Medical Tribune 2003年2月27日 38ページ ©鈴木吉彦 医学博士
MTインスペクションとMTサーチの活用②
“Object-Oriented Nevigation手法”を採用
インターネット世界の主流に
前回は、「MTインスペクション」や「MTサーチ」を紹介しました。しかし、申し込みはできても、使い方が今一つわからないという人もいるようです。理由の1つは、「MTインスペクション」では、会員になることに同意し、申し込みが完了すると電子メールが送られてきますが、そのメールに添付されたダイレクトアクセス用アイコンを自分のパソコン(PC)のデスクトップにつくる仕組みになっているからです。そこで、今回は前回の補足として、「MTインスペクション」の登録について詳細を説明し、新たにObject-Oriented Nevigationという概念について述べたいと思います。
Windows系PCを持つ読者では、「MTインスペクション」申し込み後に届く電子メールのなかに、「メディカル.exe」というプログラムファイルが添付されています。それを起動させると、temporary file(¥temp)に起動のためのプロブラムが埋め込まれます。その後、デスクトップに出てくる「メディカルインスペクションログイン」というアイコンをダブルクリックすれば、そのプログラムと連動し、最新号ほホームページにアクセスできるという仕組みです。結果として、ブラウザーを開き、ブラウザーのブックマークを経由することなく、MTのアイコンからMTのコンテンツに直接アクセスできるのがこのシステムのポイントです。PCのデスクトップ画面にあるアイコンという対象(Object)から、直接見たいものに向かって(Oriented)、ナビゲーション(Navigation)されて、最終的な見たい画面にアクセスできるというこの方法を、私自身は個人的に「Object-Oriented Nevigation手法」と呼んでいます。これまでは、あまり見かけませんでしたが、IT関係者のなかには、この手法に注目している人たちが大勢います。Object-Oriented Nevigation手法の利便性に多くの人が慣れてくれば、今後インターネット世界の主流になっていくと期待しているからです。この方法が主流になってくると、従来のポータルサイトから、リンクをたどっていくというアクセス法は、次第に人気がなくなっていくことでしょう。
ポータルサイトの存在価値は低下
この連載は、少なくとも来年3月末まで続くことになりました。私はSo-netというプロバイダーのMediproというサイトを立ち上げた創設者ですが、昨年11月30日をもって、So-netとの契約を解消しました。実は、最近約1年半はMediproの運営にはタッチしておらず、某医科大学の研究所で、ミトコンドリアの研究をさせていただいておりました。ようやく成果がまとまりそうになったので、再び本来の土俵である臨床家といての現場に復帰する予定です。
Mediproは、多くの出版社や製薬企業が集合したポータルサイトとしてつくったわけですが、もともとは医療関係者限定空間を構築することで医療業界に貢献できると信じて、それを目的としてつくったものです。しかし、最近の厚生労働省の方針は、医療関係者限定という情報発信には否定的で、一般市民にもできるだけ医療関係者と同等の情報を提供する方向に傾いてきました。製薬企業のなかにも、医療関係者限定という情報発信の形態をどんどん崩し、一般市民がだれでもアクセスできるオープン型のホームページに切り替えているところがあります。多くの製薬企業がその方針に切り替えると、創設者としては残念なことですが、Mediproの存在価値は、それにつれて低下していくことでしょう。
また、メディカルトリビューン(MT)社をはじめ、各医学出版社も独自の方針を用いて、ポータルサイトに依存しない方法を模索しています。他の出版社や製薬企業も、このようなObject-Oriented Nevigation手法を採用すれば、読者に自分のPCから、いつでも、どの出版社のホームページでもどの製薬企業のホームページでも、ダイレクトにアクセスすることが可能になります。つまり、ポータルサイトというブラウザーに依存したナビゲーションサイト形態が崩れて、PC利用者の各PC画面のデスクトップそのものが、ポータルサイトよりも重要な役割を果たす時代になってきたわけです。
電子カルテと医療情報の連携を模索
また一方では、電子カルテと医療情報の連携が模索されることでしょう。きわめて多忙な臨床の現場で、数分、数秒という時間枠内で、さまざまな医療判断をしなくてはならない医師にとって、インターネットに接続して情報をダウンロードするという形態は、インターネットの混雑状況に左右され不確実です。たとえ接続速度が光ファイバーで100メガの速度の時代になっても、不確実である限り問題は同じです。そして、情報の入手が不確実なものは、臨床の現場では使えません。ですから、これについても新しい利用形態が求められてくることでしょう。
保健同人社では、健康コンテンツ(『家庭の医学』赤本など)をコンパクトなサーバー(ハ―ドディスク)に入れて、医療施設のLANのなかに組み入れ、利用してもらうという方法を採用しています。同じ仕組みで、医学出版社が提供する医療情報(医学辞典や治療指針などをデジタル化したコンテンツ)と電子カルテとの組み合わせも可能でしょう。病院だけでなく、診療所でも、患者さんに自分でパソコンを操作できる空間を待合室などにつくっておき、診察の前に予備知識としての健康コンテンツを読んでもらうという方法は、医療活動の効率を上げるものになるでしょう。
コンテンツの内容は、インターネットを通じて定期的に更新するようにしておき、ふだんは電子カルテとネットとは遮断しておいたほうが、個人情報の漏洩を防ぐという意味で大事です。ですから、ネット側ではなくPC側に仕かけをしておき、更新などの特別なとき以外は原則としてネットへのアクセスは遮断しておいたほうが、現実的な利用法になるかもしれません。
一臨床家として…
私がSo-netとの契約を解消したという情報が、少しずつ他のIT会社に伝わり始めたためでしょうか、最近になり、私のところには国内のさまざまな医療IT関連企業が、いろいろな相談を持ちかけてくるようになりました。かつては競争相手だった企業の経営者たちが、私の昔の活動をどう見ていたかを聞くのは、たいへん興味深いことです。また、それまで知らなかったさまざまなIT社会の背景がわかってきて、たいへん参考になる話も多く伺います。今後は一臨床家の立場に戻ったことで、いろいろな企業の人たちと相談・協力できますし、出版社や製薬企業との関係も、全く新しいスタンスでより広く高い視野からアドバイスや情報交換ができる立場になると思います。そうしたなかで得られた知識や新しいコンセプトを、今後もこの連載を通じて紹介していきたいと思います。
時代は確実に進歩し、インターネットの在り方もどんどん新しい手法が求められるようになってきています。MT社が、「MTインスペクション」の立ち上げに当たって、Object-Oriented Nevigation手法を採用したのは、その徴候だと言えましょう。この連載では、そうした時代の潮流の一端をわかりやすく、また少しでも早く皆さんに紹介していきたいと思います。そして、インターネットの進歩が医師や医療関係者に還元され、医療業界全体のためになればという思いで連載を続けていきたいと思います。