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臨床とインターネットの接点⑳

Medical Tribune 2002年11月28日 34ページ ©鈴木吉彦 医学博士

高齢者向けITサービス タブレットPCや常時接続の普及などで拡大へ

高齢者のアメニティーの改善を支援

シュバイツァー博士が医学の勉強を始めたのは30歳代からで、医師になったときには40歳近くになっていました。それからアフリカに赴いて偉業を成し遂げました。歳を取って何か新しいことを始めるのが遅いか遅くないかを普通、人は常識的な尺度で測って判断しますが、それは間違いかもしれません。米国では、高齢者のインターネット利用人口が増えています。

わが国でも、インターネットの活用によってライフスタイルに変化が生じているという報告が増えています。ある調査によると、インターネットの活用より、「新しい友人」、「友人・家族との会話の頻度・時間」、「地域コミュニティーへの参加」などは増加したという回答が多かったようです(平成14年度版情報通信白書より)。これらは、いずれも高齢者が望んでいる生活のアメニティーの改善である点に注目すべきでしょう。さらに、「外食やイベントなどに外出すること」、「旅行をすること」などの回答が続き。高齢者が積極的に余生を楽しむという姿勢に対して、インターネットはそれを応援する道具であることがわかります。

高齢者が使いやすい環境に

昔。ダイアルアップ接続が主流だった時代は、パソコンのインターネット接続設定もたいへん苦労しました。設定がわからなければ、プロバイダーに電話で問い合わせをするのが日常茶飯事でした。回線が渋滞してつながらないときには、よく悩んだものです。ところが、CableやDSL、あるいは光ファイバーの普及によって常時接続が可能になってくると、有料でインターネットの接続をしてくれるサービスが増えてきました。昔のようなダイアルアップ接続設定時の煩雑さがなくなってきたわけです。これは、高齢者にとってはありがたいことです。工事を依頼し、工事が終わったらパソコンのスイッチを入れるだけですから、だれでもできます。後は電話代も気にせず、つけっぱなしにしておくだけですから、家族も安心して見ていられます。また、仕事を持たない高齢者は自由な時間がたくさんありますから、常時接続のような使い放題というサービスには、魅力が多いわけです。

これまでは、わが国の高齢者はマウスが使えてもキーボードが使えないことで、インターネットの利用をあきらめてしまっている人も少なくなかったようです。しかし、今月7日、大手パソコンメーカー9社が画面へ手書き入力が可能なタブレットPCを発表しました(http://www.nikkei.co.jp, 11月7日の記事より)。電子メールなどがスタイラスペンで手軽に書き込めるので使いやすさが増し、キーボードが苦手な人でも大丈夫になります。こうした社会的変化も高齢者のインターネット利用に大きく拍車をかけることになるでしょう(図1、2)。タブレットPCについての発表機種は、http://www.microsoft.com/japan/windowsxp/tabletpc/ppartners/hardware.asp で閲覧できます。

高齢者向け割引サービスとITバス

高齢者がインターネットを始めるに当たって最も重視しているのは、「近くに教えてくれる人がいること」や「インターネット利用料金がもっとも安くなること」で、「月額2,000円未満であること」を要望しているようです。若年層に向けて「学割サービス」を提供しているプロバイダーはありますが、高齢者割引サービスを提供するプロバイダーは、わが国では見当たらないようです。一部の高齢者は貯蓄があるし、身体が不自由で自宅から出られない人も多いわけですから、高齢者にインターネット利用を優遇すれば、ネットショッピングなどの売り上げも伸びるかもしれません。プロバイダーやショッピングサービス会社が高齢者向けの「シルバー割引サービス」を提供しても採算が見込めるはずです。

また、最近、興味深い新聞記事を見つけました。稲刈りが終わった農村に、“ITバス”が快走しているという記事です(日本経済新聞、10月20日)。都市部のIT講習会に出向くのが難しい農村の高齢者や身体障害者向けに、パソコン講習を行える装置を装備したITバスがつくられ、秋田県内を走って高齢者らに講習をしているとのこと。記事によると、ITバスのなかにはデスクトップ型パソコンが11台、講師用プロジェクターがあり、カラープリンターが2台、携帯電話もあり、講師と補助講師が添乗して指導に当たり、一度に10人までの受講を可能にしているそうです。パソコンの基本操作、ワープロ、インターネット、電子メールの送受信など、合計12時間の講習を受けるシステムで、高齢者からの評判は良好のようです。このシステムの企画側は、秋田県の高齢者対策の一環として貢献している点も強調しています。

行政も高齢者のIT教育に尽力

一方、高齢者・障害者などの情報リテラシー向上、テレワークなどのIT活用のため、地域における開放型IT利用拠点づくりが進められていま。高齢者・障害者などだれもが容易にITを利用できるIT生きがい、ふれあい支援センターなど全国規模で施設整備も実施もスタートしています。総務省では平成12年度に、障害者・高齢者らがホームページの情報を容易に利用できるよう、ホームページの問題点を点検・修正するシステム(ウェブアクセシビリティシステム)を開発し、制度面・運用面の課題などについて調査研究を行ってます(平成14年度版情報通信白書より)。

このように行政側が一体となって高齢者のIT教育に力を入れ、規制緩和策を図ると、そこには「IT介護」というシステムが生まれるかもしれません。特に、高齢者が利用したいというホームページは無限にあるわけではありません。例えば、将棋関連のページだけが現れるようなリンク集をつくり、ブラウザーの「お気に入り」に登録しておいてあげればよいわけです。高齢者の場合はインターネットのすべての機能を教えなくても十分のなので、工夫次第で「IT介護」効率の良いサービス産業になるかもしれません。

医療関係者が高齢者にITを指導する時代

最近では、PCカメラを設置しておけば、その場所からの映像を連続的に中継できるシステムが販売されています。例えば、家庭のなかのある場所に設置しておけば、外出先でも電話をしながら保育園にいる子供の様子を見たり、離れて暮らしている高齢の肉親の様子を見たりと、家族を守る立場のものとしては便利な装置です。安い投資で実現できるようになったことで、両親などの介護に応用する人は増えていくことでしょう。また、医師のそうした機能を利用して、遠隔医療を実現できるかもしれません。タブレットPCや常時接続の普及によって、そうした可能性は今後、急速に拡大していくと思われます。

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