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インターネットが医療を変える 第4回

「MR君」(その3)

「MR君」を通じ薬品情報のデジタルライブラリー化が加速

 

鈴木吉彦 ソニーコミュニケーションネットワーク㈱General Manager 医学博士

雑誌名:Medical ASAHI  2000年9月   朝日新聞社  

62ページから64ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

●「MR君」は、医師にとってのメリットがあるシステム

医師ひとりに1台のパソコンが与えられ、インターネットを自由に利用できる環境を持つ病院は少ない。経済的あるいは社会的な理由もあるが、携帯電話が病院内で利用できないことも、その理由としてあげられる。そのため、病院のなかでインターネットを利用できるパソコンは、医局などに置かれて、複数の医師とで共有していることが多い。そうなると、自分のアドレスやパスワードを設定しにくいことから、病院で電子メールを見ることができる医師は稀になる。その結果、医師が電子メールを見るのは、自宅で見る、というケースが多いということになるだろう。

 その場合、もしMRが医師に電子メールで薬品の宣伝めいた文言を送ったとしたら、どうなるだろう。医師は、それを医師の自宅の電子メールソフトで見ることになる。つまり、医師は、自宅までMRが押しかけてきて、自宅の郵便ポストに、薬品について宣伝の文言が書かれた手紙を置いていった、という印象を持つことになるだろう。医師側は、「不愉快な行為をされた」という印象をMRに対して持つに違いない。ときには、医師は、プライバシーを侵害された、という意識を強く持つかもしれない。つまり、MRが医師へ薬品情報を伝達するということにおいては、電子メールを利用するという行為は、医師に対する到達性(ペネトレーション)が強すぎる行為になる。こういう行為を何度も繰り返す製薬企業に対しては、ジャンクメールを送りつけてくる会社というイメージを、医師は製薬企業に対し抱いてしまうかもしれない。また、医師は自分の電子メールアドレスを教えることは自宅の電話番号を教えることと同義であると感じるようになり、MRに電子メールアドレスを教えることを躊躇するようになるだろう。

 ところが、「MR君」1)の場合はどうだろう。「MR君」は」、MyMedipro2に医師が訪問したとき、その医師を認識して、画面に現れるシステムである。まず、医師は、MyMediproを訪問するということ、MRと連絡を取りたいという意思を示す。つまり、連絡を取りたいか、取りたくないかを決める選択権は医師側にある。そのため、医師は「MR君」を見たり、クリックしたりしても、プライバシーを侵害された、という意識が少ないはずである。連絡を取りたくないMRに対しては「MR君」をクリックしなければいい、という選択ができるからである。

 また、画面にあるように、頻繁に連絡を取りたい「MR君」のうち、2名だけを画面に表示しておき、医師にとって優先順位が低いMRは、「MR待合室」に隠してしまう、ということも医師の選択でできるようになる。そうすると、医師は、頻繁に連絡を取りたいMRにはMyMediproの画面上で、いつもメッセージをチェックする。そうではいMRに対しては、待合室に入ってから、チェックするということになる。こうした画面に現れる「MR君」の表示機能を医師側が制御できることも、実は、MRと医師とのリアル社会ともシームレスにつながる人間関係を良好に保つために大事な機構なのである。

●電子メールではできないことが「MR君」では可能

 もし電子メールで薬品のメッセージを送っても、医師が日々多くの電子メールをもらう時代になると、そうしたメッセージは電子メールの受信欄に埋もれてしまうだけだろう。ジャンクメールと間違われて、捨ててしまわれやすくなるだけだろう。

 ところが、「MR君」は、そのメッセージ自体が、製薬企業に関する情報であることを、医師はあらかじめ理解している。それゆえジャンクメールと間違うことはない。また、普段親しくしているMRが、インターネットで顔を出しているのだから、単なるタイトルだけのMRからのメールよりも、安心して画面を開き、メッセージを読むことができる。

 通常の電子メールでは、見ず知らずの人から届いたメールにはウイルスが感染しているかもしれない、といった心配をしなくてはならない。これに対し、「MR君」につけるバイナリーファイル(データを含んだファイルのことで、テキストファイルではない。通常、ウイルスが搬入されるのは、このバイナリーファイル形式のファイルである)については、原則的に、医師は安心してメッセージを開くことが可能になる。「MR君」の表示においては、ウイルス感染に対する予防策も、あらかじめサーバー側で配慮し準備しているから安全なのである。

●医療関係限定の空間内で薬品などの情報交換が可能

 電子メールを製薬企業のMRが医師に送って、なんらかのインターネット上にある画面を見てもらおうとすると、メール内に、その画面が存在するURL(インターネット上での住所、番地のようなもの)をMR自身が書き込まなくてはならない。しかし、一般の製薬企業がそれを行おうとすると、オープンサイト(医療関係者以外の一般人に対しても公開されているホームページ空間)のURLを記入しなくてはならない。つまり、そのURLで示される薬品情報は、患者さんでも見られる場所に置かなければならない。それは、原則的に薬品情報が、インターネット世界では、オープンになっていることを示す。これは医師にとっても、製薬企業にとっても、好ましいことではない。医療業界のなかだけで知るべき情報が、一般人の誰でもが見れるオープンな空間にあることは、不要な誤解を起こしてしまうからである。

 これに対し、MyMediproの「MR君」をクリックした先は、リアルのMRが自由に設定することができる。MyMediproの空間は、医療関係者限定の空間だから、MRは薬品情報も安心して医師に見せることができるようになる。

●「MR君」によって明らかになる医療専門代理店の役割

 「MR君」をクリックしたときに、医師が安心して医薬情報を見ることができるように、製薬企業は、医薬品情報をデジタル化した形でライブラリーとして保存しておくことが必要になる。こうした情報のライブラリーは、従来は、紙媒体、つまりパンフレットという形で、あるいは、文献資料集として作成され、製薬企業の営業所(あるいは本社)などに保存されていたものである。そうした資料は、医療関連の代理店が製薬企業のために作成していたのである。

 しかし「MR君」の誕生をきっかけにして、多くの医療関連代理店が、MyMediproの代理店を希望するようになってきた。これは、「MR君」をきっかけに、代理店の役割が明確になってきたためであろう。One-To-One3)という言葉は、3年前には誰もが理解できなかった概念であったのだが、MyMediproの成功、「MR君」の提案、という新しいメディアが浸透してきたことで、医療代理店にも、この概念を理解してもらえるようになったのである。

 興味深いことに、製薬企業が医師に対して、どのように個別的なサービスを作っていくべきかは、これまでは医療代理店が考えていた業務である。であるから、One-To-One技術を、どう活用するかは、今後は医療代理店が考えていくこととなるだろう。One-To-One技術を活用するためのIT人材を、スタッフをして準備するという意思を示している代理店も増えてきている。このように、「MR君」の提案は、製薬企業のみならず、医療専門代理店にも、新しい業務ビジョンを創造したといえる。

お詫びと訂正

 本誌8月号63頁に記載しました文章の一部に誤りがありました。

(誤)

「MR君」を利用して上手に情報を収集する医師は、それができない医師よりも、情報の入手速度が遅くなり、情報の収集能力が劣るということになっていくだろう。

(正)

「MR君」を利用して上手に情報を収集する医師は、それができない医師よりも、情報の入手速度が速くなり、情報の収集能力がまさるということになっていくだろう。

 ここに訂正させていただくとともにお詫び申し上げます。

注釈

  1. )MyMedipro/インターネット上の医師向け医療情報の取得に役立つ仮想協力空間都市。(http://www.so-net.ne.jp/medipro/
  2. )MR君/MyMediproの画面の上に表示されるMR個人個人のメッセージバナーを利用し、医師とMRとが互いに連絡を取り合ったり、MRが医師に対して薬品のオンラインプレゼンテーションができるようにする機能のこと。
  3. )One-To-One/ホームページ上で利用者がプロフィール登録し、内容を閲覧する際には利用者のプロフィールに合わせ1行ごとにカスタマイズし、内容を表示する仕組みのこと。

雑誌名:Medical ASAHI  2000年9月   朝日新聞社  

62ページから64ページまで コピーライト、©鈴木吉彦

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