Medical Tribune 2000年3月16日 26ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
変わる労働環境 都会を離れて環境の良い土地へ
伝統的な企業では、「原材料の供給に便利」「周囲に工場が追い」「流通に便利」などの点が企業の立地条件でした。ところが、インターネットが普及すると、新しいタイプの経済を追求する会社が増えてきています。
米国では、人気のあるIT(information technology;情報産業)関連の会社は気候の温暖な地域に集まるようになりました。インターネット産業は場所を選ばない事が特徴で、余暇を過ごせる快適な野外環境を持つ会社の方に人気が出てきたのです。優秀な人材ほど、環境の良い土地を選び、そうした環境を提供する会社から離れなくなります。
米国では、サンノゼなどに人気が集中しているようです。日本ならば、海が見えて温かい地域に人が集まるという現象のようなものです。(例えば、関東地域ならば湘南でしょうか)
市街地での開業は不要に
こうした傾向が社会現象になってくると、良い環境で暮らす人たちが増えるようになります。そして自動車の渋滞に悩まされることもなく、また電車の時刻を気にする必要もない生活になれば、ストレスを感じることも減るでしょう。
空気の良い、眺めの良い家に住むこともできます。これは、健康の維持にとって好ましいことです。
つまり、インターネットが普及することで、日本の国民はより良い労働環境を手に入れられるわけです。ですから、インターネットはそれによる産業革命を通じて、日本国民の健康水準の向上に役立つきっかけを作る、と言っても過言ではないかも知れません。これは、国民の運動不足の改善につながり、糖尿病などの生活習慣病を減らすかも知れません。また、すがすがしい生活環境で暮らすことは、メンタルな病気を予防することに寄与するでしょう。
患者も地方へ分散するわけですが、医師もインターネットを契機に都会にいる必要がなくなります。田舎にいてもMedipro(http://www.so-net.ne.jp/medipro/)のような医学に関するポータルサイトにアクセスして文献を調べたり、論文を取り寄せたりする事ができるからです。田舎にいても、都会にいるのと同じように研究や学問ができるわけです。また、患者は優れた医師をインターネットから探すでしょう。
したがって、医師もインターネットに登場していれば、患者との結びつきが保たれ、そこで診察のアポイントが取れれば、効率よく診療できるかも知れません。そうなれば、街の中心部にクリニックを開業していなくても通院患者を多く集める事ができることになります。「地の利」を生かす必要がない分、医師としての「技量」や「診断・治療」の能力がより高く評価される時代になるでしょう。このように、インターネットは患者のみならず、医師の労働環境や生活環境をも変えてしまうことでしょう。