Medical Tribune 2000年10月19日 38ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士
ネットアンケート 統計解析の常識を変える
“迷惑な封筒がまた来た”
インターネットによるアンケート(ネットアンケートとここでは略します)は、質問をインターネットで提示し、ホームページ上で回答を求める方法です。Mediproでは、以前から何回となく、ネットアンケートを行っています。これまでは成功することもあれば、成功しないこともありましたが、最近では成功する場合が増えてきました。
その理由は第1にMyMedipro会員が4万人にまで増え、その結果、回答者の母集団が大きくなってきたことが考えられます。最低100人くらいの回答を期待しているアンケートでも、実際に行ってみると、数時間で約400人以上の回答を得ることがあります。予想以上の回答数が得られて、謝礼金の合計が予定を上回り、あわててホームページを閉鎖したこともあります。
これまでのアンケートは、アンケート用紙という紙を媒体としたものでした。ですから、基本的に医師は郵便という形でアンケート用紙をもらいます。しかし医師は、なぜアンケート用紙が自分に送られて来るのか理解できません。病院名と住所と自分の名前が、そこに記載されていることについて、不思議に思います。なぜ自分がアンケートに答えなくてはならないのか、あるいは、どこかで自分の個人情報が漏れているのか、と心配になります。また、多くの場合、自分がこのようなアンケートに答えたいということを意思表示したつもりもありません。その意味では、迷惑な封筒が来た、という印象を持つことも少なくありません。特に忙しいときには、封筒の表紙を見ただけで内容を察知し、開封もしないまま、ごみ箱に捨ててしまうこともあるでしょう。
筆者は週に2回外来をしていますが、こういう状況をよく体験します。たまに、時間に余裕があるときだけ、暇つぶしとして封筒を開いてみます。筆者の場合、回答項目数が多いとき、回答が面倒なとき、自分の専門領域と関係ないときには、そのままごみ箱に直行することが多かったように思います。
そういうことを考えると、郵便をベースにしたアンケート用紙による調査法というのは、比較的時間に余裕がある医師からだけの回答を反映いているのではないか、と考えます。その意味では、医療業界で忙しく働いているオピニオンリーダーの医師からの意見を反映しにくかったのではないでしょうか。
了解のうえでの調査
上述したように、アンケート用紙が送られてくると、なぜこの調査会社は、自分の病院の住所や自分の名前を知っているのだろうか、と不思議に思うことがあります。つまり、この郵便物を送る側は、医師の個人情報をどこから取得しているのでしょう。医師の個人情報が漏れていて、それが売買されているのではないか、という疑問が生まれます。個人情報の漏洩に対して厳しい考え方を持つ医師は、それだけで回答を拒むことでしょう。また、それが調査の結果にバイアスを与えます。
なお、もし個人情報が売買され、その個人情報を元に、悪徳業者がむやみにインターネットにおけるアンケートの回答を求めるメールを届ける場合、これはジャンクメールということになります。米国なら反スパム法という法律で罰せられるでしょう。
これに対し、MediproなどのOne-To-One技術を利用したホームページでは、プロフィールによってターゲットが絞られ、アンケートに回答したい人などを特定し了解を得ています。あるいは、サービスコードを持っている人は、そのコードを持つ製薬企業の会員といった認識で、アンケートをお願いしています。あるいは、Medipro事務局からのお願いという形でも、回答を依頼しています。このように、しっかりとした会員制度を持って、その会員の了解のうえでのアンケート調査ということになります。そのためでしょうか、MyMediproからのOne-To-One技術を応用したアンケートについては、これまでほとんどクレームというクレームがありませんでした。
将来はネット銀行から振り込み
また、これまでの郵便を用いた方法では、アンケート回答者に対し謝礼を図書券などで支払うということになると、それを郵送しなくてはなりません。そのための手間も大変です。締め切り日を過ぎて投稿してきた医師に対して、謝礼をどう払っていくかも問題です。
インターネットを利用したアンケート募集においても、同じ問題が起こりえます。しかし、こういう点は将来、回答者には電子マネーがたまるとか、電子ポイントがたまるという形での支払い方法に変わっていくことでしょう。ソニー・グループは将来、ソニー銀行をつくるというネット銀行構想を持っています。ですから、もし、MyMedipro会員がソニー銀行の会員になっていれば、そのネット銀行口座に、インターネットを経由して謝礼を振り込むことも可能になるでしょう。そうすると、さらに、ネットアンケートに掛かる費用や労力は軽減され、もっと気軽にアンケートを募集することが可能になるはずです。また、アンケートに回答する側も、回答したらすぐに自分のソニー銀行の口座に謝礼が振り込まれているかどうか、確認できます。すぐに、きちんとした謝礼が振り込まれていれば、それがインセンティブとなって、また新しいアンケートにも回答してみよう、という気持になります。おそらく、こうしたシステムは、ネット銀行構想が実現化すれば、医療の分野でも身近なものになってくることでしょう。
集計・解析が迅速
これまでのアンケート用紙の回収法では、回答を集計するためにも数か月の時間が掛かります。これがインターネットなら、結果も迅速に集計され、解析されます。1日か2日で結果は出せますから、選挙速報のような速さです。また、アンケート募集側の意向にもよりますが、結果はインターネット上で公開され、多くの人たちにフィードバックすることが可能です。つまり、回答を集めるだけでなく、結果を発信するという2つの行為を同じ画面でできてしまうのです。これもインターネットならではの魅力です。従来のアンケート用紙による方法であれば、結果のフィードバックだけでも数か月掛かり、さらに結果を郵便で送るとなると多額の費用が掛かっていました。
このように、ネットアンケートは、これまでの医学分野における統計解析の常識を変え、医学分野に携わる人たちから広く意見を求めて集計するための効率的な機会を、業界にもたらしています。