雑誌名:Medical ASAHI 62ページから64ページまで コピーライト、©鈴木吉彦
日本の医療システムには、いろいろな問題が潜んでいる。特に最近、マスコミなどにも取り上げられ、目にすることが多いのが、「MRを増やすべきか、減らすべきか」を悩んでいる製薬企業が多いということだ。その背景には、日本の医薬品市場がアメリカに次いで世界第2位にまで伸びたため、自販に踏み切る外資系製薬企業が増えたことがある。自販体制をとれば、システムに関する諸費用、人件費(MRなど)の増加などを伴うことになる。しかし、そのぶん生産から販売まで一貫したシステムを構築でき、企業の独自性を発揮できるので、メリットも多い。そして、外資系製薬企業がMRを増やせば、日本系製薬企業もMRを増やす必要が出てくる。
●「MR君」の誕生
Medipro(インターネット上の医師向け医療情報の取得に役立つ仮想協力空間都市)には、多くの製薬企業が情報を提供している。現在、情報を提供している製薬企業だけでも、表(http://www.so-net.ne.jp/medipro/sc.htmlを参照)の通りであり、毎月、約1社から2社ずつの速度で増え続けてきた。こうした提携の製薬企業の数社から、上記の問題を「インターネットを利用して解決できないものか」という相談を1999年年初から受けるようになっていた。しかし、1999年の後半はY2K問題で振り回され、じっくりと腰を据えて考える余裕がなかったのである。
Y2Kが一段落すると、すぐさま、この問題に対する解決(Solution)を求める要望が、多くの製薬企業から寄せられるようになった。そこで、ためていたアイデアを整理し、インターネット上で仮想MRを作ってはどうか、と発想した次第である。
●「MR君」とは?
「MR君」とは、My Mediproの画面の上に表示されるMR個人個人のメッセージバナーを利用し、医師とMRとが互いに連絡を取り合ったり、MRが医師に対して薬品のオンラインプレゼンテーションができるようにするシステムのことである。つまり、My Mediproが持つOne-To-Oneという機能(ホームページ上で利用者にプロフィール登録を義務づけ、内容を閲覧する際には利用者のプロフィールに合わせて内容を表示する仕組みのこと)を生かし、1人の医師に対して、複数のMR君がメッセージバナーを表示させ、プレゼンテーションができるようにする、というのが基本的なシステムの設計図だ(図1)。医師はこのMR君をクリックすることで、新薬の情報や、研究会の案内、新しい文献や知見などを入手することができるようになる。
また、医師は自分で選んだMR君を、画面に表示させておくことができ、好きなときにそのメッセージを読み、かつ、リアル(現実社会)のMRに連絡を取ることができる。リアルのMRは「MR君」を通じて、迅速にコールを受けることになる(図2)。インターネットゆえに瞬時に、コールを受けることができるようになるわけである。なお、そのコールはMRの会社のPCでも、自宅のPCでも、携帯電話でも、あるいは、電子手帳などでも受信することが可能である。つまり、リアルのMRは地球上のどこにいても、特定の医師からコールを受け、特定の医師へメッセージを送ることができるようになる。
また、医師もMRに対し、いつでも、どこからでも、コールをすることができる。医師からのコールはMRに対して、非常に迅速な速度で到達するので、医師はこれまでよりも何倍もの早さでMRから返事をもらうことができるようになるだろう。つまり、「MR君」は、医師にとってもMRにとっても、お互いを速く結びつける便利なシステムになるはずである。
さらに、リアルのMRは「MR君」を通じ、医師が欲しがっている情報を、医師の仕事の邪魔をしないように配慮しながら、送り出すことができるようになる。電子メールと異なり、MRが医師の自宅のパソコンにジャンクメールと間違われるような形で、薬品の宣伝をメッセージとして送るという行為をしないですむ。医師もMRからの連絡を、情報なのか、宣伝なのかを選別しながら読むことができる。
これは、医師にとっては、非常に安心であり、効率的な情報取得手段となるだろう。つまり、「MR君」は医師とMRとのリアルの社会における関係を、そのまま、インターネットの世界に応用するシステムである。人と人との良好な関係を、ネット上でも保つことができる点がポイントとなっている。
また、医師とMRとの情報の交換が、「My Medipro」という医療関係者限定の空間で行われるという点もポイントのひとつといえる。そのため、患者や、他の医療関係者の介入は許可しない。つまり、1人の医師と、1人あるいは複数の製薬会社のMRとが、One-To-Oneでのコミュニケーションの世界を作ることを可能にするのである。
●リアルのMRの仕事をサポートする「MR君」
この仕組みは、多くの製薬企業のニーズから生まれるものである。20社以上の製薬企業にもこのシステムを説明したが、非常に関心があるという意見ばかりだった。「ぜひ、採用したい」という企業もすでに多くある。一方、医師側の意見はどうだろうかということで、このシステムを複数の医師にもヒアリングをしてみた。すると、見る医師たちが皆が驚き、そして喜んだ。皆一様に「これは、便利だ!」という意見であった。
つまり、医師にとっては、これまではMRさんたちは用事があるときは見当らず、用事がないときに病院の廊下で待っている、というイメージがあった。このシステムを用いれば「お互いに用事があるときにだけコミュニケーションをとれるから便利だ」、という意見が多かった。Mediproにはいろいろなコンテンツがあるが、それらの情報の価値よりも、「この医師とMRとの連絡システムのほうが面白い」「これなら利用する」「価値が高い」という評価が大多数を占めた。さらに、「この画面は医師ひとりひとりが医局を持つようなイメージだ」という感想を述べる医師もいた。
つまりこのシステムは、医師にとっても大きなニーズがあるということが判明したといってよいだろう。「MR君」は医師と製薬企業の両者にとって非常に意義のある、これまで効率が悪いと感じていた問題点に対して解決策を提案しているシステムである、ということを確信するに至ったのである。
●これまでのシステムの非効率性を分析する
これまでは、医師とMRとのこうした情報交換は、どういう形でなされていたのかと、改めて考えてみた。例えば、多くの勤務医が働く病院では、医師はこうした情報をMRから廊下などで入手していた。訪問規制のためにMRが医局に入る時間を制限されている病院も多くある。外来診療が終わった時間を狙って、複数のMRがひとりの医師を待っていて、診療後には皆で医師に駆け寄り、いっせいにプレゼンテーションをすることも少なくはない。そうした情報のやり取りはいうまでもなく非効率的であった。
また、医師側から見れば、廊下でのプレゼンテーションは、時には迷惑だったりするわけである。廊下で立ち止まって、新薬の情報をじっくり聞くというのは、難しい。また廊下には患者が座っていることもあり、気を遣いながら話をしなくてはならない。
つまり、せっかくMRが何時間も待って、かつ親切に医師に説明する内容も、結局は医師にとってはあまり頭に入らないことも多いのだ。「後で、じっくり説明してください」といって、せっかく待ってもらっていたMRの苦労を無駄にしてしまうことも少なくない。
●MRが医師に手渡すパンフレットも効果薄
「医師に接触する時間が短い」「話をする機会を持ちにくい」という現状があるため、リアルのMRはできるだけ短時間に、医師に濃縮した情報を渡す必要がある。そのひとつの手段として、これまでは、パンフレットという紙の媒体を作り、それを「先生、後でお時間があるときに、お読みください。○○薬をよろしくお願いします」という形で手渡しをする。廊下で医師はそのパンフレットを手に取り、必要だろうと考えればそれをもらい受ける。
しかし、実際のところ、医師はそのパンフレットを、その場では、白衣のポケットに入れることは入れるのだが、その後それは邪魔になることが多い。医局のメールボックスに入れて、そのままになってしまったりする。また、自分の机の上に置いて、書類の山の中に埋もれて、結局見ないでしまう医師も多いに違いない。
また、せっかくもらったパンフレットも、診察の邪魔になる場合、捨ててしまうことも少なくない。そして、数日たってからそのことを思い出し、改めて情報を入手したいと医師が思ったとしても、なくしてしまっているのだ。つまり、せっかくMRが苦労して手渡しをしたはずの貴重な薬品情報が医師の目に触れられず、無駄になっていることも多い。これは、医師にとっても、製薬企業にとっても、残念なことである。
●「MR君」は医師とMR両者の効率性を高める画期的なシステム
My Mediproの「MR君」が持つ医療業界にとっての最大のメリットは、製薬企業のリアル社会のMRが、インターネットという世界の「MR君」を通して、担当する医師へ、しっかりと迅速に医薬品情報を届けられることにある。医師も「MR君」によって、治療に必要な情報を、スピーディーかつ確実に入手できるのである。
このインターネットによる、MRおよび医師に向けての業務支援システムをしっかりと構築することができれば、確実に医師のためになると私は思う。きちんとした情報を受け取ることについて、それを喜ばない医師はいないはずだ。「本当に正しい医薬品情報を迅速に欲しい」と、医師やMRは皆そうしたシステムが生まれることを望んでいる。さらに、「MR君」はリアルのMRの仕事の効率性を高めるシステムでもある。医師、MRがともに待ち望んでいたシステムが、ついに誕生したといって差し支えないと思う。
雑誌名:Medical ASAHI ●●●●年 ●月 朝日新聞社
62ページから64ページまで コピーライト、©鈴木吉彦