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プラスαのインターネット活用術44

Medical Tribune 2000年12月28日 27ページ ©鈴木吉彦 医学博士

コンテンツパッケージはデジタル社会は移行を示すモニュメント

コンテンツパッケージ構想を発表してしてから、特に反響が大きかったのは、もちろん利用者である医療関係の方々でした。人気は確実に伸び、着実に会員数が増えています。特にコンテンツパッケージ(A)は人気が高く、1年以内に3,000人以上の登録が予想されています。コンテンツパッケージ(B)についても。医学中央雑誌は利用しないがMEDLINEを利用したいと考えている人々がこちらを選択し、会員数も既に5,500人を超えています。また、2000年1月から、コンテンツパッケージ(A)に参加している各出版社の雑誌などでコンテンツパッケージ(A)の宣伝を見掛けるようになると思います。医師のみならず、薬剤師、ナース、栄養士と、多くの職種の人たちにこのコンテンツパッケージの存在が告知されていくことでしょう。

インターネットが創造する「ペーパーレスの時代」

しかし実は、業界としてインパクトが大きかったのは、情報提供者側である出版社のほうでした。これまでのわが国の医学系書籍出版において、他社と競合する医学コンテンツが肩を並べ、それをパックにしてネット販売するという形は、だれも考えなかったアイデアだったのです。実際に、こういう形が、本当にインターネットで人気がある情報販売の形となるのかどうか、不安がいっぱいだったというのが、出版社側の担当者が抱く本当の気持だったのです。ましてや、競合他社のコンテンツと同じパッケージのなかで、うまく住み分けができるかどうか、疑心暗鬼だったはずです。ですから、コンテンツパッケージ構想の成功が、これからの日本の医学系コンテンツの販売方針を考えるための重要な役割を担う、ということを多くの人々が認識したのです。

また、出版社にとって第2の関心事は、本連載の41~42回目で解説したようなCD-ROMの問題が、インターネットによって解決できるのかという点にもありました。しかし、それ以上に真剣に検討を迫られる関心事がもう1つあるのです。

それは、ペーパーレスの時代になろうとしているのに、書籍や雑誌などの紙媒体を、これからも医師が好むのかという疑問に対する答えです。つまり、グーテンベルクの発明から続いた伝統が打ち破られるのかどうかという、医学出版社にとってはCD-ROMの問題よりもっと深刻な、そして大きな問題があるのです。

“紙をもらうと邪魔”の感覚

最近、製薬会社の医薬情報担当者(MR)から、あるいは学会の展示場などで紙の媒体、特に書籍や文献集などをもらっても、ありがたいと思う気持が極端に減ってきました。自宅では「MR君」を利用し、資料も、電子メールの添付文書が「MR君」から入手するようになっています。そのため、私の自宅のパソコンが置いてある机の周辺には、紙という形の情報がどんどん減ってきました。

こういう生活に慣れてしまうと、紙の媒体を手渡しでもらうという習慣が次第に邪魔なものに思えてしまいます。雑誌や書籍、あるいは文献集をもらうのはありがたいですが、結局、目を通さずに捨ててしまうことも多いのです。そうであれば、必要なページだけをスキャンするか、デジタル化した形で電子メールの添付文書として送ってもらうか、「MR君」を通じて送ってもらうほうが、自分のパソコンに保存できるので便利です」。多くの日本の医師たちが、こういう感覚を持つようになると、雑誌や書籍という紙媒体の存在が邪魔だという風潮が、生まれてくるのではないでしょうか。

また、雑誌や薄いパンフレットでさえ、邪魔という感覚が生まれてきているペーパーレス社会において、厚さ数センチもある電話帳のような医学書の価値が急激に低下してくるのは、しかたがないのかもしれません。

特に、重いもの、形が大きくかさばるものは、次第に市場から姿を消すはずです。Mediproにおけるコンテンツパッケージの成功は、書籍からインターネットへ、広い意味ではアナログからデジタルへ、社会のニーズが移行していることを象徴していると言っても過言ではない、と思います。

インターネット先進国はカナダやシンガポール

現在のわが国のインターネット普及率は、世界レベルから見て高いとは言えません。ですから、急に医学情報コンテンツのデジタル化の潮流が押し寄せ、それが一夜にして切り替わるわけではないと思います。インターネット環境が広まり、かつ定額制インターネット、電話料金の定額制が普及した時点で、この流れが急激な勢いで拡大するのは疑いのないことですが、それまでには数年の歳月を要すると考えられます。

北欧諸国やカナダなどでは、インターネットの高速化や定額制化が急激に普及しています。カナダでは、一部の都市でケーブルインターネットの普及率が9割を超えると言われています。シンガポールでのインターネットの普及率も高く、しかも高速インターネットを使用した生活空間を構築した実験も行われています。米国や日本といった経済大国ではない、インターネットに特化した世界の諸地域から、上記のようなデジタル革命の烽火が上がるというのも、興味深い話です。日本はまだ電話代が高いからそうはならないとか、インターネット普及率がそれほどでもないか、まだ大きな変化は起こらないという意識があったら、これら諸外国に先を越されるでしょう。カナダやシンガポールの医師は、どんどんその利便性を利用して賢くなるでしょう。逆に、日本の医師たちは最先端の情報から取り残される恐れも出てくるのです。

“ピンチがチャンスに”

Mediproのコンテンツパッケージは現在、A、Bと2つありますが、今後はC、D、Eと種類を増やし、それぞれに意味を持つ、価値あるパッケージにしていこうと思います。内容の詳細は明らかにできませんが、2001年1月にはコンテンツパッケージ(C)がスタートします。

このように、情報提供者側が利用者のために、自分たちのコンテンツのパッケージ化というカスタマイゼーション(個別化)を行うのも、前代未聞の構想であり、斬新な新企画なのです。また、1つのホームページに、その国の代表的な医学系出版社が協力し、複数の企画を立ち上げるというのは、世界でもMediproが初めてでしょう。そして、パッケージの種類が増えていくことは、多くの価値観が創造されていくことを意味します。

この過程でなされる作業は、情報提供者側が、利用者である医師や薬剤師などのニーズに合わせたカスタマイズをし、書籍やCD-ROMの情報価値とは異なる価値を模索し創造していこうとするものです。書籍としてある、既存の情報価値と同じものがインターネット上にあっても付加価値が少ないのは当然です。ですから、デジタル時代の到来、インターネット環境の拡大は、医学系出版社にとっては、書籍では生み出せなかった新しい価値を生み出すべきチャンスが到来したと考えるべきなのでしょう。

紙媒体が危うくなるという危機的な状況が生まれている半面、この危機を乗り越え、インターネット上で新しい価値を生み出せる出版社にとっては、ピンチがチャンスになる、ということです。また、これは出版業界だけでなく、紙媒体を広告媒体として利用してきた製薬業界や医療機器業についても、同じことが言えるかもしれません。つまり、組織が全体として、発想を変える絶好のチャンスが到来したと言っても過言ではありません。

自己変革が21世紀への扉を開く

医学関係出版社のみならず、インターネットを利用する医療関係者も、現代の日本に暮らしている人たちも、アナログ社会からデジタル社会への変革によって、今後は大きな意識改革を迫られるでしょう。

インターネットを認めるのであれば、従来の媒体を否定することになり、それは結局は自己否定を余儀なくされるという事態が、あちらこちらで具体的な形で現れてくるのです。CD-ROMの時代は、まだ「アナログ対デジタル」の衝突は明確なものではありませんでした。しかし、インターネットの出現によって、「アナログ対デジタル」の衝突は、日増しに鮮明なものとなってきているのです。

今後は、出版社だけでなく、利用者やスポンサー企業においても、アナログを取るのか、デジタルを取るのか、といった二者択一を迫られる機会が増えてくることでしょう。

その意味で、Mediproにおけるコンテンツパッケージ構想は、わが国の多くの医学系出版社に対してだけでなく、日本の医学情報社会全体対し、本格的なデジタル社会へ移行することの宣言を示す、歴史的なモニュメントになるのではないかと考えます。

20世紀から21世紀へと移り変わるこの大事な時期に、コンテンツパッケージ構想を医学出版社の皆さんと協力しながら構築することができ、また、この連載を通じてその社会的な意義を読者の皆さんに伝えられるのは、一医師として大変に光栄なことと考えています。

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