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臨床とインターネットの接点⑱

Medical Tribune 2002年9月26日 56ページ ©︎鈴木吉彦 医学博士




広告型検索システム  医療情報が広告で誘導される

広告バナー表示には多くの工夫

 インターネットを利用する魅力の1つに,検索エンジンを利用できることがあります。そうした検索サイトの主な運用資金源は広告バナーからの収益で,広告バナー表示の仕組みとして,さまざまな工夫がなされています。一般的な仕組みは,ホームページを見に来た訪問者すべてに同じバナーを見せる方法です。スポンサーに対しては,広告バナーの表示回数がレポートとして報告され,表示回数によって広告料金が変わります。運営企業の方針にもよりますが,1週,あるいは1か月ごとに分析レポートをつくり,広告料金を細かく分けている会社もあります。また,クリック保証型のバナー広告という仕組みもあります。広告バナーにクリックをしたかどうかを知るための仕かけをし,クリック数に合わせてスポンサーに広告を請求するというシステムです(図1)

 一方,会員制のホームページでは,会員のプロフィールを登録していますから,そのプロフィールに合わせて表示画面を切り替え,広告バナーを切り替えたりすることが可能です。こうした仕組みの概念を「One-To-One」とか,「ターゲッティングをした広告システム」と呼びます。例えば,プロフィール登録時に,循環器に関心があると登録すると,循環器関連の薬剤に関する広告が表示されるようになります。利用者にとっては,より関心の高い内容を広告・宣伝してくれるので,ありがたいと感じやすいわけです。スポンサーにとっても,宣伝をしたい対象にターゲットを絞って効率よく宣伝できるため,表示回数が少なくても,広告価値は高いことになります。

キーワードに連動した広告バナー

 検索する単語によって,広告バナーを変えることができます。例えば,diabetesという単語を入力すると,画面上には糖尿病に関係した広告バナーが表示されます。これは,diabetesという用語に検索エンジンが反応し,データベースと照合しながら特定の広告バナーを選択しているわけです。米国の医学系サイトでは,見かけることが多かった仕組みですが,広告料に見合うほどの宣伝効果がないせいか,最近では目立たなくなりました。 

 しかし,今でもよく見かけるのは,書店などが運営するポータルサイトでの利用です。利用者の興味を検索エンジンのプログラムが自動的に判断し,売れ筋の書籍を表示させることにより効率よく宣伝します。その広告を見た人がその書籍を購入する確率は高く,書籍の売り上げに貢献しているようです。また,検索する単語の頻度や,それによって販売まで結び付いた書籍などの動向を分析していくと,市場調査が可能になります。売れ筋の書籍は何かというだけでなく,どのような検索をした読者層の人たちが書籍購買に結び付いたかなどまで分析することで,そのノウハウを活用できるというメリットもあります。(図2)

利用者の盲点を利用

 無意識に使っている検索システムでも,表示された結果がなぜその順番に表示されているかを考えたことがある人はまれだと思います。最近,注目されている「広告型検索システム」は,そうした利用者の盲点を逆手にとって利用したもので,今後、社会的問題になるかもしれません。

 このシステムでは,検索ポータルの検索項目にある単語を入れると,検索結果の表示内容が管理され,広告バナーとしてではなく,検索結果として表示されます。キーワードごとに広告主にオークション形式で入札させておき,検索結果は入札額の高い順に表示されます。一般に利用者は「検索結果として表示されたリンク先は,なんらかの基準で優先される価値があって,それに従って表示基準が決まっている」と思い込んでいるため,上のほうからクリックします。その結果,広告料が高い順に利用者はクリックすることになります。スポンサーは,そのクリック回数に応じて入札で約束した金額を支払うという契約になっているので,このシステム(というより「仕かけ」)は,実際にはポータルサイトの収益増に多大の貢献をするわけです。

 しかし,このシステムは,お金を沢山支払ったスポンサーの意図によって利用者を誘導することになります。そのため,米国では連邦取引委員会(FTC)が実態調査に乗り出し,検索エンジンサイトでの広告型検索エンジンの採用に対し,強く改善を指示しているようです。(読売新聞,2002年7月22日)。特に検索する前段階で,特定のスポンサーのサイトを優先的に表示するのか,スポンサーとは関係なく有料サイトを表示するのかを明確を区別し,利用者にわかるようにしなければいけないと警告しています。つまり,広告型検索の仕組みを利用者にきちんと説明するよう指示しているわけです(図3)。

 FTCによると,利用者の6割が広告型検索の存在さえ知らずに,検索サイトの表示通りに上からクリックしているのですが,一度その存在を知った利用者の8割は,広告型検索と通常の検索を区別すべきだと考えています。純粋に検索したと思った結果が,スポンサーによる利益誘導型の結果になっている事実を知れば,公平な結果を知りたいと思う利用者は,おそらく今後はそうした広告型検索エンジンは使わなくなると考えられます。

野放図な普及に注意の目を

 わが国でも薬剤のデータベースや病院・診療所検索などのデータベースがインターネットで公開され,検索エンジンで検索できるシステムが提供されています。検索結果をどのような順番に表記していくのかは,その論理の構築については,検索エンジンのなかに書き込まれたプログラムによって,いかようにでも書き換えることができます。

 例えば,ある疾患に関連したあるキーワードで検索をすれば,ある特定の薬剤が必ず検索結果の一番上に表示されるというプログラムをつくることは容易です。そうなると,その検索エンジンを利用した医師たちは,あたかもその薬剤が最も広く処方されている薬剤だと思うかもしれません。あるいは,病院・診療所検索などのデータベースを利用した患者では,まず先に表示された施設から受診を考えるでしょう。高い広告料を出してくれる製薬企業や医療機関に有利になるように,利用者を意図的に誘導することは簡単な技なのです。

 今後,医療機関における広告規制が緩和されれば,インターネットを広告用媒体として積極的に利用しようとする医療施設や製薬企業が増えてくると思います。そのような時代になったときには,広告型検索エンジンに埋め込まれた意図的なプログラムによって,実際の公平な医療機関の評価とは異なる論理のもとに患者が誘導される可能性があります。時には患者にとって好ましくない民間療法へ誘導される危険もないとは言えません。そのような危険を回避できるよう,広告型検索エンジンが野放図に普及しないように,医療分野においても注意の目を光らせておく必要があると思います。

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