My Medipro

プラスαのインターネット活用術40

Medical Tribune 2000年11月23日 33ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士

コンテンツパッケージ(3)

日本語文献検索システムの開発につながる

医学中央雑誌を自宅で検索

 日本語の論文については、医学中央雑誌という検索サービスがあります。このWeb版が4月にMediproの有料情報サービスとしてスタートし、大反響がありました。日本語で、すぐに日本語の医学雑誌文献を調べるのは、英語を読む時間もない医療関係者にとっては大変に便利に機能です。特に大学時代から医学中央雑誌に慣れていた人にとっては、待望のサービスでもありました。

 サービス開始後、アクセスが殺到しました。医学中央雑誌社としては、うれしい悲鳴だったのです。また、利用者としても、CD-ROM版の医学中央雑誌は1セット33万円もしていたので、個人が購入できる価格ではなく、大学の図書館からしか使えませんでした。そのサービスが自宅でできるのですから、便利と考えないわけはありません。自宅で論文を書きながら、じっくりと調べ物ができるのです。もう医学部や病院の図書館のパソコンを複数の医師同士が取り合いをする必要がなくなったわけです。

 医学中央雑誌Web版は国家からの補助金なしで運営しているので、初期から大きな投資をして非常に高価な専用サービスをつくることにはリスクがありました。そのため、段階的に機能を上げていこうと計画しました。ところが、急激な利用者の人気に押され、開始から3か月後には利用者の数は、当初の予測の10倍になってしまい、サーバがパンクしてしまったのです。それにより、検索速度が急激に落ちてしまいました。しかし、11月10日からは、非常に高速な検索が可能となるシステムとなり、現在では、また多くの皆さんから人気を得るサービスとなりました。例えば、糖尿病とキーワードを入力し、5秒くらいで結果が表示できるようになりました。格段に検索速度がアップし、4月の開始時の機能と比較しても格段にレベルアップしました。

民間的発想による

 医学中央雑誌もSo-netも、自分たちの知恵を出し合って、システムを改良し、リスクを背負いながら開発しなければなりませんでした。しかし、かえって日本語の全文検索システムを構築するために、ありとあらゆる知恵を絞るという訓練と経験ができました。それは、将来につながるという意味の経験になったのです。例えば、医学中央雑誌検索システムを構築できたことで、Medipro自体が、MEDLINEの検索エンジンを構築することは簡単にできる、という自信が付きました。日本語の検索エンジンは英語の検索エンジンよりも、漢字という2バイトの問題があるだけに、そのシステムの構築は非常に複雑で大変なのです。それをクリアできたということは、英語のMEDLINEをつくるのもわけない、という自信ができてきたのです。

 これまでのMEDLINEは、すべて海外でつくられたものばかりでしたが、日本人が日本の医学関係者のためだけのMEDLINEをつくることも理論的には可能になることを証明できたようなものです。つまり、日本の各医学系出版社の医学雑誌のオンラインジャーナル化ということが、ようやく実現可能な段階、つまり海外のオンラインジャーナルに追い付くためのレベルが視野に入ってきました。

 しかも、国の補助なしで、どうやったら採算性が合うようにシステムを構築していくのか、それも非常に重要な経験でした。民間的な発想を基盤に構築したことで、多くのノウハウや知恵が蓄積したわけです。

 こうした努力を、多くの医学系出版社が理解してくれました。今日の治療薬、最新医学大辞典、歯科医学大事典、Medical Tribuneのほか、COS版、Arise版、Paper Chase版のMEDLINEなどのコンテンツの各社が一緒になって、医学中央雑誌Web版を応援しようということになり、医学中央雑誌社とSo-netの努力に対して、みんなが応援してくれたからです。それが、メディカルパック(A)というサービスになりました。そして、将来はこういうパッケージを使って、同じ検索エンジンシステムで、すべて横断的に検索が可能になる、という将来像を考えています。

共通プラットフォームを構築

 MyMediproには、今ではさまざまなコンテンツが混在しています。12月には、このコンテンツ量は倍になる予定ですが、それを整理するための作業を急ピッチで行っています。しかし、同時に大きなメリットが出てきます。それは、医学中央雑誌Web版をはじめ、他の医学系出版社の検索サービスなども、同じ検索システムを共有化しうる、ということです。つまり、すべてがMediproという共通プラットフォームにあるということが、参加する多くの企業や、利用する会員にとって大きなメリットになっていきます。

 それは、日本中の医学系のデータベースが、1つの検索システムで、すべて横断的に検索できるということです。また、2001年3月までには、大手製薬企業38社がMyMediproのなかに集結します。すると、ほとんどの医薬品情報に、Mediproのサーバからリンクでき、かつ、それをMEDLINEや、医学中央雑誌などの文献検索から、製薬企業へのデータベースにリレーションするという技も可能になります。これは、インターネット先進国である米国でMEDLINE検索エンジンをつくっている各社でも、これまで構築できなかった技です。

 すなわち、医学中央雑誌Web版のシステム開発で経験した民間発想的なノウハウは、今後、多くの日本語環境の文献検索、薬剤検索、オンライン雑誌での全文検索などに生かしていくことにつながります。将来は「Medical Tribune」の過去の記事も、共通プラットフォームにありますから、同時に検索できるようになります。

 技術やサーバ環境などを共有化し、共有プラットフォームをもつくったからこそ、こういうことが可能になります。また、共有化によって、リスクも分散化します。ですから、Mediproと提携する出版社や製薬企業は、安心して参加することが可能になります。実は、万有製薬の『メルクマニュアル』の検索システムも、医学中央雑誌Web版の検索システムを構築したのと同じプロジェクトチームです。ということは、万有製薬からの承諾がもし得られれば、『メルクマニュアル』と医学中央雑誌Web版を、同時に検索することも可能になるかもしれません。

 こうしたコンセプトを実現するための企画は、米国でも進んでいますが、日本語の漢字という障害を克服するためには、米国よりもはるかに時間と費用が掛かったのです。医学中央雑誌Web版の完成ということで、急激に、各医学情報媒体の横断検索という道が開けてきたと言ってよいでしょう。

1回の登録ですべてが使える

 1つのシステムで、1回の登録だけですべてが検索できるというのは、インターネットならではの利便性だと思います。ですから、コンテンツパッケージ構想は、その意味でも、将来の日本の医学系の検索環境を構築するうえで、大きな貢献をすると思います。また、もし、Mediproが独自で構築するMEDLINEに、Drug DataBase Relationを連携していけば、より多くの利便性が出てきます。製薬企業も、自社の医薬品に関係した文献を、すぐに医師に届けることができるようになるでしょう。その意味で、今後は、こうした構想を製薬企業からも支援してもらい、医学系出版社と製薬企業とが連携プレイを組んだ大きな構想に拡大できないだろうか、と考えています。

 コンテンツパッケージのメディカルパック(A)というのは、実は、このように大きな構想の第一歩です。利用者である医師側からしても、1回の登録でパック(A)にあるサービスが利用できるというのも、利便性の向上になっていると思います。欧米をはじめ、全世界の医師たちがうらやましがり、手本としたがるような、そんな大きなプロジェクトに成長させていくつもりです。

<図>高速検索が可能になった医学中央雑誌の検索画面

-My Medipro

© 2024 MedicalProfession公開情報記事サイト Powered by AFFINGER5