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プラスαのインターネット活用術23

Medical Tribune 2000年7月20日 ©️医学博士 鈴木吉彦

医療における電子商取引 医療業界全体で考えるべき

 米国商務省の調査によると、米国民の約4割は家庭や職場でインターネットを利用しているそうです。インターネットが次第に家庭の中に入るにつれ、インターネットを利用した商取引も「普通」のことになっています。そして、インターネットによる電子取引を採用する商店や企業が増え、小売りの形態が変化しつつあります。

インターネットの小売りは難しい

 しかし、「世界最大のオンライン小売り」という目標を掲げて昨年11月に営業を開始したばかりの、英国のオンラインスポーツウェア販売のブー・ドット・コムはe-businessの代表のような存在で、最も脚光を浴びてきた企業です。しかし、インターネットの目まぐるしい進歩や変化のなかで、書籍やCDの売り上げにかなりの比重を置いているアマゾンは、書籍やCDの内容をインターネットでダウンロードする方法が広まれば、存在意義自体が小さくなってしまいます。米国の調査会社のなかには、アマゾン・ドット・コムやCDナウなどの大規模のホームページも、地域のスーパーマーケットの小売り用のホームページも含めて、インターネットの小売りの大半が消滅する、という予測をしている意見もあります。

「ネット企業が淘汰される。アマゾンすら黒字経営になれないのか?」ということで、米国ではインターネットの将来について、大きな不安が浮き彫りになってきているようです。

消費者が強い時代に

 米国では、商品の価格を簡単に比較できるホームページに人気が出ています。インターネットの普及が情報コストを飛躍的に引き下げているためです。そのため企業と消費者との情報格差をなくしてしまい、十分な情報を入手した消費者は、商品の価格の上昇を抑えています。これが、米国のインフレを抑制する要因となっているのです。景気が良いのにインフレが起こらない、という米国の状況は、この理屈を理解すると納得できます。

 つまり、インターネットの拡大によって、従来のようにシェアの高い企業が価格の主導権を握るという時代ではなくなってきたのです。結局は、インターネットを武器とした消費者が、力を自覚するようになり、消費者側の力が強まっているのです。経済のパワーバランスが変わろうとしているのですから、このような競争が激しくなると、アマゾン・ドット・コムなどのようなサイバー会社でさえ、うかうかしてはいられません。

 いずれにしても、大量に生産して大量に消費することで、物の価格を下げてきたという、これまでの構図は消えてしまったのです。ですから、医療の世界においても、今後の消費者の価格に対する意識は、変わっていくことでしょう。あるいは、例えば医療機器などであれば、アフターサービスはどうかなどの、販売価格だけでは比較できない付加価値を増やしていくことも必要とされるでしょう。

競売から共同購入へ

 競売(オークション)も、インターネットのシステムとしてもてはやされましたが、代金を受け取ったにもかかわらず、商品を送らないというトラブルが増えています。これを監視するためのトラブル第3者的な期間が必要であることが指摘されています。日本でも米国でも、詐欺に遭う事件が増えてくると、競売におけるリスクも消費者にわかってきて、人気はやや低下しつつあるようです。

 しかし、それに代わって人気が出てきたのが、インターネットを利用して共同購入をする習慣(groupbuying)です。つまり、購入者が集まって数が増えれば増えるほど、値段が下がっていく様子をインターネットで観察しながら、買い付けをするシステムができているというのです。多くの個人が、インターネット上でチームを組むので、小グループ同士が自主的に自分たちでつくる生協のようなものでしょう。

問題点も内在

 消費者は、インターネットにより、グループをつくり、共同購入をすれば、あたかも大口顧客のように振る舞うことが可能になります。このチームが一致団結する力を持って、大企業に匹敵する価格交渉力を持ってしまう点は、良いようで、問題が起こることも考えなければなりません。

 もし、これが医療の業界で起こったらどうなるでしょう。医療機器や、薬剤などを多くの病院や医師が共同購入をするようになるかもしれません。あるいは、患者同士が共同購入をして、医療機器業者と直接、交渉をしてしまう場合も出てくるかもしれません。その場合、販売経路があいまいで、原則的には病院で購入するとされていたような医療関連製品の価格は、インターネットでの価格と、リアル世界での価格とでは、大きな差が出てきてしまうでしょう。これが良いのか悪いのか、さまざまな角度から考えなければなりません。

 日本には多くの患者さんの会があります。糖尿病だけでも、糖尿病ネットワークのホームページ(http://www.dm-ww.dm-net.co.jp)によると、非常に多くの糖尿病患者の会があります。そうした会ごとに患者さんごとが共同購入をしたら、どうなるでしょう?例えば、血糖測定器や測定用試験紙などを購入したらどうなるでしょう?これまで、医師やナースが患者さんの特性を見極めて勧めていた医療器具なども、患者の会が勧める方が影響力が強くなる、ということも考えられなくはないはずです。

 コンビニエンス・ストアを運営する会社は、都市銀行や電機メーカーなどと提携し、キャッシュカードを

使った即時決済やインターネット決済システムを利用したシステムの構築に向けて動き出しています。一時は、非常に広く普及するだろうと考えられていたコンビニ決済ですが、実際はそれほど利用率は高くないようです。理由は、コンビニという狭いスペースに、インターネットから注文される無数の商品が溜め置きされることは不可能に近いからだと分析されています。また、パートタイムが多いコンビニの店員に、インターネットとは何か、あるいはインターネットによる受発注画面に管理についての知識を教えることが難しいことなども、うまく運営ができないことなども、うまく運営ができない理由の1つとしても挙げられます。

コンビニではなく薬局で

 最近では、こうしたコンビニをインターネットの拠点とするよりは、近所のスーパーマーケットが拠点となる可能性が高いのではないか、路考えてきているアナリストもいるようです。その場合、インターネットは電子的な「ご用聞き」役として仕事を果たします。コンビニ決済はコンビニまで商品を取りに行く必要がありますが、スーパーの場合には配送は無料で、自宅まで届けてくれたりします。ただし、どちらが便利かは、私の周囲にも聞きましたが、意見が分かれるところでした。自宅まで届けてくれるということは便利だ、という考え方と、逆に、誰かが自宅にいなくてはいけないから不便だ、という考え方もあるようです。

 しかし、いずれにしても、医療においては、医療機器などをパートタイムのコンビニ店員が販売することは危険なので、厚生省が絶対に認可しないでしょう。ですから、おそらく医療業界における流通の拠点は、コンビニではなく、薬局がその役割を果たすのかもしれません。そうなると、これからの薬剤師は、インターネットの知識がないと薬局を開けない、という時代が来るかもしれません。しかし、現状では、薬剤師のインターネット利用率は低いようです。こうした問題は、薬剤師の就労の問題と関係するので、医療業界全体で考えるべき問題になる日が来るかもしれません。

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