシフトしてきています。ですから,ソニーコミュニケーションネットワーク(株)という大手のプロバイダー企業が,医療業界に新しいシステムを提案した,ということが,まず社会的に大きな評価になった理由の一つとなっているのだと思います。また,その提案に対し,大手製薬企業が自社内のシステム構造の改革のために,協力を惜しまない状況になっていることが,さらに社会に大きな驚きを与えているのでしょう。つまり,既存の大手企業同士がしっかりと手を組んで,社会変革のためのシステムを堅実に構築することによってIT革命の推進を促す時代になったのだと思います。
第4の理由としては,ソニーコミュニケーションネットワーク(株)が「ポストペット」というエンターテイメントを付加したコミュニケーションツールを,これまでに社会に提供してきた会社であることが挙げられます。ポストペットで成功したのだから,「MR君」というコミュニケーションツールでも成功するのではないか,という期待が大きいわけです。確かに,ポストペットをはじめとしたプロバイダーでしか経験できない貴重な財産が集積されているという点では,「MR君」の開発のとって非常に良いインキュベーションの場を与えています。
また,第5の理由としては,日本の医学の世界においてこれまではほとんどブランドがなかったと言ってよいソニー(SONY)グループが,日本の医学業界では主流であった伝統的な大企業を負かすくらいのビジネスができるようになっている,ということも社会に驚きを与えていることの理由の1つなのでしょう。
このように,いろいろな理由が考えられますが,「MR君」は製薬企業にとってのみならず,日本の社会全体に対して大きなインパクトをもって受け入れられていることは確かなようです。
ともかく,「MR君」がなぜこんなに大きな社会的な話題になり,注目されるのか,そのあたりの社会的背景やその分析も踏まえて,次号からさらに詳しいレポートをしていきたいと思います。