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プラスαのインターネット活用術21

Medical Tribune 2000年7月6日 32ページ ©️医学博士 鈴木吉彦

インターネット革命 第1、2か段階から第3段階へ(2)

米国では、一部の医療関連IT(infor-metion technolo-gy)企業が多くの会社を買収しましたが、結局質が良くないことがわかりました。そうした企業の株価は最近になって急激に低下し、ウォール街はこのようなバブルの傾向に対し冷たい評価を与えています(図)。日本でも、米国の医療関係のIT企業に投資した企業がありますが、現在のところ(2000年5月下旬)すべての企業が損をしてしまっているようです。

資金繰りができない時代に

 米国のITバブルのときに買収した会社は現在、資金繰りが苦しくなり、買収された会社だけが得をした、という構図になったようです。まるで、日本の土地バブルのときの構造と、よく似ています。

 また、買収した会社は、資金繰りが苦しいにもかかわらず、知名度を上げなくてはなりません。投資家たちに対して、こんなに大きな広告を出してがんばっている、という姿を示さなくてはならないのです。ですから、多額の広告費を必要とするようになり、さらに経営が悪化するわけです。つまりベンチャーにとっては、自社のブランドのPRのためには多額の費用が必要で、売上高の半分が広告宣伝費という例もあるということです。

 こうして、価格競争や、広告費の多額の負担により、当初の計画が頓挫するベンチャー企業が増えてきているのです。米国のベンチャー企業のなかには、グローバル戦略という形で、世界各国に支社をつくる構想を持っている会社も多くあります。しかし、それらが成功した例はないようです。

 これに対し、従来、大手と言われていた企業群は、あえて広告をする必要がありません。ですから、じっくりと内容を詰めて、サービスをすることができます。人材も豊富です。

金儲け主義者に舵取りをさせるな

 ベンチャーでは人材が不足しています。そのため、事業計画を発表してから、人材を募集する企業すらあります。プロジェクトを発表してから、新聞にIT人材募集をしていた例もありました。ある大手の製薬企業は、それだけでその会社を信用できない、という評価を下したようです。

 また、従来、IT関連のベンチャー企業の多くは、比較的入手しやすい技術や後追いが可能なアイデア、賃金や流動性の高い従業員などで経営されていました。ですから、経験不足の人材が多く、いく多の試練を乗り越え生き残ってきたという経験を持つ人材がいないのです。

 また、経営者のレベルの低さも指摘されています。ビジネスのことを表面的に知っている、というだけの経営者が多くおります。日本のIT関連の企業でも、その経営者は医療の現場を知らないが、現場を垣間見ただけの経営者も多くおります。ですから、時にはとんでもない発想をしたり、実務性に乏しかったり、実態を全く無視したプランを立てることも多いのです。

 例えば、特許出願中、というアイデアを聞いてみても、まるで特許性がないものだったりします。資金援助や出資を得たいがためだけに、あえて、特許性のないアイデアを特許出願中という表現にして発表したりしています。よく聞いてみると、米国の医療関連のホームページではよく見られる機能なのに、日本の医療関連のホームページではまだ見られないから、それだけで特許性がある、と主張しているような内容です。つまり、米国の物まねをしながら、それを日本で出願すれば特許になると本当に信じているのですから、驚きです。

 そうした企業の経営者たちは、一様に、「Yahoo」や「楽天市場」のように、会社を店頭公開させ、自分だけが億万長者になることを夢見ている人たちです。私は、そういう人たちの話を聞くにつけ、こういう人たちに、日本の医療関連のITの進路の舵取りをさせることがあってはならない、と医師として思うのです。

 インターネットの第3段階というのは、リアルの大企業が、本格的にIT革命を推進する段階であると言われています。リアル社会の強みを生かし、インターネットというサイバー社会のビジネスと融合させ、発展させていく段階です。ここでは、ベンチャー企業の存在価値は薄れていくことでしょう。そして、大手企業同士のIT革命における競争、という構図が浮き彫りになってくる時代になると思います。

日本では急激に第3段階に移行

 特に、米国の先例を見てきた日本では、先行者メリットをあまり持てないベンチャーが多く、その意味でも、大手企業が有利になっています。例えば、プロバイダーを比較しても、米国では、インターネット世界でまず先行したAOLだけが強いという図式です。ところが、日本では、AOLは弱く、ソニー、富士通、NECが競争し、その競争によってプロバイダー同士の健全な競争が生まれ、より良いサービスを生み出し、AOLを追い越しているわけです。ですから、日本は、米国の先例を見てきた分だけ、第2段階、第3段階への移行が早かったのです。

 その意味で、第1段階の負の遺産(不良IT企業)が、米国よりは少ないという点も特徴だと言えましょう。日本が地価バブルによる不良遺産に苦しんだように、米国も、これからITバブルによる不良遺産に苦しむようになるのかもしれません。その意味では、日本が米国を、インターネットの世界で追い越す時期になってきたと言えるのかもしれません。つまり、世界的な視野から言うと、米国中心のインターネット、ベンチャー中心のインターネット、という観念が崩れる、1つのターニングポイントに入ったと考えても良さそうです。

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