Medical Tribune 2000年6月22日 35ページ ©️医学博士 鈴木吉彦
インターネット革命 第1、2か段階から第3段階へ(1)
米国はインターネットで先進国とされてきたが、インターネットの中心は米国ではないという意見も出てくるようになりました。世界60億の人口のうち、英語を使えるのは10億人程度です。ネットの公用語は英語であるべきなのかどうかも、問題とされるようになってきました。
ネットバブルの崩壊
確かに1999年までは米国を中心として、インターネット関連企業が爆発的に増え、インターネットは発達しました。今は、赤字経営でも、将来は伸びるはずだ、というベンチャー企業が資金を調達できたためです。米国に、このようなベンチャー精神を認める風土があるのも、その社会変革の流れを助けました。
しかし、今年3月下旬になって、ネットバブル崩壊を予言するような報道が流れました。今後1年以内に資金が枯渇すると見られるネット企業は4分の1を占め、廃業や身売りに追い込まれるケースもあるのだろうという分析が報告されたのです。そのなかには、アマゾン・ドット・コムなどの名前もありました。その結果、米国のネットバブルは一気にはじけた形になりました。投資家は利益の出ない企業の株をどっと売り始めるようになったのです。
日本では、株を購入する医師は多いと思います。証券会社にとっても、医師は重要な顧客です。しかし、医師はインターネットのことをよく理解していないことが多いので、表面的には良さそうな話、うまい話に騙されることが多いようです。IT(情報技術)関連のベンチャー企業への投資は、きわめて慎重にすべきです。これからは、利益が出ていない企業には投資や出資をしてはいけません。
ベンチャー企業の誕生
インターネットは、100年ほど前の自動車や電話などに匹敵する、あるいはそれ以上の価値のある、歴史的なテクノロジーであるという評価は間違いありません。インターネットを中心に、世界のあちらこちらで、ルールが変わっています。既存のルールを破る人ほど成功する、という時代もありました。インターネット革命の第1段階と言われる時期です(図)。
しかし、ルールを破るベンチャーばかりに先行者メリットがあるのを、大企業が放置しておくはずがありません。日本では大手の電機関連企業が中心となってインターネット関連のビジネスをスタートさせました。これは、大企業のなかにベンチャーとしてのプロジェクトをつくる、という形で生まれました(注:そうして生まれたのが、So-netの場合、Mediproであり、PostPetであるわけです)。こうした流れが、インターネット革命の第2段階であったと言われる時期です。
ベンチャー企業の買収と業務提携
第1段階から第2段階に移行するに当たって、ベンチャー企業を大企業が買収したり、強いものが手を組むという傾向が強まっていきました。勝つ者と勝つ者とが提携する、という意味で、win-win relationshipという表現がよく使われたのも、この時代です。その時代には、株価が低下しそうになると、有望な企業を買収することで、株価を高めるという、経営者の意図的な操作がなされてきたのです。
それが、たとえ現実性に乏しく、「100年先の夢を買う」という話であっても、Yahooなどの成功を一度見てしまった社会では、含みを持った意味になって捉えられます。トップになる企業だけは、インターネット世界でも生き残るのではないか、と投資家は考えるようになったのです。ですから、投資家は「今、投資しなければいけないのではないか」という気持に駆られ、勝ち残れそうな企業ならば大丈夫だろう、という安易な判断で、企業が利益を出しているかいないかにかかわらず、投資をしてしまったわけです。
また、このような時代には、出資を受けるベンチャー企業側から見れば、例えばインターネットのことをよく理解しない大企業の社長たちをうまく口説くだけで、出資を受けやすくなっていたのです。特に、インターネットに着手することが遅れた企業の経営者にとっては、焦りがあります。そうした焦りを利用して、ベンチャーがうまく出資の話を持ち掛けるのです。そして、本来は全く利益が出ていない赤字経営のベンチャー企業であるにもかかわらず、10億円規模、あるいは30億から50億円規模の多額の出資をさせてしまうという傾向は、米国でも日本でも、世界中で認められた現象のようです。
そのような時代は、きわめて不自然だったのではないかと、今になって思います。例えば、日本でも米国でも、ベンチャーの経営者が口にする言葉は同じでした。わが社は「利益は出ないけど、店頭公開したら、価値が高くなる」というセリフです。時には、「わが社、絶対に利益が出ない構図になっているIT企業だ」ということを自慢げに話をする経営者たちもおりました。当時、私は、あきれたものだ、と思いながら、そうsた経営者たちの話を聞いていました。