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第13回 IDF報告

第137号 1989年1月15日発行  ©️鈴木吉彦

万人に通用し、普及されるかたちのコンピュータ,いまだ遠し

Micro Computer in Diabetes Care

 IDFの第3日目は晴天に恵まれた。第1会場の大ホールではおよそ200人の参加者があり、ナースと思える若い女性も目立った。ここで、Dr.P.Drouin(フランス)とP.Wise(英国)との司会によるMicro computer in diabetes care というセッションが開催された。演者はJ.Yudkin(英国),K.Matsuoka(日本),R.Mazze(米国),M.Cohen(オーストラリア)らであった。

 昨今のコンピュータ技術の開発はめざましく、その医療分野における応用は多くの施設で実用的段階に入ろうとしているが、必ずしも合理的といえる面ばかりではなく、多くの問題を抱えている。今回のセッションでそれらの問題解決のための糸口が見つかるであろう多くの期待がかけられていた。

3年間で全く進歩なし

 しかし、結論からいうとその期待は大きくはずれた。内容の多くは1986年アメリカ

糖尿病学会のサテライトシンポジウムで発表されたものとコンセプトの上ではほとんど同じであったし、むしろこの分野が3年間で全く進歩していない事実を物語っていたからである。

 Dr.Mazzeのテーマは新データ処理システムについてだったが、血糖値をランダムデータとして扱っただけのことで数学的処理上のminor changeにとどまり、血糖調整上に必要な自律神経障害や運動療法などのバックグランドの入力が困難であることなどから、臨床応用への道のりは遠いといった実感だった。また、実際にそれを活用している患者が少ないことも、その実用化の困難さを物語っていた。

 さらに、そのシステムが本当に患者教育の補助となりえるのか、といった問題の追及について、具体的には、興味がない患者に対して実施した場合はどうだったか、血糖コントロールに自信をなくしている人を救えたか、などの問題には触れられていなかった。

コンピュータを計算能力以外で役立てるには発想の転換が必要

 Dr.Cohenのアプローチはコンピュータ画面を用いた教育についてだったが、話を聞いている内に、費用のことばかりが気になった。つまりコンピュータのテキスト画面は高価で採算がとりにくく、制作段階での経済性といった点で問題があるからだ。この点についてCohenはコスト面での安全性も主張していたが、しかし、コンピュータの維持、画面校正、version upの際にかかる費用などには触れていないのは、物足りない気がした。

また、教育ツールとしてのコンピュータの役割についても、掘り下げて考えるべき点が多く残されていた。たとえば本であれば、知りたい情報に自由にアクセスできるのに、コンピュータではそれができず、これは一定の思考しかたどれない人間をつくることになりかねない。また、繰り返し学習するといった態度も、失わせかねない。それが患者教育に得かどうかをまず考えなければいけないだろう。

 また、若い人ならコンピュータに慣れていくだろうといった発想も安易に思われた。つまり、若くても日常的にコンピュータを扱う人は限られるわけであるし、またそれができる人ほどの聡明な青年ならば、来院時のムンテラや電話連絡だけで意志の疏通をはかることができるからである。

 結局、コンピュータの魅力は計算能力でしかなく、通信ツールや教育テキストとして役立てるにはよほどの発想の転換が必要である、といった印象を受けた。

他のメディアとの相互応用 ~テレビ電話とホームファクシミリ~

 松岡はやや違った話題としてテレビ電話とホームファクシミリを取り上げた。これは数ヶ月前から本院(東京都済生会中央病院)で患者との通信に応用しているシステムで、誰でもが使える視覚と聴覚を同時に利用した通信メディアであると思う。そして、相手を確認することができる点、また血糖値や医師の指示などの通信にも役立てることができる点、またハードコピーをとれば、指示内容を記録できる点などで、外来と同じレベルの状況をつくることが出来る。まだ全国的に普及していない点では今後の課題であるが、若年患者のために夕方に外来を開き、彼らを通学できるようにしたり、遠距離患者との交信に実用化できたら、と考えている。そして今後は、コンピュータだけにこだわらず、このような他のメディアとの相互応用も考えなければいけないと思う。

 セッション終了後、Dr.Duoirの話によるとフランスのミニテル(国家計画で実施している全国的コンピュータコミュニケーションシステム)は、実に有力で実用的なメディアだそうだ。彼の話しぶりを聞いている内に、コンピュータ通信の応用ではフランスが最先進国になるだろう、と思われてきた。そして私たちも国家的規模で広がるメディアを活用するといった彼らの考え方を学ぶ必要がある。

 ともかく、コンピュータを使えば何でも出来るといった安易な考えは、そろそろ捨てなければいけないようだ。とくに患者教育に用いる場合には、人間教育のあり方や論理的、倫理的、経済的問題、さらに文化の進歩の程度などにより大きく左右され、統一的コンセンサスを得たものをつくるのは難しい。よって今後はコンピュータの役割と限界といったものをもっと現実的な面から見つめ直し、たとえ多少レベルを落としても、万人に通用し普及されるかたちでの開発が期待されるだろう。

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